「それと、もうひとつ。」
麻友。
「おばさん、感じなかった…???」
瞬いて恵津子、
「えっ…???」
「あのお宅に入った瞬間。」
恵津子、コクリと。
「犬がいたよね。」
その声に恵津子、またコクリと。
「うん。バセット。」
「物凄い大人しい。しかも、その犬に凭れるように女の子。」
「あ、あ~~。」
「そして…、あの生活感。」
恵津子、また瞬き。
「あの、生活感に、私、入れる…???」
途端に恵津子、
「え…???」
「つまりは。」
麻友。
「あの高井戸さんのお宅には、私の居場所って言うのがないんだよ。」
完璧なまでの正論だった。思わず口を噤んでしまった恵津子。
「麻友~~。」
「確かに。」
麻友。
その声に恵津子、
「……。」
「確かに。娘さん、高2。今年からは受験生。大学受験。」
恵津子、何かしらトーンダウンしたように、
「うん。」
「春になれば娘さん、高3になって、正しく受験勉強。…なのに、父親も出来ない家事全般。やりながら。」
恵津子、またもや、
「うん。」
「でも、それは、それで、仕方のない事。けれどもそれが現実なんだよ。…で、もうひとつ。」
恵津子、
「うん…???」
「何か変だと思わない…???」
「何がよ。」
「犬に凭れて眠っている女の子。」
「あ、あ~~。」
「それに、あの犬、ワンちゃんだって。かなりおっきぃし。あぁいう犬を、父親と娘だけで飼っていられるって事自体が凄い。相当の親子の包容力。と、言うか、絶大の信頼がある。それに、あの女の子。母親がウェディングプランナーって言ったでしょ。」
恵津子、口を窄めながらの、
「う、うん。」
「普通さ。高2の女子がこれから受験勉強。しかも、今年からは本格的。まっ。確かに、父親の仕事が在宅、リモートだからって、ウェディングプランナーの女性が、そんな家庭に娘を預ける…???…男と女の結婚を取り持つ仕事の女性だよ…???…幾ら兄、妹の間柄って言っても。…それに何。父親は家事全般ダメ。逆に有り得ないでしょ。」
恵津子、口を窄めたままで、完全に麻友からノックアウト、されてしまっていた。
頭の中で、
「…正に、その通り。」
「…で。」
麻友。
「結論から言って。」
凛とした表情で、
「おばさんが、私の事であれこれと心配してくれたのには感謝している。」
ペコリと。
「ありがとうございました。」
そして、頭を上げて、
「私の今の気持ちは変わらない。45であろうが50になろうが60になろうが、私は私。まっ。今後、1週間になっても、いつになっても、高井戸さんはおろか、娘さんからも連絡はないと私は断言できる。だってさ~~。あれだけの家庭だよ。完璧に整っている。ある意味、娘さんだって、これから大学受験。家事もやっての。…けど、そのくらいの覚悟は出来ている。しかも、父親も父親。ちゃんと娘さん、可愛がってるよ。多分、それでもだめなら、凡そ、身近の誰かが何か考えてるんじゃない…???…妹さんとか…。絶対にほっとかないと思うよ。私はそう思う。」
思わず口をぐんにゃりの恵津子。だだをこねるような目で麻友を見ながらも。
「はいはい。」
麻友。
「この話はこれでおしまい。」
そして両手を合わせて、
「ごちそうさまでした。」
トレイを両手に。そして椅子から立ち上がり、
「午後からカンファだよ~~~。」
恵津子、目の前のお膳、半分も手を付けてない。溜息を突きながらも、
「分かってます。」
そして…。こちらでは…。
眞鍋家にて睦美。晄史も誓も、何とか多忙極まりない勤務からの解放なのか、家族そろっての夕食。
偶然にその時に睦美も考えがまとまったのか、
「おかあさん。そして、晄史、誓。」
ご飯を食べながら雑談をしている3人に。
その声に3人共に、
「うん…???」
晄史、姉を見て、
「どうしたの…???」
誓も瞬きをして。
暁美、睦美を見て、
「うん…???」
睦美、3人に。
「あのね。…実は~~。この間の結婚式の時の~~。」
その声に3人、
「うん。」
誓、ニッコリとして、
「凄かったよ、お義姉さん。」
晄史もニコニコと、
「さすがは元ピアニスト。」
暁美もニコニコと。
「うんうんうん。…で…???…どうしたぃ。」
睦美、
「あのね。あれからずっと考えてたんだけど~~。みんなには内緒にしてたんだけど。」
晄史、ニコニコとしながら顔を傾げて、
「うん…???」
誓も同じように。
睦美、
「実はね。汐梨さんから、セレモニーの専属ピアニストになってくれないかって、言われてて~~。」
瞬間、晄史、目を真ん丸に。
「うそ。凄ぇ~~。」
誓も同様に、
「凄~~い。」
暁美は微笑みながらも、
「ふふふ。」
睦美、
「でぇ~~。あれこれと~~。悩んでは、いた。…まぁ。汐梨さんも~~。音楽教室の仕事に支障がない程度にって、言ってくれて。まっ。確かに。結婚式での生演奏、時間としては2時間くらい…???…でも、もし仮に。日中に結婚式となると~~。音楽教室、途中で外出って…。」
暁美、すぐさま、
「やっちゃいなさい。引き受けちゃいなさい。」

ママでいい…。 vol,229. 「高井戸さんのお宅には、私の居場所って言うのがないんだよ。」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
《PR》
庄司紗千 花笠音頭
※ご本人の承認の下、紹介させて戴いております。
