アルコール依存症 | kyupinの日記 気が向けば更新

日本人のALDH2活性とアルコール依存症の話

 

 

今回は前回の関連記事である。

 

酒とタバコの相違だが、お酒は一部、遺伝的に飲めない人がいるが、タバコはそう言う人は稀であること。これは依存性やその人の人生を考えるに結構重要と思う。

 

人がアルコールを飲めない(または非常に弱い)最大の理由は、生まれつき体内にある「アセトアルデヒド」を分解する酵素の働きが弱い、もしくは全く働かないという遺伝的・体質的な要因から来る。

 

お酒を飲むとアルコールは肝臓でアセトアルデヒドという有害物質に分解される。この物質こそが、顔の赤み、動悸、頭痛、吐き気などの不快な症状を引き起こす原因である。このアセトアルデヒドを無害な酢酸に変えるのがALDH2(2型アルデヒド脱水素酵素)だが、この酵素の働き(活性)は生まれつきの遺伝子タイプによって3つに分かれる。

 

非活性型(まったく飲めない):日本人の約4〜10%

ALDH2が全く働かないタイプ。コップ1杯のビールでも動悸や激しい悪酔いを起こし、最悪の場合は失神する。体質的にアルコールを一切受けつけない。

 

低活性型(お酒に弱い):日本人の約30〜40%
ALDH2の働きが弱く分解に時間がかかるタイプ。少し飲むとすぐに顔が赤くなったり、体調が悪くなる。

 

活性型(お酒に強い):日本人の約6割
アセトアルデヒドを素早く分解できるため、悪酔いせずにお酒を楽しめるタイプ。

 

日本人は世界的に見ても飲めない人が多いと言われる。このALDH2の働きが弱い・無いという特徴はモンゴロイド(東アジア人)特有の遺伝的性質で、ヨーロッパ系やアフリカ系の人々にはこのタイプがほぼ存在しないため、日本人は欧米人に比べて体質的にお酒が飲めない人の割合が非常に高い。

 

アルコール依存症の人で、労災で頭部外傷後、突然、お酒が際限なく飲めるようになった人がいた。それまではむしろあまり飲めないタイプだったと言う。この事例は、その人が低活性型と断言まではできないが、器質性要因で急激になんかの活性の変化を起こしうることを暗示しており、謎が多い。

 

このようなことから、日本人のアルコール依存症は最初にハードルのようなものが存在しており、アルコール依存症にどうしてもなれない人が相当にいることは重要だと思う。つまり、ALDH2の遺伝子活性がないか、弱いことは、日本人にとってアルコール依存症の防波堤のようなものだ。

 

実際、日本人は世界(特に欧米諸国)に比べて、アルコール依存症の有病率(発症率)が大幅に低いと言われている。WHOなどの資料によれば、

 

国・地域

アルコール依存症の比率(推計値)

日本

約 0.6% 〜 1.1% 

韓国

約 5.5%

アメリカ

約 7.7%

ハンガリー

約 9.4% 

ベラルーシ   

約 11.0% 

 

日本の依存症率は、厚生労働省の委託調査(ICD-10診断基準による)で約0.6%(男性1.2%、女性0.2%)、人数にして約64.4万人と推計されている。欧米や他国と比べると、日本人の依存症率はアメリカの7〜8分の1、最も高い東欧諸国と比べると10分の1以下である。

 

また、日本は麻薬系の薬物の規制がかなり厳しいので、それらの依存症患者の絶対数がアメリカなどに比べ遥かに低い。海外で生まれていれば、麻薬関係の依存症になったかもしれないと思うような日本人の他の精神疾患の患者さんは案外いるような印象がある。

 

日本人で遺伝的にアルコールが飲めないような人が、ストレス発散目的で他の物質依存、例えばタバコ、処方薬、カフェインに流れているところはあると思う。ここで言う処方薬とは、睡眠薬、ベンゾジアゼピン、咳止め薬(ブロン液)などである。

 

なお、日本と欧米では、文化、社会的な認知度と治療へのアクセスの差が存在しており、欧米(特にアメリカなど)では、アルコール依存症を「意志の弱さではなく、治療すべき病気」という理解があり、専門の治療機関や自助グループ(AAなど)へアクセスしやすい環境がある。

 

しかし、日本では「お酒での失敗は恥」「単なるだらしなさ」と個人の精神論に帰結されやすく、依存症の疑いがあっても病院を受診せず、統計に現れない「隠れ依存症」が非常に多いと言われている。これはリエゾンをしているとよく感じることである。これは以下の記事に詳しい。

 

 

この記事から抜粋。

リエゾンで診るウェルニッケ脳症に至るレベルのアルコール依存症は、治療後もなかなか精神科治療にのらず予後不良のことが多い。たいてい5年以内に亡くなっている。これはそれまで精神科にかかっていないような人、つまりウェルニッケ脳症に至るまで未治療の人は、その後も治療をしないのであろう。だから5年以内に亡くなるのである。

 

なお、統計上依存症率は低い日本だが、お酒が強いタイプ(活性型)の日本人に限定すると、依存症になるリスクは欧米人と全く差がないと言われている。依存症の一歩手前である予備軍(多量飲酒者や問題飲酒者)」を含めると、国内に約300万人以上いるという試算がある。