実際、今日の午後のように、駅の改札を通り過ぎた後は、
どこをどう歩いているのかさえも分からなかった。
ただ、周囲から見れば、通り過ぎる人の流れの中にただひとりだけ、
その流れに逆らう姿…と、言う風に…。
もう…どれくらい歩いただろう…。
いつもならもうとっくに着いているはずの自分のアパート…、気付けば…。
「…えっ、やだ…、まだ…こんなとこ…???」
ふと足を止め、前を見て、そして、右を見て左を見て、
そしてゆっくりと後ろを向いて、歩いて来た道を見つめる…。
そして、一言…。
「健介…。」
そしてまた…涙。それを右手の甲で拭いながら、
路面をパンプスの踵でさりげなく蹴飛ばすような感じでまた、前に振り向き、
今度はいつも通りの歩き方で…。
それでも涙は流れてくる。
そして、いつの間にか小走りになり、涙を拭いながら、
駆け足でアパートの玄関までたどり着き、ベッドに上半身を預けていた。
何故だか、身体を動かす気にもなれなかった。
腕時計を見ながら…、
「…まだ…7時過ぎ…。」
それでも自然に乾いた涙のままで、とにかく…、
「…からだ…おも…。」
そして、目を閉じれば…鬱ら、鬱らと…。
バッグの中ではスマホに着電。
薄いブルーの灯りが暗がりの部屋にバッグの中からわずかに漏れる。
その音と灯りに気付きはするが、全く身体が動こうとはしない。
時間を置いて3回目の電話を掛ける健介。
「何やってんだ、紗友のヤツ。全然出ねぇや。…ったく~!」
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