陽織、目の前の男性に、僅かに、素直になったような…。
けれども、頭の中の混乱さまだ消えないまでも、
頭に浮かぶ初めて見た病院の病室。
口を尖らせながらも、
「私…。…いきなり目が覚めたの。」
「いきなり目が覚めた…。」
真輝、歩き始める。
「目が覚めたって…、何処で…???…いつ…???」
その声に陽織の目の前の男性の後ろを歩き始める。
「病院で…。」
「病院でって…。…もしかして…、世田谷長篠観音総合病院…。」
その声に陽織は、ムスっとした顔で、
「そんなの分かんないよ、私、初めて見る景色だから…。」
「初めて見る景色って…、君…。」
「目が覚めたら、ベッドの中にいた。…で、体がこんなんになって。」
真輝、後ろを歩いている陽織に振り向いて、
「えっ…???」
「…で…、ベッドの名前のトコみたら、柚香になってて…。私、何が何だか分かんなくって…。おばあちゃんにも私は柚香じゃなくって陽織って…。…言ったら…。何だか、信じてもらえないような…。」
真輝、頭を傾げながら…。
陽織、続ける。
「だって…、私…、小っちゃい時の記憶しかないから…。何も、全然、記憶がない。」
真輝、口を尖らせたままで前を歩きながら、
「柚香さんが柚香じゃない。陽織…。…で、記憶がない…。…これって…、どういう…???」
その時、真輝、
「あっ。」
陽織に振り向いて、
「あの…さ。」
陽織、
「何…???」
「もしかして…。今の君の状態…。君のおばあちゃん、知ってるの…???…僕には君のおばあちゃん。…つまりは、柚香さんのおばあちゃん、なんだけど…。柚香さんにはおばあちゃんしかいなくって…。」
陽織、すぐさま、
「うそ。おばあちゃんしかいないの…???…おかあさんとおとうさんは…???」
真輝、思わず困ったような顔で、
「う~~ん。まだ…、そこまでは…、僕も実際、柚香さんからはその事は、聞いてないんだ。」
そして真輝、
「…って言うか…。…だから…。…もし、君がこのまま、家に帰ったとして…。おばあちゃん、大丈夫なの…???…柚香じゃなくって、陽織だって言うの、知ったら…???」
瞬間、陽織、
「あっ。」
「病院でさ。初めて君が陽織で…。それからおばあちゃん、今の君の事って…。」
途端に陽織、目をあちらこちらに…。
「おばあちゃん…。まだ…、私の事…、知らない…。」
真輝、
「もう一度、聞くけど…。今、僕の目の前にいるの…。君、陽織さん…だよね。…柚香さん…じゃ、ないよね。」
陽織、その声に顔だけ、コクリと…。真輝、左手を顎に、そして、小声で、
「やばいな。」
陽織、
「やばいって…何が…???」
真輝、少し考えている風な…。
「いや…。だって…。普通、驚くでしょ。いつも傍にいる人が、柚香さんで…。それが…いきなり陽織さんになってるって…。…それに。」
陽織を見て、
「君は、記憶が小っちゃい時の…しか…。ないんでしょ。…今現在。そして…、柚香さんの過去の事も。」
そこまで聞いて陽織、顔を左右に振る。
「全然、知らない。今、柚香って…何を…。」
「柚香さん、今、大学に通っているんだ。」
「大学…???…あっ。そう言えば…、そんな話…。」
「とにかく。」
真輝。
「君がこのまま家に帰っても…。柚香さんじゃない君の事、すぐにおばあちゃんは気付いちゃう。」
真輝、僅かに目の焦点をずらして…。
「…と、なると…。多分…。パニクる。…いやいやいや。」
小刻みに顔を揺らして、
「良い訳はない。…んじゃ…、どうする…???」
そこまで考えながらも…。思わず足を止めて…。
「えっ…???」
自分の歩いている方向を…。そして…、来た道を…。
「…って…。」
陽織、僅かに頭を傾げて…。
「もしかして…。僕ら、君の家に向かって…。」
陽織、ブスッとした顔で、
「…そう…だけど…。こっち…、私の家の方向。」
真輝、口を尖らせて…。
「…って言うか…。記憶が…小っちゃい時しかない…。…でも、声と話は…、全然、今…だよね…。」
その声に陽織、
「う…、うん。…あなたの…話も…、理解…出来るし…。私も…、話せる。…って…、どうなってるのか…、分かんないけど…。」
「そっか~~~。う~~ん。」
真輝、両目をキョロキョロと…。
陽織、真輝と言う男性を見て、
「…で…???…どうすんのよ。」
真輝俯き加減な顔で、
「ん~~~。柚香…さん。おばあちゃん…。…と、なると~~~。」
そして、一瞬閃いて…、
「あっ。」
真輝を見つめる陽織。
真輝、
「…これしか…。」
そして、
「うん。」
陽織に、
「ねぇ。」
陽織、口を尖らせて、
「何よ。」
「君の家に…。僕も行くよ。」
その声に陽織、
「へっ…???…なんでよ…???」
「とにかく、行く。…そうでもしないと…。…ただ…。」
「ただ…、何よ…???」
真輝、考えている風に…。
「ん~~。まだ…、分かんないけど…。」
そんな真輝に陽織、ツンとしたままで、
「変なの。」

LIBRA~リブラ~ vol,038. 「私…。…いきなり目が覚めたの。」
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