一隻の漁船もない諏訪瀬島に、伝統のサワラ突き漁法があった。トカラの島々全域で行われているから、おそらく奄美の島から伝わったのかも知れない。その漁法は奇抜なもので疑似餌には違いないが「針」が付いてない。サワラを疑似餌でおびき寄せてモリで突く漁法だ。サワラとは言っても一般的なあのサワラではなく、カマスサワラと言う別物だ。その形がバラクーダと呼ばれる「オニカマス」に似ているからそんな名が付いたのかも知れないが定かではない。サワラと違い巨大になり、大きなものは2m、30キロを超える。味はサワラほど脂は乗らず淡白で普通だ。他の島には漁船はあるのだが諏訪瀬島にはない。通船を利用してたまにやっていたのだろう。突いたサワラは部落中で分け合うのが習わしだ。島の人達は木で作った疑似餌を大切にしている。あの木がどうの、この形はどうのと焼酎を飲みながら話だけははずんでいた。長さ40cmくらいの板の端に穴を開け、そこにヒモを通す。反対の端にはビニルなどのビラビラが付いているだけの簡素なものだ。どう見ても魚には見えない。こんなものにサワラが寄ってくるのだろうかと首を傾げてしまう。疑似餌には鋭いサワラの歯形が無数に付いていた。ヒモは1mもなく、それを2mくらいの竹竿に結ぶ。まるで木で出来たおもちゃの鯉のぼりだ。翌日、ヤマハの船で数人で漁に出た。岸から100mくらいの潮目を狙う。船を潮に流しながらそれで海面をバシャバシャ叩くのだ。振り回して海面に叩きつけたり、八の字を書くようにその場で海面を引き回す。やがて数匹のカマスサワラが現れ、目と鼻の先の船の横で疑似餌を追い回す。それをもう一人が狙い済ましてモリで突くのだ。疑似餌をサワラに噛み付かれると見破られてしまうから食べられないようにうまくあしらう。場所を変えてはそれをやると次々にサワラが出てくる。魚影が濃いのだ。15キロから25キロのサワラが10本近く獲れた。それを部落中で分け合うのだが、すぐに食べてもゴムみたいで味気ない。冷蔵庫で寝かしたほうが美味しくなる。これはブリなどの回遊魚も同じことが言える。しばらくは色んなサワラ料理が出てきた。この島にとっては山羊と並んで一番のご馳走だ。酢や塩を使い、保存性を持たせ長い間サワラを楽しむのだ。焼酎とサワラさえあれば何もいらないと言う男もいた。カマスサワラは食べ慣れると病み付きになる味なのかも知れない。キューバに住んだヘミングウェイもこのカマスサワラが一番好きだった。英名を「ワフー」と言う。彼もこのワフーを氷で二日間寝かせた後で食べると肉の旨みが出ると書いている。なかなか味にはうるさかったようだ。亜熱帯の魚は、温帯に比べて脂も乗らず淡白な魚が多いが、料理法によっては美味しく食べられる。