第29回「Don't Look Back」(1978)/Boston | 柑橘スローライフ

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1970年代後半から、「アメリカンハードロック」という、
ひとつのロックのジャンルが明らかに形成されていきました。

そのアーティストとしては、TOTO(トト)、Journey(ジャーニー)、Foreigner(フォリナー)、
そして、今回のBoston(ボストン)などが代表的と言えます。
当時「アメリカンハード」と呼んでいたのは、決して「アメリカのハードロックバンド」
という意味ではなく、どちらかというとそれほどハードでもなく、メロディアスな曲調を持ち、
どちらかというと、チャート狙いのロック音楽を指していました。
極論すると、ボストンやジャーニーをほとんど「アメリカンハード」の音のイメージと考えても、
間違いではないでしょう。トトなどはそもそもフュージョン寄りですからね。
ですので、エアロスミスやヴァン・ヘイレンなどのハードロックを指すのではなかったわけです。

しかし、当時のボストンは他のバンドと決定的な違いがありました。
いや、そもそも「バンド」とも言えないのですが、
ボストンは基本的に「イコール=トム・ショルツ」ということなのです。
つまり、彼が作詞・作曲・編曲・ヴォーカル(初期のみ)・全ての楽器演奏・
録音エンジニア・ディレクションなど全てを一人多重録音で制作した音楽。
それがボストンで、言うなれば、超天才マニアによるロックミュージックなのです。

この2枚目のアルバムとなる「Don't Look Back(ドント・ルック・バック)」の
表題曲「Don't Look Back(ドント・ルック・バック)」もそうした形が基本となっている
と思いますが、一応バンドメンバーによる演奏という形をクレジット上ではとっています。
これにはレコード会社やライブ活動との兼ね合いが合ったようです。
ただ、トム・ショルツによるしっかりとした指示通りに機械的にメンバーがやっているか、
或いは、実際にはトム自身が一人(ヴォーカル以外)でやっているかの何れかだと思います。
一応バンド形式による、この曲のライブ風ヴァージョンがありますが、
音源はスタジオ版そのもので、「口パク」「音パク」なので、実際には誰がどの楽器を
演奏しているかなどの判別はつけられません。

トトのスティーブ・ルカサーであったか、ジャーニーのメンバーの誰かであったか
忘れてしまいましたが、30年近く前に、音楽雑誌に語っていたのを思い出しました。
「ボストンのライブを見たことあるかい? 彼らは全くホットじゃないよ。
ステージ上でほとんど動かないんだよ」といった要旨でした、確か。
当時のトム・ショルツ以外のバンドメンバーはただトム・ショルツの音楽を再現している
だけの言わば傀儡のようなメンバーなので、ホットなわけがないわけです。
(1986年のサードアルバム以降はわかりませんが)
ただ黙々と作業に没頭していたというだけなので、リスナーとのコミュニケーションは
二の次、三の次ということだったのでしょう。
それが証拠に、トム・ショルツ自身、「ボストンの最大のファンは自分」というような事も
言っていたと思います。とにもかくにもトム・ショルツのナルシズム爆発の世界ですが、
これだけ徹底していると逆に清々しささえ感じますね。

ボストンというと、なんといっても独特の音質のトム・ショルツのギター・サウンド。
ギター演奏は独学。アタッチメントは自作。何から何までヒムセルフです。
この独自の音質の個性は、クィーンのブライアン・メイのギターサウンドといい勝負です。
私も高校時代などはよく真似事で弾いたりしたものでしたが、
どんなエフェクターを使ってもこの「音質」は出せませんでした。
何か耳触りが良いというか、気持ちの良い音なのです。
このエフェクターなども彼の発明らしく、彼はミュージシャンである前に、
優秀なエンジニア、いや本物の発明家であって、
特許も音楽関係に限らずいくつか取っているようです。

そして、何から何までトム・ショルツというボストンではありますが、
もう一人名前を挙げるとすれば、ヴォーカルのブラッド・デルプで、
この人の声も非常に高いキーで、またリードとコーラス全てのヴォイスを
多重録音しているようです。この人の声質もトム・ショルツのギターの音質同様、
ボストンサウンドの「顔」と言えると思います。

余談ですが、私はヴォーカルの録音時に多少テープスピードを遅くしているか、
完成されたマスターテープ全体のピッチを上げているかの何れかではないのかという
疑念を今でも持ち続けています。いくらなんでもこの声は無理だろうという
思いであって確証はないのですが、とにかくそれだけの疑念を抱かざるを得ない
凄いヴォーカルワークなのです。
トム・ショルツならば、そのくらいのことはやりかねないだろう、そんな感じです。

どう聴いても「ホットな多人数メンバーによるホットなサウンド」です。
ぜひ一度聴いてみてください。



第30回「Don't Stop The Dance」(1985)/Bryan Ferry


過去記事一覧
第1回「Sexy Sadie」(1968)/The Beatles
第2回「Ask Me Why」(1963)/The Beatles
第3回「Epitaph」(1969)/King Crimson
第4回「Speak To Me~Breath」(1973)/Pink Floyd
第5回「You Never Give Me Your Money」(1969)/The Beatles
第6回「Achilles Last Stand」(1976)/Led Zeppelin
第7回「Babylon Sisters」(1980)/Steely Dan
第8回「What A Fool Believes」(1978)/The Doobie Brothers
第9回「New Kid In Town」(1976)/Eagles
第10回「Your Mother Should Know」(1967)/The Beatles
第11回「Take It Away」(1982)/Paul McCartney
第12回「Pretty Maids All In A Row」(1976)/Eagles
第13回「I'm Not In Love」(1975)/10CC
第14回「A Whiter Shade Of Pale」(1967)/Procol Harum
第15回「Give Me Strength」(1974)/Eric Clapton
第16回「We Are The Champions」(1977)/Queen
第17回「Honky Tonk Women」(1969)/The Rolling Stones
第18回「Miss You」(1978)/The Rolling Stones
第19回「My Ever Changing Moods」(1984)/The Style Council
第20回「Hey Bulldog」(1968)/The Beatles
第21回「Here Today」(1982)/Paul McCartney
第22回「Alone Again(Naturally)」(1972)/Gilbert O'Sullivant
第23回「Good Night」(1968)/The Beatles
第24回「The Nightfly」(1982)/Donald Fagen
第25回「It's Too Late」(1971)/Carole King
第26回「Happy Xmas」(1971)/John Lennon
第27回「Better Make It Through Today」(1975)/Eric Clapton
第28回「Tell Her About It」(1983)/Billy Joel




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