生きることは自分とたたかうことだ。
そう強く感じた一冊を読み終えました。
乾ルカ『コイコワレ』は、戦争末期の日本、東京から東北のとある町へ疎開した児童の心模様が描かれた物語です。
疎開児童は親と離れて暮らさなければならず、
孤独で不安な思いを抱えながら町へやってきます。
物語の中心人物は疎開児童のうちのひとり、浜野清子。
清子は生まれつき目が蒼く、そのために周りから気味悪がられ、集団で行動していても孤立してしまう少女でした。
清子は最愛の母と離れ、孤立した暮らしに打ちのめされたような気持ちになりますが、東京へ戻り、女学校へ進学する目標のためにめげずに過ごそうと決意していました。
しかし、疎開先の寺で、清子は忘れられない人物と出会います。
その人物とは、寺で暮らす地元の子・リツ。
耳が大きく、山を自在に駆け回れる脚力と体力があり、清子とは正反対の気の強い少女でした。
清子はリツと出会った瞬間からこう確信してしまいます。
私はこの子が嫌いだ、と。
それは同時にリツも確信していたことで、二人は磁石が反発するように同じ反応を示します。
清子は天敵のような存在と出会いさらに陰鬱な気持ちになりますが、ふたりの間にさらなる悲劇が襲うのでした…。
この物語ではふたりの出会いに加え、慣れない疎開先の孤独な暮らし、召集令状の残酷さ、空襲警報の恐怖が細かく描かれ、彼らの暮らしはどれほどつらく苦しいものだっただろう…と胸が痛みました。
そんな環境であっても、自分の夢を見据えてひたむきに鍛錬に励む清子の姿が目に焼き付いて離れません。
清子はリツとの間でとある悲劇を経験し、リツを憎みます。
リツの身勝手で起きたことでしたが、リツにも別の思いがあり、しかしふたりの思いは反発したままだったのでした。
リツを憎み、自分の環境を憂うばかりの清子でしたが、ある日一時的にやってきた母親に清子は諭されます。
女学校に進学し、立派な先生になるという目標があるのだから、黒い気持ちに負けてはならない。
清子はこれまでの自分をかえりみ、心を入れ替えて自分の黒い感情や弱気な心に抗って行動を起こすようになるのです…。
清子が心を入れ替える場面は、読みながら感服してしまいます。
つらい環境にいながらもなお、自分の弱い心と黒い気持ちとたたかい、鍛錬し続けているからです。
そしてリツも同じころに自分とたたかい、乗り越えようとします。
さて自分はどうだろうか?と
かえりみずにはいられません。
この物語を全て読み終わったとき、
戦争の理不尽さ、残酷さ、言い切れない苦しみ、悲しみとともに彼女たちの強い意志を感じました。
彼らの意志の強さがあったからこそ、いまの平和な日常があるのですよね。
そう感じて頭が下がり、わたしも自分とたたかわなければいけない、と強く思わされました。
この作品は8人の作家さんたちの共作シリーズ螺旋プロジェクトのひとつではありますが、単体でもじゅうぶん楽しめる名作です。
◆これまで読んできた螺旋プロジェクトシリーズ
・原始時代:大森兄弟『ウナノハテノガタ』
・奈良時代:澤田瞳子『月人壮士』
・中世・近世:天野純希『もののふの国』
・明治時代:薬丸岳『蒼色の大地』
・昭和後期・近未来:伊坂幸太郎『シーソーモンスター』
螺旋プロジェクトシリーズ、どうにか年内には全て読み終えられそう…。
それではまた更新します!
