「とにかく、その場にいる君に、頼むしかない。何とか…、おばあさんを…。」
スマホから藪岡の声。
真輝、
「はい。分かりました。」
そして愛実を見て、
「先生。」
「うん。」
「今、僕、柚香さんの部屋にいますが、実は、僕、柚香さんの友達から電話貰ってここに来たんです。」
その声に藪岡、
「ほぉ。」
「だから、柚香さんの友達も、今、僕の目の前にいるんですよ。」
瞬間、藪岡、
「あ、あ〜〜。なるほど。」
そして、
「はは。うん。うんうんうん。それなら尚更心強い。うん。じゃ、何とか、頼めるか…???」
真輝、スマホに、
「はい。分かりました。」
そんな真輝を見て愛実も、微笑んで頷く。
真輝、通話を切る。
口を噤んで黙ったままの陽織。
真輝、
「さて…と。」
愛実も、
「うん。」
「陽織ちゃんさ〜〜。僕の顏、覚えてる???…一度は会っているんだけど…。」
その声に、ベッドに深く腰を下ろしたままの陽織。
目の前の男性にコクリと頭を下げた程度で。
真輝、そんな陽織に笑顔でこちらもコクリ。
「うん。そっか。」
幸乃、洗濯物を畳んでいる。その時にスマホの着電。
「あら。」
但し、見覚えのない電話番号。
恐る恐る。
「はい。もしもし、汀ですけど…。」
スマホを向う、
「もしもし。汀さんの携帯電話番号で…、よろしいですか。」
「あ、はい。」
男性の声。
「あの、私、新宿の蔵廉(くらかど)大学附属病院の精神科の精神科医をやっております。藪岡、と、申します。」
幸乃、何が何だか分からない表情で、
「あ。…はい。」
スマホの向こう、
「あの。実は、汀陽織さんと柚香さんとの…。まぁ…。知り合いと、いいますか…。」
その声に幸乃、いきなり表情を変えて、
「あ、のぉ〜〜〜。何を…仰りたいのか…???…まっ、確かに、私には柚香と言う孫がおりますが…。これと言って…。それに、陽織と言うのは、その妹ですが、既にこの世には…。」
「2歳で、交通事故でお亡くなりに。」
瞬間、幸乃、
「えっ。」
藪岡、椅子を僅かに回転させて、
「汀さん。柚香さんのおばあさん。」
幸乃、スマホ越しに、
「あ、はい。柚香の祖母の、汀、幸乃ですけど…。」
スマホから聞こえてくる声、
「あらためて、新宿の蔵廉大学附属病院の精神科の精神科医、藪岡海路と申します。」
そして、
「汀さん。汀幸乃さん。」
「あ、はい。」
幸乃、スマホに。
「失礼…ですが…。柚香さん、最近変わった事が…。」
その声に幸乃、
「あ、いいえ〜〜。特には…。」
藪岡、
「そう…ですか〜〜。」
幸乃、
「あ、あのぉ〜〜。」
藪岡、スマホ越しに、
「あ。これは…、大変失礼しました。」
そして、一拍置いて、
「汀さん。幸乃さん。柚香さんのおばあさん。解離性同一性障害。と、言う言葉は、ご存じですか。」
その声にまた幸乃、
「えっ…???」
「大変、申し上げにくいのですが、柚香さん本人と、その事について、お話しております。そして…。…実に、有り得ない話なんですけど…。私自身も、柚香さんの妹さんの陽織さんに…、お会いしております。」
最後の方の話にはいきなり幸乃も、目を見開いて、
「えっ…。」
藪岡、
「…ただ…。ご心配なく。話を伺っているだけです。何故、こういう事になってしまったのかと…。そして…。未だ、その原因には結びついては…、いないんですけど…。」
幸乃、
「あのぉ〜〜。」
藪岡の声が、
「汀さん。柚香さんのおばあさん。…実は…。落ち着いて聞いてください。今、柚香さんの部屋には、柚香さんではなく、陽織さんがいます。」
その声に幸乃、いきなり口に左手を…。
「柚香さんの部屋に今、柚香さんの友達の勝巳真輝君と女性の人がいるんです。」
幸乃、いきなりおどおどするように、
「え、え〜〜。」
そして天井をチラリと見て、
「柚香の高校時代からの友達の井島愛実ちゃん。そして…。真輝君と言う、柚香とは病院で…。」
「えぇ。その通りです。…その…、真輝君から今さっき電話がありました。柚香さんが、陽織さんになっていると。」
また目を見開いて表情を変える幸乃、
「えぇ〜〜〜???」
その声に藪岡、
「幸乃さん。おばあさん。申し訳ないですけど、慌てないでください。」
けれどもその声に幸乃、いきなり厳しい声を上げて、
「慌てないでくださいって、そんな気持ちになれる訳ないじゃありませんか。」
間髪入れずに、スマホから、
「慌てて、事が収まりますか…???…今、柚香さんの体は陽織さんになっている。その体、元に戻りますか…???」
幸乃、自然に目には涙が…。そして鼻を赤く…。口を押えて…。
「…どうして…。そんな事に…。」
藪岡、話し出す。
「どうか、落ち着いてください。今、柚香さんの部屋に、真輝君と友達の女性もいます。実はそのふたり、柚香さんが解離性同一性障害である事を、知っているんです。」
その声にまた幸乃、
「えっ!!!…まさか…。」
「えぇ。…それで私にも訪ねて、来ています。」
一度立ち上がった幸乃、今度は膝から崩れて…。

LIBRA~リブラ~ vol,090. 「もしもし。汀さんの携帯電話番号で…。」
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