演奏ができなくなる不安と向き合う
演奏家として長年生きてきた私にとって、最も大きな不安は「いつか吹けなくなる日が来るのではないか」ということだった。
指の反応が鈍くなったり、リードの調整に時間がかかるようになったり、ブレスのコントロールが思い通りにいかない日もある。かつては“当たり前”だったことが、“努力してやっと”になり、ある日ふと、「昔ほど吹けていない」と気づいてしまう。
その瞬間、胸の奥がキュッと締めつけられるような気持ちになる。
「私はもう、オーボエ奏者としての役割を終えてしまったのではないか」
「この先、誰にも必要とされないのではないか」
そんな思いが頭をよぎるたびに、音楽から少し離れたくなることもあった。
でも、不思議なことに――それでも、私はまた楽器を手に取ってしまう。
理由は一つ。
“吹けない不安”よりも、“吹かない不安”の方が、私には大きかった。
音がうまく出ない日があっても、音楽をやめてしまった自分を想像する方が、ずっと寂しい。
演奏ができるかどうかではなく、音楽とつながっていること自体が、自分にとっての「生きている実感」なのだと気づいた。
だから今は、「完璧に吹けるかどうか」よりも、
「その日、その自分のまま、音楽と向き合えているか」を大切にしている。
不安がゼロになることはない。
でも、その不安すら包み込んでくれるのが、音楽なのかもしれない。