最近毒舌技術を
わが犬散歩仲間奥様ですが、
ともに森を歩き始めた頃は
もうそれはそれは
すごかったんです!
わが愛犬
アーシーへの舌鋒が!
最初に一緒に散歩に
出かけた日だったと
思うんですが、
『大人数での散歩』に
興奮して転げまわる
アーシーを見て
奥様が冷静な声で言ったのが
「あなたの犬って本当
ルーピー(loopy、
頭がいかれている)ね」
・・・奥様、それは
2010年代の
日本語インターネッツ
空間においては
鳩山元首相にのみ
許された形容詞ですぞ!
「ルーピーって奥様・・・
うちの犬はちょっと
喜びの表現が派手なだけで・・・」
「いいのよ、大丈夫、
でもね、自分の犬の愚かさを
受け入れる、というのが
正しい飼い主の第一歩よ」
「愚かさって奥様・・・」
で、一緒に歩きながら奥様は
アーシーの歩き方・歩く位置・
我々に対する態度のいちいちに
辛辣な批評を加えてくださり、
「まあ総じて言えば
アーシーは馬鹿犬ね。
気質は素直で悪くないけど」
「いやいやいや!うちの
アーシーは元盲導犬候補生、
頭の良さには定評ありです!」
「じゃああなたの育て方に
問題があったのねえ」
そしてこんなことを
言われているにも関わらず
我関せずの態で
奥様の手のひらから
大喜びでお菓子を貪る
アーシーに奥様は
「可哀そうにねえ、
アーシー、あなた普段は
きっと碌なお菓子を
もらえていないんでしょう」
「あげてますう!
ちゃんと美味しい
高いのをあげてますう!」
「でもこの食いつき方を
見てみなさいよ、ほら、
うちの元牧羊犬ちゃんは
アーシーちゃんの
がめつさにびっくりして
ちょっと離れたところで
呆然とこっちを眺めているわ」
「むっ、それは申し訳ない、
牧羊犬ちゃんこっちおいで、
君には私からお菓子をあげる」
「あら、うちの子はそんな
知り合ったばかりの人の手からは
お菓子なんて食べないわよ、
賢くて礼儀正しいから」
「・・・私のアーシーは
アホでガサツですみませんね、
食いしん坊なのも結局は
全部飼い主に似たんでしょうね!」
ただ奥様は道で他の知人と
すれ違う時などには
私のことをひどく
『いい人』のように
「で、こちらのNorizoが
連れている犬がアーシー。
こう見えて元盲導犬なのよ」
そう言われると
人間というのはもう
脊髄反射で
「ああ、じゃあ
賢い犬なんですね!」
しかし奥様は真面目な顔で
「いえいえ、ちゃんと聞いて、
元・盲導犬。正しくは
元・盲導犬候補生。
つまりアーシーは
盲導犬のなりそこないなの」
「奥様ー!確かに
そうですけど奥様ー!」
「ホホホ、で、
Norizo、アーシーは
どうして盲導犬に
なれなかったんですっけ?」
「神経過敏と申しますか、
引退後アレルギーが
あることもわかりまして、
盲導犬が着用すべき
ジャケットを着ることに
強い不快感を感じる子で。
つまり健康上の理由です」
私の説明に頷きながら奥様は
「・・・と、これが
表向きの失格理由よ」
「理由に表向きも
裏向きもありませんよ!
健康以外には、つまり
躾ですとか訓練に関しては
何も問題のない犬で!」
「そりゃあ盲導犬協会は
そう説明するわよね、絶対」
しかしこんなことを
おっしゃっていた奥様が!
最近はアーシーのことを
まじまじと眺めては
「・・・この子って
本当に美しい犬ねえ」
私は思わず奥様を
二度見・三度見してから
「どうしたんです
・・・大丈夫ですか?」
「・・・何よ、大丈夫よ、
何を驚いた顔をしているの?
あなただってアーシーが
たぐいまれに美しい犬で
あることには気が
付いているんでしょう?」
えっ・・・
えっと・・・
アーシーが散歩道の
わきに落ちている
誰かの食べ残しに突進した時も
私がアーシーを叱ったら
「あら、仕方ないじゃない、
だってラブラドールだもの!」
・・・あ、この人は
もしかすると
基本的に滅茶苦茶
情が深い人
なのかもしれない・・・!
その防御壁として毒舌を
利用している、というか。
ともあれアーシー、現在
恐ろしいほどの
贔屓の引き倒しを
奥様から受けています。
もう何をしても
笑顔で許されてしまう。
それでもこの間までは
何か犬が悪さをすると
「仕方ないわね、Norizoの
躾が失敗したのよね」と
私を悪役にしていたのが
最近はそこから
さらに一歩進んで
「問題ないわ、だって
Norizoはちゃんとした
飼い主ですもの、アーシーが
ちょっと羽目を外しても
誰も迷惑をこうむってない!」
みたいな感じにまで
なって来ていて・・・
これは危ない。
危なさを自覚しつつも
それをありがたく思いながら
奥様とは今後も
付き合っていく所存です。
元牧羊犬ちゃんは
今は私の手から

