たどたどしい足取りでリビングに入って来て開口一番、
「なんだ、直道はまたいないのか…。」
ポツリと惠(めぐむ)。
汀直道の父親、汀惠(めぐむ)である。
ファミリーレストラン「MEGUMI(めぐみ)」の創始者である。
キッチンで料理をしながら侑佳、義父の顔を見ながら…、
「すみ…ま…せん。…お義父さま。」
松葉杖を妻の志摩子に渡して、
「ありがとう、母さん。もう大丈夫だ。」
志摩子、
「いい…???」
「あぁ…。それより、侑佳さん…手伝ってやってくれ。」
「え…、えぇ…。」
「全く…、自分の女房をなんだと思ってる。」
侑佳が自分の前にお茶を置いて、
「ありがとう。申し訳ないね~侑佳さん。寂しい思いをさせてばっかりで…。」
そんな惠の声に、微笑んで、
「いいえ…。」
侑佳。
「柏木のお母さんは…元気…???」
さりげなく侑佳に声を掛ける惠。
そんな惠の顔を見る事はなく、キッチンで侑佳の作った料理の味見をしている志摩子。
殆ど表情は変えずに…。
「えぇ…。お蔭様で…。…お義父さま、足の方は…???」
「全く…。ははは。私も…、もはや…、歳かね~。」
そう言いながらキッチンの妻の顔を見つめる惠。
チラリと夫の顔を見て、僅かながら微笑む志摩子。
「まさか…、松葉杖の世話になろうとは…。」
気の毒そうな顔で義父の右脚を見る侑香。
そんな侑香の顔を見て惠、
「やれやれ…。また侑香さんから、そんな目で見られてしまったか。適わんな、こりゃ。ははは。」
「無茶するからですよ。歳を考えて下さい。」
キッチンから志摩子。
そんな志摩子の声を聞いて、思わず恐縮する惠。
「すまん、すまん。以後…気を付けます。」
一ヶ月前に、町内会での草野球の試合があった。
惠は特に選手ではなかったが、そのチームのスポンサーだった。
試合開始直後、チームの監督に電話があり、
キャッチャーである選手が胃腸炎で病院に運ばれたとの事。
補欠選手もいないチーム。つまりはシルバーのチーム。
そんな中で高校時代に野球の捕手の経験のある惠が、
自分から名乗り出たのである。
応援に来ていた志摩子は止めたのだが、
選手たちから歓迎ムードで迎えられ、試合開始。
シーソーゲームの中で最終回、まさかの相手チームのツーベースヒットで、
1点が入れば逆転負け。
懸命にサードを回った太目の選手が勢い良くドタドタとホームベースに…。

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庄司紗千 花笠音頭
※ご本人の承認の下、紹介させて戴いております。