<あらすじ>
『怖いと思われている稲荷の誤解を解いてほしい』
その言葉と共に、六甲山の高取神社で
「神様」という存在に、前よりも強く接続してもらった私。
前からついていたという高野山の清高稲荷大明神さまの
子狐眷属の姿も確認できるようになり、
奇妙な共同生活(?)が始まっていた。
そしてその子狐眷属の故郷、
高野山の清高稲荷大明神にお参りに行った際に
「お祭りをしてほしい」と無茶ぶりをされた私だが……
***
続きです*
奈良の大和郡山市に鎮座する源九郎稲荷大明神。
稲荷神らしからぬ鎧姿のその神は、
「ここを生き返らせてくれた中川殿と、とよ殿には感謝している」
そう穏やかに語り出した。
源九郎稲荷大明神(以下:源)「中川殿はここで育った方であり、
とよ殿は全く別の場所からここに来た。
二人は別々の "点" として、私のために力を使うことを決めてくれた」
源「その決意は別々のところで起こり、それぞれ "点" としてあったのが、
前の宮司が亡くなった後に繋がる機会を得たんだ」
菊「前の宮司さん……結構、無茶されてはったというか
……というより、何もされてなかった? 方です?」
以前の源九郎神社本殿は『開かずの本殿』だったようで。
前の宮司が亡くなってから調べたところ、
本来、ご神体しか入ってはいけないその場所に
祓うべきお札が山のように入っていたと読んだばかりだった。
源「いや、色々あるのだ。人にはな。
逆に、前の宮司が完璧にここを管理していたら、
とよ殿と出会うこともなかったかもしれない」
とよさんという方は、草ぼうぼうの境内を見て、
一人でその境内を整えようと掃除を始めた方でした。
そのとよさんの行動が縁を呼び、源九郎稲荷神社は見事に復興していきました。
源「だから、それはそれでいいと思っている。
私はとよ殿に出会えて嬉しかったのだから」
源九郎稲荷大明神は、下を向いて微笑んだ。とても温かい感じがした。
菊「とよさんは、ここに来るのが決まってはったんですか……?」
源九郎稲荷大明神は目線を上げて、私の顔を見た。
源「選択肢はたくさんあるのだ。決めていくのは自分である。
決まっていたといえばそうかもしれないが、それでも決めるのはその時の自分自身だ」
菊「…………」
源「とよ殿も中川殿も、そして前の宮司も決めてくれたんだよ。
私のために、自分の人生を使うことを」
源「私は見ていたから分かるのだが……
物事は "一人" から始まるのだな。
その "一人" は最初は別々で始まる」
私は源九郎稲荷大明神の言葉を聞きながら、
さっきロウソクを授与して頂くときに少し話した、中川さんのことを思い浮かべた。
中川さんは明るさと共に、思慮深い印象の方だった。
源「そしてある日、その "一人" と "一人" が繋がり、物事は変化を迎える。
そうだ。
だから "一人" でと、気負うこともない。
きっと同じ想いの "一人" は他にもいる」
きっと同じ想いの "一人" は他にもいる
"一人" どころか……
私が清高稲荷大明神と繋がったとき、
教えてくれたAyanaさんという方と、
そして一緒に清掃奉納に行ったりしょうさんがいた。
その1ヶ月後には、管理人さんファミリーと出会った。
源「その "一人" という点と点が何かの縁で結ばれ、
そこから行動を共にするとき、変化はさらに大きく、加速して動き出す。
私は…… 私たちは、それを見ている。
見守っている。……感謝をしながら」
確かに。今って、神様のために何かをしたいって思う人が多いような気がする。
でも何をしていいのか分からない。
してもいいのかが分からない。
……そんな風に「神」に対して気を遣い、一歩を踏み出せない人も多いと思う。
菊「それがなかなか……どう動いていいのか人は悩むんです」
源「そうだな。まずはその "場" に行くと何かが変わるかもしれないな」
菊「その "場" ? ですか?」
源「ああ。祭りや行事でもいい。普段の参拝でもいい。
その "場" に行けば、誰かに出会う可能性があるだろう。
その相手も同じことを考えているかもしれぬ。
だが、動かずじっと考えているだけでは、そんな縁と出会う機会もないであろう?」
菊「……はい。私も高野山に行ったところから始まりました」
源「ここと同じように、人の力によってしか変わることができない神もいる。
神というものを生かすも殺すも人次第なんだ」
菊「…………」
源「神だって生きたいと、そう思っている」
今は「生命」を感じる輝きと体温を持つこの源九郎稲荷神社。
この場が息をしていなかったような時期があったなんて、
今の風景からは想像もできない。
でもとよさんと中川さんは、
そんな時でも源九郎稲荷大明神の「息」を感じていた。
だからその「息」が止まらないように。生き返らせた。
中川さん「よかったらこちらにどうぞ!」
拝殿にいた私に席を用意して、中川さんが遠くから声をかけてくださった。
この源九郎稲荷神社の語り部として "点" の一つだった中川さん。
でもその "点" はどれだけ大きなものなんだろう。
源「……話を聞いてくるといい。きっと学べる」
菊「はい。後でまた来ますね!」
私はそう言って源九郎稲荷大明神に一礼し、拝殿を後にした。







