逆流性食道炎 | kyupinの日記 気が向けば更新

ベンゾジアゼピンと逆流性食道炎

 

 

前回の「CPAPの継続率の話」は今日の記事が書きたかったため、前置きとしてアップしている。

 

精神科では逆流性食道炎のために薬を希望する人が多い。あるいは内科で既に処方されている人もいる。薬としては、ランソプラゾールやファモチジンである。ランソプラゾールについては過去ログ「タケプロンの話」で長期服用による副作用について意見を記載している。

 

 

この記事の主旨は、

 

精神科でよくランソプラゾールが併用されているのは、精神疾患を持つ人がストレスから消化性潰瘍を起こしやすいのもあるのかもしれない。また、精神科患者さんに逆流性食道炎を併発している人を診るが、食事も含む日常生活リズムの乱れも関係していると思う。そのような経過でランソプラゾールを併用処方されるのであろう。

 

過食嘔吐の患者さんとランソプラゾールの関係も興味深い。ランソプラゾールを中止すると過食嘔吐が悪化する人がいるのである。

 

ランソプラゾールは「時に思わぬような副作用が出ていることがある」、「長期に連用することは可能なら避けたい」、「一部の患者さんで精神所見を改善していることがある」

 

などである。

 

逆流性食道炎は有病率が高い疾患で、なんと日本人の10人に1人が罹患している。これくらい多いと、精神科患者さんが平均より罹患率が高いかどうか判断しにくい。

 

肥満は逆流性食道炎に罹患しやすくなると言われており、精神科の患者さんは肥満している人が相対的に多いのでリスクは高そうに見える。

 

また、古い過去ログにピロリ菌の除菌の記事がある。ピロリ菌は胃酸を出にくくさせるらしく、ピロリ菌を除菌することで逆流食道炎になりやすくなる。ピロリ菌除菌は良くなることの方が多いが悪くなることもあると言ったところだと思う。

 

 

過去ログでは、身体的な状況から睡眠時無呼吸症候群ではないかと疑い、専門医に紹介した話をアップしている。
 
睡眠時無呼吸症候群の治療でCPAPを始める際に、これを悪化させる向精神薬も中止した方が良い。筋弛緩作用を持つベンゾジアゼピンである。この患者さんについてはベンゾジアゼピン中止後、数日、背部痛と腰痛が少し悪化した程度で容易に中止できた。ベンゾジアゼピンは直接疼痛の効果はないが、筋弛緩作用により肩痛や腰痛を和らげる。ミオナールと同じような機序である。
 
その患者さんによると、ベンゾジアゼピンを中止して以降、逆流性食道炎が改善したと言う。今まで胃液が逆流していたのに、胸やけ程度に収まっていると言うのである。
 
この理由を考えている時、ちょうどピッタリの記事を発見した。この記事はプレジデントオンライン(2025年10月28日)のもので、全文見るためには無料登録が必要である。
 

 

この記事は衝撃的な文章で始まる。どこが衝撃的かと言えば、抗不安薬を処方され、良くないなら精神科を紹介されると記載があること。(←悪化要因)

 

咳が止まらない。喘息を疑い、アレルギー検査を受けたが、異常はみられない。内視鏡で胃や食道を調べたがやはり問題は見つからない。漢方薬を処方されたが効果はなく、抗不安薬を処方される。これで良くならなければ、次は精神科に行ったほうがいいと医師から言われた――。

こんなふうに困り切った表情の患者が千船病院の逆流性食道炎 診断・治療センターの北浜 誠一のところに来たことがある。「検査をしてみると咳の原因は胃液の逆流でした。手術をすると咳はピタっと止まりました」

 

この記事で紹介された北浜誠一先生のプロフィールだが、

 

北浜は兵庫県西宮市で生まれ、京都大学医学部に進んだ。もともとはがん研究の道に進むつもりだった。しかし、実習先で知り合った医師が患者に献身的に接する姿に感銘を受けて臨床医となることにした。亀田総合病院で腹腔鏡手術の経験を積み、横須賀米海軍病院で臨床を行う免許を取得したあと、アメリカに渡る。腹腔鏡手術の技術を磨くためだった。そこで出会ったのが、減量手術と逆流性食道炎の外科手術だった。

