
鎮静的抗うつ剤の話
最近、鎮静的な抗うつ剤が減ってきたと思っていた。抗うつ剤は賦活的であれば良さそうだが、精神症状的に鎮静作用が加わっている方が良いことも多い。
今よく処方されている抗うつ剤で鎮静的薬理作用を持つ薬は、リフレックス(ミルタザピン)だと思う。この薬はSSRIやSNRIに比べ奇異反応的な興奮、焦燥、激越などを生じにくい。一方、SSRIやSNRIは鎮静的とは言い難い。SSRI全般で比較的鎮静的なものはパキシルだと思うが大きな差はない。また、トリンテリックスも鎮静的ではなくむしろ賦活が強い抗うつ剤である。
現在でもよく処方される鎮静的な抗うつ剤としてレスリン(トラゾドン)も挙げられる。リフレックスとレスリンはしばしば就前に処方されるのはそのような理由による。ルジオミール、テトラミドも鎮静的であるが、処方頻度がかなり減っている。この2剤はリフレックスやレスリンに比べ、今は扱わない精神科医もいると思う。
このようなことから、新しいタイプの抗うつ剤を処方する限り、あまり鎮静的ではない処方になりやすい。だから時に事故が起こるのである。
いわゆる古い3環系抗うつ剤、トリプタノール、トフラニール、アナフラニール、アンプリット、ノリトレン、アモキサンなどは概ね鎮静的抗うつ剤であるが、アモキサンに限ればそれほど鎮静的ではない。これらの薬は患者さんが日中の眠さの副作用を訴えることが多く、特にトリプタノールは最たるものであった。
それでもトリプタノールでさえ、慣れば朝昼夕でも服薬できる人がいたので、抗うつ剤は眠いのは当然であまり気にならなかった。今の若い人に比べ、昔のうつ病の患者さんはこれらの副作用でへこたれないと言うか、忍容性が高かったと思う。
このような鎮静的抗うつ剤ばかり処方していれば、なんとなく鎮静の差がわかるようになる。アモキサンは鎮静的ながらそこまで強い鎮静はかからず、比較的処方しやすい抗うつ剤だった。またターボがかかると言うか、馬力が出るタイプなのが良かった点だと思う。
最近、驚愕したことに、アンプリットが発売中止になっていた。つまりそれくらい処方されなかったものと思われる。昔の薬でもレスリンは残っているので、特殊な事情がないのに発売中止になったのは大変なことである。
また、ノリトレンもアモキサンと同じ理由で出荷が止まっているようである。(ニトロソアミン混入リスク)。ノリトレンは処方頻度としてはアンプリットと同じか、まだ少ないくらいと思うので、今後発売中止される可能性も十分にある。
このブログでは、未だにアモキサンのテーマが残っているが、現実的には発売中止になる可能性が高いため、近い将来、アモキサンのテーマは旧来の3環系抗うつ剤に合併させる予定である。
将来的には、古い3環系抗うつ剤は更に使われなくなり、徐々になくなっていくのではないかと思う。個人的にアナフラニールだけは点滴としてよく処方しているのでなくなってほしくないものである。実際、アナフラニールの点滴のために現在2名の患者さんが入院している。
難治性うつ病はサッカーと同じく、最初に1点取るのが難しく、1点取れれば弱小チームでも1-0で勝ち切れるように、良くなった状態を維持することは、それまでより遥かに容易である。だからこそ、アナフラニールの点滴は有用なのである。
なぜ、鎮静的な抗うつ剤が減少していくかだが、古い3環系抗うつ剤は循環器系にリスクがあるし、その他の自律神経系や肥満などの副作用がよく診られるからである。SSRIが精神に副作用が大きいことに比べ、古い鎮静系抗うつ剤は身体に副作用が大きい。
また、今の非定型精神病薬にはオーグメンテーション的に抗うつに処方されることが増えてきており、しかも鎮静的なものも選択できる。つまり鎮静的でない抗うつ剤の欠点を弱めることも可能になってきているのである。
将来、古い3環系構造を持つ抗うつ剤は淘汰される運命なんだと思う。