続ける理由:「誰かのため」に変わった視点
若い頃、私は「もっと上手くなりたい」「もっと評価されたい」と思って演奏していた。
プロとして当然の感覚でもあったし、その向上心があったからこそ、今まで続けてこられたとも思う。
でも、ある時ふと、自分の中で何かが変わったのを感じた。
きっかけは、ある高齢の生徒さんとのレッスンだった。
その方は70代でオーボエを始められた方で、「昔、叶えられなかった夢を今叶えているんです」と言って、レッスンのたびに本当に嬉しそうな顔で楽器を構えていた。
決して上手とは言えない。でも、その方の音には、何とも言えない温かさと、誠実さがあった。
私が少しでもその方の音楽人生を支えられているのなら、それだけで嬉しい。
そう思ったとき、「ああ、自分の音はもう“自分のため”だけのものじゃないんだ」と感じた。
それからというもの、演奏する時も、教える時も、
「誰かの背中をそっと支える音を出したい」と思うようになった。
今の私は、もう若い頃のように華やかな舞台に立つことは少ない。
けれど、自分の音が、誰かに寄り添うことができる――そう思えるだけで、また今日も楽器を手に取りたくなる。
「誰かのために吹く」という視点は、私にとって“老いを越えて音楽を続ける理由”になった。