 

大阪の千船病院が立ち上げた「逆流性食道炎 診断・治療センター」は一般では難しいさまざまな検査も行い、外科的な治療も行っている国内でもトップクラスの治療センターである。逆流性食道炎が生じる機序だが、

 

我々が咀嚼した食べ物は、喉の下に位置する上部食道括約筋を通って、食道に入る。食道は直径約2~3センチ、厚さ約4ミリ、長さ25センチほどの管状の臓器だ。食道はぜん動と呼ばれる筋肉の収縮で食べ物を下に送る。下部食道括約筋、横隔膜の穴を通って胃の中に入る。

我々の身体には「二重の門番」がいると北浜は表現する。「1つ目の門番は下部食道括約筋。ふだんはしっかり閉じていて、食べ物を飲み込んだときだけ開きます。2つ目は“横隔膜脚”という筋肉で、食道裂孔のまわりを支え、括約筋の補助をしています」

 

薬物治療では改善が難しい患者さんには、胃の上部である噴門部を食道の下部に巻き付けることで、下部食道括約筋を強化する内視鏡的外科手術を行う。噴門形成術と呼ばれる手術である。

 

このようなことから、おそらくベンゾジアゼピンの筋弛緩作用は2つの門番の緊張を緩めることで、逆流性食道炎を促進させている。だからこそ、ベンゾジアゼピンを中止することで、逆流性食道炎の症状が緩和するのであろう。

 

今の日本の高齢化社会では生活習慣病が増え、様々な要因が複雑に絡み合い、種々の症状を発生、脚色しているのがよくわかる。北浜医師の記事の中では、以下のような内容も記載されている。

 

「肥満症の方は、腹腔内圧が高くなり、胃が圧迫されるので逆流が起きやすい」

 

過食により胃が大きく膨らむと胃内圧が高まり、逆流がおこりやすくなる。これが長時間続くと“逆流防止の門番”の働きが弱まり、胃の一部が胸の方へずれて滑り込んでしまうことがある。下部食道括約筋の締め付けが弱くなってしまうんです。

 

加齢の影響もある。

「横隔膜脚の筋力は年齢と共に弱くなる。また、糖尿病の患者さんは筋力が落ちやすく、その影響で横隔膜の力も弱まりやすい。すると横隔膜の穴から胃が飛び出してくる。食道裂孔ヘルニアです」

 

逆流性食道炎を引き起こす意外な要因もあるという。

「過度な腹筋トレーニング、パワーリフティングのような運動も腹腔内圧を高める場合があります。また糖質制限ダイエットは、食事内容が高脂質になりがち。高脂質食は食道と胃のつなぎ目を緩め、消化管の動きを抑えるため、逆流の原因になります」

 

北浜先生たちは、このような状況で外科的手術が必要であれば、内視鏡的に噴門形成術を行っているのである。

 

このプレジデントオンラインの北浜先生の記事は、非常にインスパイアされるもので、日常臨床におけるさまざまな気付きの謎を解く鍵になっている。

 

参考

食道は精神科医にとっても十分に留意すべき臓器である。以下も参照。

 

 

抜粋

食道は上部3分の1はヒトが随意に動かせる。ここに分布する筋肉が随意に動かせるため、飲み込みに失敗した時に自力で吐き出せる。

解剖学的に食道上部3分の1は随意筋かつ横紋筋である。食道は下に行くほど平滑筋が多くなり、これらはヒトが随意に動かせない。

横紋筋はほとんど全て随意筋(ヒトの意思で動かせる)だが、唯一の例外は心筋である。これはヒトが自力で止めたりできない。心筋は骨格筋と同じ横紋筋ながら自由にできない筋肉である。

抗精神病薬の副作用のセオリーとして、ジスキネジアやジストニアなどの長期のドパミン遮断作用により引き起こされる不随意運動は、横紋筋のような随意筋にしか生じない。

言い換えると、自分の意思で動かせる筋肉にしか生じないのである。