
ザズベイ(ズラノロン)
塩野義製薬は抗うつ薬・ザズベイカプセル30mgを3月19日に発売している。今日は、この新しい抗うつ剤、ザズベイの話。
ザズベイ、一般名ズラノロンは、海外ではZurzuvaeという商品名で発売されている。当初、この名前は日本的にはあまりにもなのでザズベイにしたのだと思った。あるいは、後で思ったのだが、この綴りでザズベイと読むのかもしれない。
なお、アメリカでは2023年8月に産後うつ病の適応で承認されている(ユーロでは2025年9月に同じ適応で発売)。日本はうつ病、うつ状態の適応で、アメリカなど海外とは異なる。今回、ザズベイは、海外で発売されて3年以内に日本で発売されておりタイムラグは小さい。今回は頑張ったと言える。
ザズベイは従来の抗うつ剤とは異なり長期服薬を前提としていない。毎日夕方30mgカプセルを1カプセル服薬し14日継続して中止する。内科薬のステロイドのパルス療法のような使い方である。この服薬方法であれば、アメリカ、ユーロなどの適応が「産後うつ病」に限られているのが理解できる。
またザズベイは例えばSSRIなどの従来型の抗うつ剤とは効果発現の機序が異なる。
ザズベイ(ズラノロン)は、黄体ホルモンであるプロゲステロンの代謝産物である内因性神経ステロイド、アロプレグラノロン(ブレキサノロン)から誘導された合成化合物である。ブレキサノロンは、既に海外では、産後うつ病に対し静脈投与で処方されていたが、ズラノロンは経口投与可能なのが大きな相違である。この開発の経緯を見ても、産後うつ病に有効なのが予想できる。以下の過去ログも参照してほしい。
作用機序は厳密に書くと難しくなるので、イメージ的に言えば、うつ病はGABA機能が低下していると言われており、それを調整して正常な働きに近づける。GABAは脳内では抑制的に働くため、抑制系を活性化することで神経の過剰な興奮を抑え、落ち着き、安心感をもたらすとされている。
またザズベイは神経ステロイド類似作用があり、特に産後に低下する神経ステロイドを補う作用を持つ。また産後に限らずストレス下でも同様である。
このような作用機序により、ザズベイは従来型の抗うつ剤例えばSSRIなどより効果発現が遥かに早い。数日(3日くらい)で効果が出るとされている。これより効果発現が早いものはケタミンくらいであろう。ケタミンは数時間から1時間で効果が出ると言われている。
なぜ、ザズベイがSSRIに比べ効果が出るのが早いかだが、神経伝達物質の量ではなく、受容体の働きを直接変えるからである。
ザズベイはベンゾジアピンと似た作用に思うかもしれないが実際は異なる。ザズベイは、GABA_A受容体に結合(ベンゾジアゼピンとは別部位)し、依存性はベンゾジアゼピンより低い。また、適応もザズベイがうつ病に対し、ベンゾジアゼピンは不安、不眠である。
なお、ケタミンはグルタミン酸系(NMDA受容体)に作用し、神経の可塑性(シナプス形成)を急速に改善する。壊れた神経回路を再構築するイメージである。
一般的な副作用には、眠気、めまい、ふらつき、下痢、疲労、尿路感染症などが挙げられている。また、うつ状態を更に悪化させたり、希死念慮を悪化させることがあると注意喚起されている。
薬物依存についても添付文書に記載があり、用法・用量を厳守することや、再度治療を行う時には治療上の必要性を十分検討することとされている。再投与の際には、6週間以上間隔を空けなければならない。この辺りのルールだが、何回まで再投与ができるのか?などの詳細は不明である。また海外は産後うつ病の適応しかないので、海外に倣うことも難しい。
アメリカでは、ズラノロンはCSA(米国規制物質法)でSchedule IVに分類されている。このクラスだが、「乱用の可能性が低く、医学的用途が認められ、依存リスクが比較的低い」とされている薬物である。
このSchedule IVに分類されている薬物は、抗不安薬(アルプラゾラム、ロラゼパム、ジアゼパムなど)、睡眠薬(ゾルピデム、エスゾピクロン、フルニトラゼパム、長時間型バルビツレートなど)、食欲抑制剤(フェンテルミン)、モダフィニル(ナルコレプシー治療薬)などである。
最後に、各クラスの代表的薬物を挙げる。
Schedule I(乱用の危険性があり、医学的用途がなく、安全性が不足している)
大麻、ヘロイン、MDMAなど
Schedule Ⅱ(乱用の危険性があり、厳格な制限事項と伴に一般に認められた医学的用途があり、深刻な精神依存もしくは肉体依存に至る危険性がある)
コカイン、メチルフェニデート、PCP、不純物を含まない大部分のオピオイド作動薬、アンフェタミンなど。
ScheduleⅢ(ⅠおよびⅡほどではない乱用の危険性があり、一般的に認められた医学的用途があり、深刻な精神依存もしくは中程度から低い肉体依存に至る危険性がある)
アナボリックステロイド、ケタミン、コデインなど。
ScheduleⅣ
上に挙げた通り。
ScheduleⅤ
少量のコデインが入った咳止め(ブロン液)、少量のアヘンあるいはジフェノキシレートが入った製剤、プレガバリンなど。
注意
ザズベイの2週間の治療を終え、多少は良いけど、うつ状態がよくない場合、従来の抗うつ剤を服薬するしかない。アメリカではうつ病、うつ状態の適応が取れなかったくらいなので、このような結末は十分にあり得る。しかしながら、うつは少し良くなったレベル以上を維持することはそう難しくないので、パルス療法的な治療による底上げ的アプローチは、十分に有用ではないかと考えている。
抜粋。
難治性うつ病はサッカーと同じく、最初に1点取るのが難しく、1点取れれば弱小チームでも1-0で勝ち切れるように、良くなった状態を維持することは、それまでより遥かに容易である。だからこそ、アナフラニールの点滴は有用なのである。