以前、本ブログで、東京都心のマンション価格が上がっていることについて、これまでのような意味での「不動産バブル」ではなく、高齢化によって便利な都心に住みたい人が増えていることが1つの大きな要因になっていると述べた(→過去ログ1、過去ログ2)。
たとえば、それまでは駅10分の世田谷の一軒家に住んでいた夫婦が、引退して移動がしんどくなり(また自分たちが亡くなったあとの子供への相続対策にもなるので)、駅3分の湾岸地区のタワーマンションに引っ越すといったイメージだ。
その後にいただいたご質問が、「都心のマンションが上がるのはわかったが、では、なぜ都心のオフィス賃料も上がっているのか」といった内容だった。それなりの説明が必要なので、今回、記事としてまとめることにした。
都心のマンション価格とオフィス賃料については、上がるべき共通の要因がある。それは言うまでもないだろうが、デフレ脱却の寸前まで来て、多くの人がインフレを期待していることである。
たしょう回りくどいかもしれないが、経済状況の経緯から説明してみたい。
現在の安倍政権=黒田日銀総裁の体制になって、大規模な金融緩和が実行され、お金が金融機関を通してたくさん流れるようになり、景気がだいぶ上向いていると感じる人が増えている。
これまでの不況の大きな要因となっていたのはデフレーション(デフレ)である。
デフレとは商品やサービスの値段が下がっていくことである。主な原因は、お金の量が減ってお金が回らなくなっていることだ。
お金を使う人が少ないと、そのぶん商品は作ってもあまり売れないので、値段を下げて数で利益を出そうとする。だが、値段を下げても数が出ないと、商品を作っている人や売っている人の人件費も削らなければならなくなる。人件費を削ると人々の給料が減って節約するようになる人が増えるので、お金はさらに回らなくなる。お金が回らないと、物はさらに売れなくなって、回るお金の量はどんどん小さくなっていく。
この悪循環が、いわゆるデフレスパイラルと呼ばれる現象だ。
250円でそれなりの牛丼が食べられるような「これまでよりお金の価値が高い」というデフレ状態では、多くの人がお金について「使うより、先のためにとっておこう」と思うものだ。お金の価値が上がっているので、時間を置いたほうが得になるからである。
これはいわば、お金に「バブル」が起こっている状態だと考えてもよい。ダイヤモンドが人気になるとダイヤモンドの価格がどんどん上がっていくように、デフレではお金が人気になって、お金の価値がどんどん上がっていく「お金バブル」である。
これは企業も同様で、内部留保としてそのまま持っていたほうが得だったので、果敢に設備投資したり企業買収したりする企業が少なかった。こういう企業は、いわば現金に投資していたのである。
デフレから脱却するには、「こういう状態は続かないんじゃないか」とみんなが思えばよい。その重要な手段の1つに金融緩和がある。
ダイヤモンドの値段を下げたければ、ダイヤモンドを採掘して、欲しがる人が増える数より、ダイヤモンドの数を増やせばよい。それと同じように、金融緩和では日銀が日本国債をどんどん買って、お金の量を増やし、お金を「価値のあるもの」から「ありふれたもの」にする。
日銀は、日本経済をデフレから脱却させるために、金融緩和によって、いわばお金のバブルを弾けさせようとしていたのである。
金融緩和でお金が増えると、最初にお金が流れる先が財産や資金のある人たちである。つまり、金融機関を中心とした大企業と富裕層だ。
こういう人たちは、「お金のバブルが弾けそうだ=現金の価値が落ちそうだ」と思ったら、国債や社債などに入れていたお金を、株や不動産に移す。国債などのリスクの小さなものをたくさん持つことがリスクオフ(下がるリスクが高い状態なので、安全策をとること)、株や不動産をより多く持つことがリスクオン(下がるリスクが低い状態なので、リスクはあっても儲かりそうなものに投資をすること)と呼ばれる。
デフレから脱却するには、まずリスクオフの「持っている層」をリスクオンにする必要がある。この層が「お金のバブルが弾けそうだ」と考えて、その対策を打つだけでも不動産価格は上がることが多い。
ただし、1つだけ留意すべきことがある。
そういった人たちが買う不動産は、あくまで売り買いのしやすいものでなければならないことだ。売り買いしやすい不動産とは、平たくいえば、多くの人が欲しがる不動産のことだ。東京でそれに該当するのは、オフィス街なら丸の内や新宿、住宅地なら青山や番町といった都心の一等地だろう。
だから、リスクオフからリスクオンの心理状態になると、株価が上がり、その状態が長く続くと、まず都心の一等地の不動産価格が上がりはじめる。
ところで、東京には、丸の内や青山以上に不動産価格が上がっている場所があるのだが、どこだかわかるだろうか?
