ギターバッグのベルトを右肩に、その男性がドアを開けて歩いて行く。
その左側。ヘッドホーンを頭に、タブレットを真剣な目で見ているひとりの男性。
可南子、
「うそ。マジで、同じ電車に…。ぷっ。」
航である。
数メートル離れた場所。可南子、
「くく。黙って見~てよっ。」
そして次の駅で降りて。そのまま航の後ろを。
「わお。全く気付かない。かかか。…まっ、気付く訳ないか…。ヘッドホンしてるし。」
と、思った矢先、
「でも…。ヤバイよ、海野君。しゃあないか。」
そして数メートル後ろから航に向かって急ぎ足で…。
「へっ…???」
航の左肩をトントンと右手で…。ひとりの女性。
航がようやく気付いて、顔を見てお辞儀を…。
そしてヘッドホンを頭から外して。
可南子、その女性を見て、
「かけ…い…さん。」
先日、ライズのリハーサルにみんなで行った時に出会った女性である。
「確か…、かけい…、みわ…さん…???」
数メートル後ろを歩いている可南子。
何かしら、同じ学校の男子が、全くどこの女性かも分からない、
そんな人と連れ添って歩いている景色を見て、
少しずつ、歩みも遅くなる。
その時、
「へっ…???なんで私…、ゆっくりに…なってる…???」
頭を傾げながら…。そしてまたいつもの歩き方に…。
数メートル先、にっこりと笑いながら航に話し掛けている美和。
それとは別に、それほど変わりない航の表情。
少しずつ、人通りが少なくなった道。結局は、数メートルだった間隔は、
ビルの前では10数メートルへと変っていた。
丁度、航と美和がエレベーターの中にいる頃、
ビルのエントランスに到着した可南子。
インターホンで、和樹の声を聞き、エレベーターに。
部屋に入って、和樹に、
「こんにちは。よろしくお願いします。」
和樹、
「よっ。待ってた~~うん。夏休み、始まったね~~。」
可南子、
「えぇ。はい。」
「航と美和さんも、今、来たトコ。途中で一緒になったんだって。」
部屋の入口から歩いてくる可南子を見て航、
バッグからギターを出しながらにっこりと、そして手を振る。
美和も可南子を見てニッコリと手を…。
ふたりに手は振らずにお辞儀をする可南子。小さな声で、
「よろしく、おねがいします。」
和樹、
「矢島さん、楽にしていいですよ~~。キーボードは…、是非、ご自由に~~。何でもどうぞ~~。左近ももうじき来ると思うから…。」
可南子、
「はい。ありがとうございます。」
少しは緊張しながらもバッグをテーブルに。そして中からファイルを。
そしてゆっくりとキーボートに向かう可南子。
その一部始終を見ている美和。
もう既に、自分のポジションでスタンバっている航と和樹。
キーボードから流れるメロディ。
和樹、航、
「お~~。」
美和、目をキョトンとして、唇を少し絞った感じで…。

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庄司紗千 「雫音〜shizukune〜」
※ご本人の承認の下、紹介させて戴いております。