耀司、スマホに、
「あと。15分くらいかな。切るね~~。」
「あ~~い。」
駅に入りそのまま…。
晄史、睦美、一切会話をしていない。
ホームで…。
晄史、姉の傍で、
「やっぱり、怒ってる。」
睦美、その声に、晄史は見ないで、
「…だから、怒ってないって。」
「でも…、あれから口、開かないし。」
その声に睦美、唇をビロンと。
「もぅ~~。色々と。あるのよ~~。」
晄史、そんな姉に、
「はいはい。」
電車の音。
「おっと、来た。」
睦美の脳裏に蘇るあの時。
…………1年前…。
急ぎ足で病院の廊下を。
…そして病室に…。
医師とふたりの看護師。
ベッドの上にはひとりの男性。
睦美、医師と看護師にお辞儀して…。
医師と看護師も睦美に軽く会釈を。
看護師のひとりが…。
「眞鍋さん。」
睦美、強張った表情でベッドに。
そして看護師、今度はベッドの上の男性に僅かに腰を低くして、
「阪部(さかべ)さん、眞鍋さん、来ましたよ。」
低い声で優しく。
実は、その看護師が、高井戸祐里子(たかいどゆりこ)である。
そして眞鍋を促す。
睦美もベッドの男性に、
「洵(じゅん)。」
医師、
「何とか…。…間に合って良かった。…もはや…。我々の…手を尽くす事は…。」
ベッド上の男性。マスクの中…。
僅かに呼吸はある。睦美の声に、何とか反応しての目が…。
睦美、また、
「…洵。」
そして…、男性は目を閉じ…。
…その数分後…。
今まで波動があったはずのモニターの波動が…。
数値は、「0」
看護師のふたり、モニターを見て、そして医師を見て。
医師、瞳孔を確認。そして…。腕時計を…。
「……………。ご臨終です。」
頭を下げながら。
看護師ふたりも頭を。
睦美、ベッド際で、
「洵…???…洵…???」
ベッドの上の男性を、全体を見てまた、
「洵…???…洵…???」
そして、今度は声を高く、
「洵っ!!!…洵っ!!!…洵。」
布団を叩きながら、
「やだよ。…やだよ。…やだよ。やだよ。やだよ、やだよ。やだよ。」
そして…。布団に顔を埋めて…。
「あ―――――――――っ。」
「姉さん…???」
晄史の声。
我に返る睦美。
「あ。」
晄史、電車の中で、
「ドア、閉まっちゃう。」
急ぎ足で睦美、
「あ、うん。」
そして、電車に乗って。
晄史、
「どうしたの…???…ボーっとしてたけど…。」
その声に睦美、晄史を見て、
「うん…???…はは。ううん。何でも…。」
汐梨、耀司を送り届けて、
「じゃね~~~。」
耀司、手を挙げて、
「おぅ。」
そして、
「ありがとうな。」
「おやすみ。」
「うん。おやすみ。」
後部席のチャイルドシートの中で眠っている麻沙美に、
「麻沙美~~。帰るよ~~。」
耀司、そんな麻沙美の顔に手を振って、
「おやすみ~~。」
高井戸家から車が出る。
チャイムを鳴らして耀司。
ゆっくりと玄関にバセット。
「ク~~ン。」
耀司、バセットの頭を撫でて、
「ただいま、バセット。」
階段から芙美花、
「あ、おかえり、おとうさん。」
耀司、芙美花を見て、
「おぅ。ただいま。今帰った。」
芙美花、階段を降りながら、
「うん。」
そして父より先にリビングに。
「今まで、音楽教室の眞鍋さんと…???」
「うん。眞鍋さん、音楽教室の事務局の人と~~、その弟さん。弟さん、レコード会社のダイナムズの人。」
芙美花、
「うそ。ダイナムズ。凄っご~~~。」
耀司、その声に、
「かかかかか。」
芙美花、目を真ん丸に、
「めちゃくちゃ凄いじゃん、ダイナムズって、あのダイナムズだよ。ヒットメーカーの。」
耀司、ニッコリと。
「かかかかかか。まま。ん~~。まっ。表現としては、うんうんうん。確かに。ヒットメーカー。の、方が分かりやすいか。日本の三大レコード会社って感じかな。」
芙美花、椅子に座って、
「あ~~。うんうんうんうん。」
耀司、冷蔵庫からウーロン茶を。グラスに注いで。そして、
「とにかく芙美花。」
そのまま芙美花にお辞儀をして、
「お疲れ様でした。」
その声に父に振り返っての芙美花、ニッコリと、
「うん。」
耀司、テーブルに、
「しっかし、凄いよね~~。高校生であれだけのレベル。いやいや感服。いきなりドボルザーク、新世界が出て来たから、オホ。これやるぅ~~~???…凄ぇなって。」
芙美花、ニコニコと、
「うんうんうん。先生、今回は最初っから、マックスで行くって。だからもぅ~~。大~~ぃ変~~ん。しょっぱなからダイナマイトがドド~~ンと。」
「かかかかか。うんうんうん。」
耀司、ニコニコと。そして、
「それにしても、さすがに我が娘。大成功、ラプソディ・イン・ブルー。…いやいやいや。中々どうして…。完璧なんじゃない、あれ。」
「もぅ~~~。無我夢中~~。客席なんて目に入らない。とにかく、吹く。吹く。吹く。吹く。…これしかないって。」
耀司、可笑しがって、
「あ~~。うんうんうん。」
「そしたら、何だか楽しくなってきちゃって。完璧にピアノと私が、コラボしちゃってた。はは。」
耀司、そんな芙美花を見て、ニコニコと、
「うんうんうん。分かる分かる。」

ママでいい…。 vol,074. 晄史、姉の傍で、「やっぱり、怒ってる。」
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