立て続けに仔犬
(盲導犬候補生)を
一時預かりしていた私ですが
実はわが夫(英国人)は
私の隣にいませんでした・・・
まあいいんですけどね、
当日は時間になったら
迎えの車が盲導犬協会から
仔犬に差し向けられる手筈で
私はこれといってすることも
なかったですからね。
だから本当に
それはいいんですけど
何故夫が我が家に
いなかったかと言うとですね、
奴め・・・念願の
自転車旅行に
出かけやがりまして・・・
自転車旅行、
それもキャンプ泊の・・・
「そういうのは十代二十代の
青少年の趣味ではないのか?」
「それはエイジズム、
年齢に基づく偏見ですよ」
「そ、そういわれると・・・
でも君、しばらく自転車で
長距離を走っていないだろう、
いきなりキャンプ泊、つまり
長距離旅行は厳しくないか」
「そこですよ、ほら僕は
この夏こそ欧州を自転車で
横断したいと
考えているじゃないですか」
そういえばそんなことを
近頃の夫は時々
口にしてはいたのですが
「あれ・・・
本気だったか・・・」
「そりゃ本気ですよ。でも
いきなり欧州横断はそれこそ
無謀ですから、今回の
これは腕慣らしというか
脚ならしですね。
だから旅行日程も短めです。
僕は過去に一度自転車で
膝を壊しましたので
膝に痛みが出たらそれこそ
一泊で帰ってきますよ。
ほら、一泊目の予定地は
電車の駅の近くでしょう」
「ふむ。で、膝に支障が
出なかった場合は?」
「5泊か6泊を予定しています」
「・・・」
「2日目以降は
山奥の道を走るので
携帯の電波が届かない
可能性が高いです。
僕から連絡がなくても
心配しないでくださいね」
ちなみに3日目以降は
予定経路にお店や民家が
まったくない可能性もあるので
「食事としてタッパーウェアに
ダンディケーキを詰めていきます」
「待て。待て待て待て。
ほぼ7日間の日程で
3日目以降は
フルーツケーキだけで
生きていくつもりなのか君は」
「チョコレートも持って行きます」
「・・・健康的な食生活の
概念って知っているか?
タンパク質とかビタミンとか」
「ケーキには卵が
含まれていますし
ドライフルーツも
練り込んであります」
「ああ、まあな・・・」
「自転車長距離走においては
カロリーこそが正義です!
ああ僕、こういうの
久しぶりで本当に楽しみです!」
私は夫を
止めるべきだったでしょうか。
でもあまりにも楽しそうで・・・
いやでも
止めるべきだったでしょうか。
自転車乗りとはいまひとつ
わかりあえない私です。
英国盲導犬協会は
善意のボランティアによって
支えられた団体なのですが
そうした
ボランティア業務のひとつに
『犬の送迎係』と
いうのがあるのです
盲導犬候補生や盲導犬を
A地点からB地点まで
移動させたい時に
車を出して移動の間の
犬に責任を持つ役目
私はこれを初めて聞いた時
英国盲導犬協会の
底知れぬ本気度に
慄(おのの)きました
それは慄きますよね、と
同意してくださったあなたも
そっちより自転車旅行の
話に慄いてますけど、
というアナタも
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