つまり、かつての松下家が経営していた旅館は、 時代の流れからか経営困難になっていた。
しかもその経営難の状態でも経営者としての父親、松下雄大は、
由緒正しい旅館の経営方針を伝統継承として一向に方針を変える事をしなかった。
そんな雄大を信じつつも陰で支え続けた健介の母親、松下瑛子は、
何とか旅館経営を継続しようと、懸命に主である雄大に、
客受けするアイディアを持ち込んだものの、
受け入れられずに、頑固一徹の雄大は経営困難、
そして多額の負債を抱え込んで遂には還らぬ人となった。
哀しみの淵にあった松下家ではあったが、
それを立ち直らせたのが、亡き雄大の妻であり、
そして雄介と健介の母親瑛子だった。
人の喜ぶ顔が好きで、とにかく一緒にいれば笑顔で、
それでいて優しく抱き抱えてくれる母親でもあった。
旅館に訪れてくれる客一人一人に笑顔で、
しかも、訪れた客が、今、一体何をして欲しいかを先回りして、
客にもてなすと言う気持ちを大切にしている人だった。
そんな母親だからこそ、健介は母親の温かさを、
他の女性から以上に子供の頃から体感していたのだった。
そんな母親の顔と…だぶる一人の顔…、
「片倉…奈々子…。」
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