銀座である。なぜ銀座かと言えば、ほかの場所と比べると、円安によるインバウンド効果(=旅行者効果)がとても高いことにある。
中国人を中心とする多くの外国人観光客が日本にショッピングに来ているが、彼らがまず目指すのが銀座だ。銀座に行けば、世界の名だたるブランド品が手に入る。しかも、どの店もアジアにおける旗艦店ばかりなので、本物がいち早く本来の価格ですぐに買える。
だから、各ブランドや一流品を扱う会社が、観光客相手にひと儲けしようとすれば、日本一の商業地区・銀座のいちばん良い場所を確保しようとする。ショッピング客が増えれば、まず銀座の地価がいのいちに上がる。
次に地価が上がるとすれば、高級な商業地区と高級住宅街の両方を抱えている青山や六本木といった港区の名だたる商業地区=オフィス街=高級住宅地だろう。インバウンド効果と人の都心への移動の両方を享受するからである。
では、今回のテーマである都心のオフィス街はどうだろうか。
「景気が良くなっているんだから、オフィス街も上がるに決まっている」と思った人が多いかもしれない。もちろんそれも正解だが、もっと大事な要因がある。
というのは、日本はアメリカと違い、大企業の入れ替わりが少ないので、ニューヨークのマンハッタンのように「好景気で大企業が大挙して新たにオフィスを借りる」という状態にはならないからである。
ところで、私は散歩が好きで、時間があれば都心を中心に歩き回っている。そのときに最近感じるのは、都心の良い場所であっても、雑居ビルに空きオフィスが増えていることである。
東京であっても若年人口は低下傾向にあり、そうなれば会社も増えにくいので、当然、オフィス需要も減る。だから、東京であっても空きオフィスが増えるはごく自然である。
では、それでもオフィス賃料が上がる理由はなんだろうか。それには、東京とくらべると桁違いのオフィス賃料が高いロンドンのことを考えるとわかりやすい。
東京に比べると、ロンドンはニューヨークにならんで都心の地価がべらぼうに高い。それは、「元気なイギリス企業がたくさんあるから」というより、「ロンドンにオフィスを持ちたい企業が世界中にあるから」だろう。
イギリスは1980年代、サッチャー政権下で金融と通信の完全自由化を実施して、法人税の大幅切り下げを断行した。その結果、世界の大企業がまずロンドンにオフィスを構えるようになり、ロンドン、パリ、フランクフルトなどの「ヨーロッパの中心」をめぐる戦いにロンドンが完全勝利してしまう。
世界中の企業がオフィスを構えようとすれば、ロンドンのオフィス街の賃料がべらぼうに上がるのは当然である。
また、そのオフィスで働く高収入のビジネスマンもロンドンに住むようになるので、その近くにある住宅街、とくに高級住宅街も賃料や地価も上がっていく。東京のオフィス街の賃料が上がっているのもこれとほぼ同じ理屈である。
東京、上海=香港、シンガポールなどの「アジアの中心」をめぐる戦いで、これまで防戦一方で沈み込んでいた東京が、アベノミクスで頭1つ抜け出しはじめ、世界のトップ企業が再びオフィスを構えるようになってきたからである。
それは、1つにはハブ空港の争いで、政府が不便な成田を事実上捨てる覚悟を決め、羽田の拡張で対処しはじめたことである。また、これまで羽田へのアクセスを阻んでいたJRとANN=JALの国内移動の縄張り争いが終結し、都心から羽田のアクセスがどんどんよくなっていること、安倍政権=舛添都知事によって、東京におけるビジネスの自由化が進んでいることなど、ビジネス環境が向上しはじめたことが小さくない。
ただし、東京の「アジアの中心」化を大きく阻んでいる頑強な要因が2つある。英語でサービスが受けられないという言語的要因と、法人税が高いという財務要因だ。
もしこれらを完全に払拭できれば、東京はアジアの中心地をめぐる戦いに勝利して、東京が「次のロンドン」になる可能性が高い。そうすれば、東京都心のオフィス街の賃料は急伸していくことになる。
現在はその過渡期(あるいは期待期)にあり、だからこそ、オフィス需要が増して賃料が上がっているのである。
ただし、東京都心で不動産価格が大きく上がるのは、名古屋・関西・福岡などの国内主要都市や世界の主要都市にアクセルの良い場所にある、最新設備が揃い他の一流企業が同居しているようなインテリジェントビルだ。すばらしいビルでもアクセスが悪かったり、アクセスが良くてもビルの機能が悪ければ、恩恵を受けにくい(後者はむしろ再開発によって恩恵を受けやすいだろう)。
最先端のビジネスはTime is money.なので、無駄なく高効率にビジネスできる場所が選ばれる。そういった場所は、東京が国際化すればするほど、さらに需要が高まり賃料や地価が上がる。
マスコミでは、「今はバブルだ」とか「とりあえずオリンピックまでは上がるが、そこからは下がる」など、根拠なく語られているが、適切ではないだろう。そもそもオリンピックは現在の不動産上昇と直接の関係はないはずだ。でないと、なぜ名古屋や福岡の地価が上がっているのか説明できない。
ポイントとなるのは、「東京がアジアの中心地になるかどうか」、もっと言えば、「そのための制度的な整備ができるかどうか」である。それができれば不動産はさらに上がるだろうし、できなければ下がることになる。
だからこそ、オフィス街の賃料や地価の動向を考える場合は、安倍政権が法人税減税やビジネス環境の整備や自由化、「使える英語」を身につける英語教育を進められるかを見なければならないわけである。
極論を言えば、今後地価がどうなるかは、時の政権と都知事の政策しだいだ。
イギリスの故サッチャー首相は、慢性病のようにどん底まで落ちたイギリス経済を復活だせた立役者だ。だが、イギリス国民には徹底的に嫌われ、2013年に亡くなったとき、イギリス中が大喜びしてお祭り騒ぎとなった。
大学生のときイギリスの通信政策研究をやり、彼女の先見の明と偉大さに打たれた私には、本当に悲しい光景に写った。
日本にも国民におもねらず徹底的に嫌われても、なすべきことを淡々と進められる為政者が必要なのだと思う。ほかの99人がその人をどんなに嫌おうと、たとえ最後の1人になっても、子供たちの未来のために働ける為政者が出てきたら、とことん応援していきたい。


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日本にも国民におもねらず徹底的に嫌われても、なすべきことを淡々と進められる為政者が必要なのだと思う。ほかの99人がその人をどんなに嫌おうと、たとえ最後の1人になっても、子供たちの未来のために働ける為政者が出てきたら、とことん応援していきたい。

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