教えること、伝えることの価値
演奏の仕事が少しずつ減っていく中で、私の生活の中心になっていったのが、教えるということだった。
正直に言えば、若い頃は「教えること=本番のない、裏方の仕事」のように感じていた。
ステージで拍手を浴びることが演奏家の本分だと、どこかで思っていたのかもしれない。
でも今は、「教えることこそ、自分の音楽の延長なのだ」と心から思っている。
一人ひとり違う生徒たちの音に耳を傾け、その人が今の自分で奏でられる音を、少しずつ引き出していく。
ただ正解を教えるのではなく、その人の音楽が育っていくのを見守る。
そこには、演奏とはまた違う喜びがある。
教えることは、私にとって「過去の自分を肯定する時間」でもある。
昔つまずいたこと、悩んだこと、乗り越えたこと――すべてが、今、誰かの役に立つ。
そして、生徒の中には私よりも年上の方もいる。
人生経験が豊かなその人たちの音には、若い人にはない「重み」や「想い」が宿っている。
そんな音に出会うたびに、私は何度も胸を打たれ、学ばされている。
音楽は、技術ではなく「伝えるもの」であり、また「伝わっていくもの」なのだ。
教えることで、私は今も音楽の中心にいる。
そして、そのことが何よりも自分自身の支えになっている。