病室のドアに向かう谷津峰。その後ろに小埜瀬。
ベッドの上で優維香、
「私…。」
周りには数名の患者。
隆英が優維香の傍に戻る。
「隆英…さん。」
「隆英でいいですよ。僕も、優維香さんを優維香って呼びますから。」
優維香、
「私…。」
隆英、優維香を見てニッコリと。
「少し…、無理しましたか…???…あれやこれやと…。」
その声に優維香、
「えっ…???…いや…。でも…。だって、私…。」
隆英、笑顔で…。
「僕が言いましょう。優維香のおかあさんに。」
そして、優維香の右耳に近づいて、
「優維香さんと結婚させて下さい。」
優維香、その声に目を真ん丸に。そして、隆英を見て…。すぐさま目が潤んで…。
目を閉じて。すぐさま涙が目尻から…。小鼻が赤くなる。
優維香、ニッコリと。
「…って。…へへ。…見破られてたか。」
隆英、優維香を見て、
「まっ。そのようです。」
優維香、隆英を見て、可笑しいように、
「なんか…、他人事みたい。」
「その方が、僕みたいでしょ。」
「ふふ。」
「まぁ、多分…???…優維香の場合は…???…最初に、動画を見て僕の親父に驚いた。とにかくフランスでのプレゼン。」
その声にベッドの中の優維香、ゆっくりと目を閉じて頭を動かす。
隆英、
「そして…。その動画を見た僕が、親父に似ている。…で、始まって、僕が親父に電話して、そこから親父が今、本当にフランスにいる事が分かり、プレゼンも親父だと判明。しかも、親父。実は、優維香のおかあさんの会社でおかあさんと同じ部署で働いていた。」
優維香、また頭をコクリ。
「そして。これが肝心なんだけど…。優維香のおかあさんが、僕の親父と付き合っていて、結婚すると優維香に報告。仕事がハード。スタッフコレクションに続き、リッツカルバン。そして、スタッフコレクションの波及なのか、はたまた、何かの悪戯なのか。国内大手の居酒屋チェーンの夢蔵とのコンペならぬ争奪戦。しかも、相手が因縁の伊玖伊那。そして…、結果的には敗北。な~~んだけど…。」
ベッドの中で優維香、話す隆英を黙ってジッと見ている。
「それが、思わぬところから、株式会社経営コンサルティング・WAKOに繋がった。そして…、そのWAKOからまたまた契約効果に波及。そして…。息付く暇のなく、今度はこれまた国内最王手のヘアサロン、COCOと来た。優維香、結構、ひとりで抱えるタイプだから~~。」
その声に優維香、口を尖らせて、
「…んな事言ったって。」
真っすぐ前を見て…。
「…で…???…とどのつまりは、おかあさんに僕の事、どう切り出そうかと…。それと仕事と同時に、頭の中が…。」
いきなり優維香、布団を頭の上まで。そして、一旦は顔を出して、隆英に、
「べぇ~~~。」
隆英、思わず、
「かかかかか。」
そして、優維香もニッコリと。
「ふふん。」
けれども優維香、
「あ。部長と課長に、私…。」
「あ。それはもう、大丈夫です。僕が連絡しておきましたから。課長からはお願いって言われています。そして、真宮社長には谷津峰社長から連絡を。」
優維香、ベッドの中で目を大きく、
「わ~お。」
「夕方辺りには、退院できるかと。軽い脳震盪。」
優維香、
「脳震盪かぁ~~。初めてだわ~~。…今まで、こんな事。」
「抱え込むタイプですから、優維香。見ていて分かります。」
「うそ。」
「…と、言うより、やらないと気が済まない。まっ。それにはメンバーの力も最大限ですけど。…でも。」
その、「でも」に優維香。
「でも…。」
隆英、
「えぇ。…でも、僕のアイディアが…。デッサンが、優維香のデザインの基礎になっているというのが、嬉しくってねぇ~~。表現力なんて、僕の上を行っているみたいな…。それをしっかりと日本ではモノに出来ている。みんなが優維香を信頼していれば、優維香もみんなを信頼している。素敵な関係の輪ですよ。僕なんて、とても、とても、そういう関係までは…。」
ニコニコしながらの隆英。
「おっと。何か、飲み物、買ってきましょう。飲むでしょ…???」
優維香、
「あん。うん。お願い。」
隆英、椅子から立ち上がり、ベッドの前を通り過ぎて…。廊下の方に。
斜め向かいの…60代くらいの女性だろうか、いきなり優維香に、
「お姉さん、彼氏かぃ。」
ニッコリと。
「いいねぇ~~。若いってのは~~。」
その女性の隣でリンゴの皮を剥いている女性。30代だろうか、
「おかあさん、失礼よ。」
そして優維香に向かって頭をペコリと、
「すみません。」
優維香、そんなふたりにニコリと。そして軽く顔を左右に、
「いいえ。」
会社に着いたのが夜の7時。
優維香、
「えっ…???」
小埜瀬も、
「おや。」
事業部に入ると、
「おかえり~~。」
「もぅ~~、心配させないでよね~~。」
「チーフ、大丈夫ですか~~???」

好きになれない。 vol,286. 「僕が言いましょう。優維香のおかあさんに。」
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