睡眠時無呼吸症候群と夜間頻尿の話 | kyupinの日記 気が向けば更新

睡眠時無呼吸症候群と夜間頻尿の話

今回の記事はずっと前から書こうと思っていたが長くなりそうなので、なかなかできないでいた。やっと決断し本日アップする。睡眠障害には身体に由来するものがあり、その治療を優先すべきケースがあることを紹介している。また、夜間頻尿との関係に言及している。

 

精神科に来院する患者さんの中には、たまに「この人は睡眠時無呼吸症候群では?」と思うことがある。主訴の内容やその人の体型などを考慮してそう感じるのである。精神疾患を持っているが、実は睡眠障害は睡眠時無呼吸症候群による部分が大きい人たちである

 

睡眠時無呼吸症候群が疑われるケース

夜間の症状

大きな鼾、喘ぎ、激しい体動、中途覚醒、夜間頻尿、時に胸部の圧迫感、妻から呼吸が止まっていることを目撃されること。

 

日中の症状

起床時や日中の倦怠感、過剰な眠さ(ナルコレプシーと思われるような)、集中力低下、口渇、抑うつ、不安感などの精神症状も伴うことがある。

 

僕は、患者さんが睡眠時無呼吸症候群について精査した方が良いと判断した時、専門の睡眠外来に紹介する。ところが紹介しても数か月待ちのことが普通である。それくらい患者さんが来ているのであろう。

 

紹介した結果だが、なんと100%重症の睡眠時無呼吸症候群と診断されている。しかもその後、真面目なことにCPAP(持続性気道陽圧療法)という治療機器をつけて寝てくれている。これは誰もができることではない。

 

古典的には、睡眠時無呼吸症候群はそれらしき体型を持っているケースが多いとされていた。それは肥満や顎が小さいなどである。これらは日本人には比較的少なく、肥満者が多いアメリカ人に多そうに見える。ところが、近年、これらの典型的な体型を持たない睡眠時無呼吸症候群も少なくないことがわかってきたのである。

 

睡眠時無呼吸は、定義的には1時間当たりの無呼吸低呼吸指数(AHI)が5以上と定義されている。AHIは睡眠1時間当たりの無呼吸、低呼吸の合計回数を言い、睡眠中の10秒以上の気流停止、低呼吸は10秒以上の気流低下(50%以下)と3%以上のSpO2低下を認めるものである。

 

AHIが5~15/時を軽症、15~30/時を中等症、30回以上を重症と分類されている。

 

日本人の睡眠時無呼吸症候群の有病者数は軽症から含めると約2200万人、中等症以上は940万人と言われている。これは驚異的な有病率と言わざるを得ない。ところが、CPAPの在宅使用者はたった50万人しかいない。つまり、検査を受けずに気が付かないまま生活しているか、睡眠外来で検査を実施し、結果がCPAPをすべき状態でありながら、CPAPのストレスを感じて放棄してしまった、くらいだと思われる。言い換えると、CPAPを使用するように医師に勧められても、日々就寝時に付けるのが鬱陶しいのであろう。使用すると人工呼吸器をつけているような違和感があるからである。

 

CPAPを装着すべきレベルの睡眠時無呼吸症候群の人が何も治療しない場合、夜間に呼吸が止まっているため一時的なSpO2低下により低酸素血症や夜間の中途覚醒に伴う交感神経の緊張などが生じ、その結果、循環系の疾患(脳、心血管障害、高血圧、冠動脈疾患、心房細動などの不整脈)の原因になる。より健康状態を維持するためには、CPAPを付ける方が期待値が高いと言える。

 

僕の患者さんは、車を運転中、渋滞の信号待ちで眠ってしまったと言う、いかにもナルコレプシーのような主訴だったが、真の疾患は重症レベルの睡眠時無呼吸症候群であった。この患者さんは肥満があったし、体型的に十分に睡眠時無呼吸症候群も疑われるケースだったが、そうでない体型だったら速やかに診断できなかっただろう。

 

睡眠時無呼吸症候群は中枢性睡眠時無呼吸と閉塞性睡眠時無呼吸に分類されるが、後者が遥かに多い。日本人は小顎症や面長な顔つきなどの形態から、肥満がなくても睡眠時無呼吸症候群になりやすいと言われている。

 

睡眠時無呼吸症候群の診断の際に、保険適応でCPAPが使用できるかどうかは重症度による。簡易検査でAHIが40回/時の重症であればCPAPが健康保険で利用できる。簡易検査で40回/時に至らない人でも、中等度以上の無呼吸がある、または自覚症状が強いなどのケースでは、PSG(睡眠ポリグラフ検査)を行い、AHIが20回/時以上の場合、CPAPの保険適応が認められる。

 

睡眠時無呼吸症候群は、不眠、日中傾眠、中途覚醒(及び夜間頻尿)など、不安やうつ状態がなくても、しばしば精神科や心療内科に初診しそうなのは重要だと思う。

 

睡眠時無呼吸症候群は体重を減量するといくらか改善すると言われており、これと逆に、精神疾患治療中に肥満を来し、元々軽度だった睡眠時無呼吸症候群が重症になるパターンもありそうである。

 

さて、タイトルに挙げた「睡眠時無呼吸症候群と夜間頻尿」だが、医師や薬剤師であれば、この2つの疾患、症状はなぜ関係が深いかピンと来ると思われる。

 

僕は生物学的に診るタイプの精神科医であり、精神科はサイエンスだと過去ログでしばしば言っている。今でもそう思っているが、あまり何度も言わないだけである。

 

睡眠時無呼吸症候群では、無呼吸が生じひいてはSpO2が低下し、例えば80以下になったりする。その結果、心臓に負担がかかり循環血液量を減らそうとするため、利尿ホルモンが放出される。その結果、夜間頻尿(中途覚醒)になるのである。

 

一方、CPAPを使用すると無呼吸が減少ないし消失するため心臓の負担が減り、利尿ホルモンが減少した結果、夜間頻尿が改善すると言った流れである。

 

昨年くらいに泌尿器科の医師と話す機会があった。彼によると、CPAPを開始した人は夜間覚醒(トイレのため)が減ったという話をよく聴くとのことだった。

 

他に重要な点を挙げると、睡眠時無呼吸症候群は明らかに男女差があり、有病率は男性が高いが、女性もほとんどいないわけではないこと。また小児でもおそらく重症のレベルではないのだろうが、睡眠時無呼吸がある子供(しかも非肥満)がいると言われている。

 

精神科医は、小児期の日中の傾眠なども、身体疾患としての睡眠時無呼吸症候群を視野に入れるべきだと思う。

 

ただしである。小児で睡眠時無呼吸症候群にためにCPAPまで必要と診断される子供は、非常に少ないのではないかと思う。そこまで重症度の高い子供が多くいるようには思えないからである。むしろ改善には扁桃摘出などの身体的な手術やマウスピースなどの良い手法がありそうだと思う。

 

いずれにせよ、子供の睡眠時無呼吸症候群が軽症〜中等症だったとしても、成長期には脳にはマイナスの影響を及ぼしそうに思う。