記憶が新しいうちに、記録しておきたい。
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朝10時頃、駅で待ち合わせた。
はらぺこくんは慣れない駅だったので
落ち合うまでに、時間がかかって
電話で連絡をとりあった。
やっとホームに現れたはらぺこくんは
暑い中、歩き回った後で、疲れた顔してた。
こういう時の彼は、ちょっと不機嫌になる。
歳をとったな・・・
その顔を見て、最初に思ったこと。
出会った頃、40代だった彼は
まだほんの少し青年の名残があった。
今、その影はもうない。
「ごめんね、待ち合わせ場所の
説明が足りなかったね~。」
するっと、そんな言葉が出てきた。
あ、もう心の距離が離れてきてる・・・
はらぺこくんのご機嫌斜めな態度に全然影響を受けず
とても客観的に、対処することができたから。
はらぺこくんは、すぐに
いつもの優しい笑顔に戻り
電車に乗り込んで、ピトっとふたり、並んだ。
距離が離れてきていても
こうやって身を寄せると、すごく落ちつく。
いつものように、愛しさが満ちてくる。
頭と体のそんな矛盾を感じつつも
わたしは、動揺しなかった。
あ、今日は、ちゃんとやり遂げられる・・・・
そう腹の底で感じた。
朝、ベッドの中で号泣したのに。
あれで、全部洗い流せたのかもしれない。
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「今日、なんか予感してたりした?」
車内でしばらく雑談をした後
切り出してみた。
わたしの故郷への突然の小旅行。
わたしは何も理由を言ってなかったし
彼もなんにも聞かなかった。
はらぺこくんは、不思議そうな顔で見返した。
「ここが
わたしとはらぺこくんが行ける
一番遠いところだと思ったからだよ。
区切りとして、いいかな、と。」
「区切り?」
「そう、区切り。」
「そっか」
しばし微笑して、うなずくはらぺこくん。
「って?」
「そういうこと」
「ん?」
「最後の、冒険。」
「・・・・・・・・
それって・・・
そういうこと?」
「うん。そう。」
はらぺこくんは虚を突かれたように
何秒か沈黙し、
「・・・そうか・・・
冒険が・・好きだもんね。」
と、弱々しく笑った。
それから、しばらく、わたしは窓の外を見つめ
沈黙が流れた。
でも、その後はまるで何事もなかったかのように
またいつもの楽しい雑談に戻って
やがて電車は目的の駅へ着いた。
乗り換え駅で、はらぺこくんは
トイレへ行く、と姿を消した。
「うんちがしたい」
って、言って。
後ろ姿を見ながら、思う。
こんなことを、お互いケロっと
言えるようになったもんだ。
そして、そんな彼とわたしは
今もたくさんセックスもする。
まあ、夫婦みたいになったのだ。
乗り換えて、短い編成の列車に揺られる。
やがて、わたしが育った町が見えてきた。
「あ、〇〇山!××川!
あれは、わたしの高校!」
窓の外を指さすと
はらぺこくんは、全部いちいち興味深そうに
見てくれるのだった。
わたしの実家の最寄り駅に到着。
田舎すぎてタクシーがいないので
電話で呼び、
しばし駅前のベンチに座って待つ。
「不思議な気分だ」
と、はらぺこくん。
そうだよね。来たこともない駅。
わたしと知り合わなければ一生
来なかっただろう駅。
駅前には、全然人がいなくて
ミーンミーンとセミの鳴く声が
木々から聞こえていた。
やがてタクシーが来て、乗り込むと
故郷の村の名前を告げた。
(つづく)





