
オレキシンと食欲及び覚醒
今回は上に挙げたコンサータと深夜に食欲亢進の記事の続きのような内容である。少々、複雑であるし僕本人も十分にはわかっていないため厳密な記事ではない。
本来、オレキシンと呼ばれる神経ペプチドは精神科であまり意識されていないものであった。オレキシンと関係が深いナルコレプシーは稀な疾患の上、他科で治療されることが多いからである。
ところが、ベルソムラ、デエビゴなどオレキシンの働きをブロックする新しいタイプの眠剤が発売されるようになり、精神科医もオレキシンの作用について考慮することが増えた。
このオレキシンの働きをブロックするタイプの眠剤は近年増えており、例えば、ベルソムラ、デエビゴ、クービビック、ボルズィなどが挙げられる。これはイメージ的には夜間にナルコレプシー的な状況を作り出すことで眠らせると言ったところだと思う。これらオレキシン受容体拮抗薬については以下の記事を参照してほしい。
精神科医がオレキシンについて考慮するようになったと記載しているが、実際のところ、考えているうちに混乱して何がどうなっているのかわからなくなる。少なくとも、僕はよくそうなる。
オレキシンはヒトの食欲、覚醒に深く関わっており、空腹時にはこれが活性化し摂食行動を強く促す。逆に満腹になると、オレキシン活性が低下し眠くなるのである。これが基本である。
ナルコレプシーはオレキシンの分泌が不足していることで生じている。つまりナルコレプシーは、オレキシンの覚醒作用が著しく欠乏する結果起こる。ナルコレプシーの人は自己免疫反応により、オレキシン産生細胞が減少することが原因であろうと言われている。
だから、オレキシンの作用だけを考慮すれば、オレキシンの作用の欠如ないし著しい低下により、ナルコレプシーの人は日中の眠さに加え、食欲不振傾向があってもおかしくない。オレキシン活性の不足により、常時、摂食行動を促さないからである。
ところが、ナルコレプシーの人は著しい体重増加や肥満を来す人が多いと言われている。例を挙げると、ナルコレプシーと言われる阿佐田哲也氏は確かに肥満していた。麻雀の闘牌中に眠っていたと言われる。
僕の患者さんについては、N数が少ないが、さほど肥満していない人がむしろ多かったような気がする。ただし、昔の患者さんは既に薬で改善しており、外来で治療している限り、本当にナルコレプシーなのかわからないところがあった。また肥満していないことについても当時はリタリンが処方されていて、薬剤的なものも影響しているのだろうと思った。
後年、睡眠時無呼吸症候群を経験するにつれて、当時の特に肥満体型のナルコレプシーの患者さんの一部は、実は睡眠時無呼吸症候群ではなかったのか?と思うようになった。
睡眠時無呼吸症候群は呼吸が90秒とか止まり、SPo2が70代程度まで下がる人は、ヘモグロビン値が正常上限を超えることがある。これは、つまり血がドロドロになっているわけで脳血管障害などの事故が起こりやすくなる。なぜヘモグロビン値が上がるかと言うと、慢性的な脳の酸素不足による代償である。一方、ナルコレプシーは呼吸までは止まらないので、ヘモグロビン値まで影響は及ばない。少なくとも代償性にヘモグロビンが正常値を超えるような人は、CPAPをした方が予後は色々な点で改善すると思う。
なぜ、一見、食欲不振に陥りそうなナルコレプシーの人が肥満傾向になるかだが、いくつか理由がある。
まずオレキシンは、エネルギー代謝にも関わっており、これが不足することで基礎代謝が低下し肥満しやすい体質になること。オレキシンが不足すると(おそらく体内バイオリズムが悪化し)夜間不眠になりやすい。睡眠の質が悪くなる結果、食欲を増進するホルモン(グレリン)が増え、食欲を抑えるホルモン(レプチン)が低下しやすい。古い過去ログに、ナルコレプシーの人は意外に不眠などを訴えて初診すると言う記事をアップしている。
ナルコレプシーの人がオレキシン活性が不足しているのに肥満している人が多いのは、このような理由からだと思われる。
今日の記事のテーマはなぜかASD、ADHDになっている。なぜ彼らに偏食が多いかを考えていた際に、インスパイアされて今回の記事に至ったのである。
彼らによく見られる偏食の原因もオレキシンないし類似物質?が、多少関わっているのでは?と思うようになった。確かに彼らの偏食は感覚過敏(例えば匂いや色、舌触り)、特別なこだわりから来る部分が大きいようには見える。
上の記事から抜粋。
漢方薬が好きな人は問題ないが、独特な臭いや舌触りを嫌う人はけっこういる。子供は平均して漢方が苦手な子が多い。例えば、漢方ではないが正露丸の臭いや味もそうである。このような舌触りが嫌以外に、感覚の過敏性が高いことはASD的所見だと思う。例えば、
〇偏食が酷い。
〇魚、卵、特定の野菜、果物など匂いのきついものを嫌う。
〇親子丼など舌触りや食感の異なるものが混ざっている料理が食べられない。
以上抜粋終わり。
この感覚過敏やこだわり以外に、同じものばかり何度も飽きずに食べると言う特性が見られる。例えば、カレーやフライドチキンなどである。
これは特定の食物にしか報酬系が活性化しないように見える。この際、特定の食物にしかオレキシン的な食欲亢進が起こりにくくなっているのでは?と思う。これは、食行動のイントロの部分を言っている。トータルでは、報酬系だけではなさそうなのである。
ASDやADHD以外の人でも、「ケーキは別腹」と言ったりする。これは満腹でもケーキはお腹に入るよ、と言っているのである。これは満腹の状況でも、ケーキが目の前にあれば食欲が刺激されていることを示している。
正しいかどうか自信がないが、このような満腹の状況では100%報酬系と言う感じではないよね、と思うのである。
ASDやADHDの人たちがいわゆる向精神薬に過敏で思わぬ副作用が出やすいと同じように体内の神経ペプチドにもある意味、まだらな過敏性が生じているのかもしれない。
発達障害の人は、感覚過敏やこだわりだけでなく、内因性のオレキシンないしオレキシン的な神経ペプチドの反応性やバランスが悪いために偏食が生じているのでは?と考えている。