人生三度目の文楽。『勧進帳』を鑑賞 | マサミのブログ Road to 42.195km

マサミのブログ Road to 42.195km

走る・観る・聴く・読む・歩く・食べる・楽しむブログ

2/17(火)の夜、文楽(人形浄瑠璃)を観に行きました。

 

 

場所は「KAAT(神奈川芸術劇場)」です。横浜スタジアムがある関内から中華街を抜けて、ホテル・ニューグランドや山下公園のほうへ行く途中にあります。

 

 

KAATは中華街に近いし、ちょうど「春節祭(中国のお正月)」の期間中ということもあって、ロビーには『西遊記』をモチーフにしたランタンが飾られていました。

 

 

2011年に出来た劇場ですが、私は初めての訪問でした。(写真はKAATのサイトより)

 

演目はこちら。

 

 

パンフレットの表紙には書いてないけど、分かる人は写真で分かりますよね。はい、『勧進帳』です。能や歌舞伎でもお馴染み。

 

私は文楽を観るのはこれが3度目になります。過去に観たのは…

2023年9月『曾根崎心中』@国立劇場

2025年6月『義経千本桜』と『平家女護島(俊寛)』@1010シアター

この2回、3作品でした。今回も含めて4作品を鑑賞した文楽のうち2回が「義経」がらみというのも、何かの縁でしょうか。

 

『勧進帳』のあらすじ

兄・頼朝から嫌疑をかけられた義経は、弁慶をはじめ僅かな供を連れて奥州へ逃げようとした。頼朝は各地に関所を設けて警戒する。加賀の国・安宅の関を見張るのは富樫乃介正弘だった。

 

義経一行は山伏に扮装し、義経自身は強力(ごうりき・荷物運びの下っ端)に化けていた。一行が安宅の関にさしかかると、見とがめた富樫が弁慶を呼び止め「勧進(寄付)を募って歩いているなら『勧進帳』を持っているはずだ」と問い詰めた。すると弁慶は、実は何も書いていないまっさらの巻物を取り出し、さも本物の勧進帳のように読み上げる。

 

しかしなおも疑う富樫は「山伏のいで立ちの意味は」「なぜ錫杖ではなく金剛杖を持つのか」「太刀は脅しのためか、それとも本当に斬るためか」などと問答をしかけるが、弁慶はすべてすらすらと即答する。

納得しかけた富樫は一行を通そうとするが、強力が義経に似ていることに気がつき、待てと声をかける。すると弁慶は強力(義経)に向かって「モタモタして迷惑なだけでなく、疑いをかけられるとはなにごと!」と、主君である義経を金剛杖でめった打ちにする。それを見た富樫は一行の通過を許すのだった…(あとは略)

 

私は子供のころ、芝居が好きだった祖母と一緒にTVで歌舞伎を観たりして、何も書いていない巻物を本物のように読み上げるくだりは知っていました。でも今回は、巻物の後の場面で、富樫が次々に繰り出す嫌がらせのような細かい質問に弁慶がよどみなく答える場面のほうが印象に残りました。

 

特に富樫が「目に見える敵ならその刀で斬ることもできるが、姿形のない邪悪な魔物に襲われたらどうする」という意地悪な質問をぶつけると、弁慶が「これは秘密中の秘密だが…」ともったいぶった上で「どうしても聴きたいなら教えてやるからよく聴きなさい」といって「九字の真言」とその使い方を教える場面。

あそこが観客にとっては一番のカタルシス(胸がスッとする)ところかなと思いました。

 

富樫のセリフと弁慶のセリフがカブり気味にテンポよく繰り出されるので、聴いていて気持ちがいいんです。

そして舞台の上でも、弁慶のお供の者たちが「どうなることやら」と心配そうに見ているのですが、弁慶の見事な切り返しに「ははぁ…イヤこれは大したものだ」と感嘆しているのが、人形のちょっとした仕草で伝わってくるんですよね。

 

 

(写真は国立劇場のサイトから)

 

それと、あやうく富樫に見破られそうになった時、弁慶が一瞬躊躇しながらも、「こうするしかない」と覚悟を決めて自分の主君である義経を金剛杖で「これでもか」と打ち据えるところ。人形なんですけど、ほんのかすかな動きで、弁慶の揺れる気持ちが伝わるんです。観客は弁慶のつらい心うちが分かっていますから、ここはもう涙、涙…

 

追っ手を逃れて安全な場所に移ってから、弁慶は義経に平謝りに謝ります。その場面での弁慶のセリフ。

 

敵を欺く計略なれど、正しき君を強力とするさえも冥加至極と思う上、杖にて主君を打つ咎めの、空恐ろしき天罰を、受くべき我は厭わねど、御労しき御身の果てと、思えば上げしその杖は幾千貫の鉄杖(かなえ)より、遥かに重き心地して、日頃鍛えしこの腕も、痺れる如く覚えしぞ

 

いやぁ、名場面、名セリフですねぇ!こうやって書き写しているだけで胸が熱くなります。

 

 

ーーー

 

 

私は、過去2回観た文楽とは、今回は違っている点が多いなと思いました。たとえば…

●登場人物のセリフをしゃべる「太夫」と、その隣に座る三味線の人数が多い!「太夫」は落語のように一人の人が複数の登場人物の声を使い分けるが、『勧進帳』では弁慶役の太夫と富樫役の太夫、その他の太夫が分業だった。

●通常の文楽では、主役の人形を動かすのは3人で、そのうち「頭」と「右手」を担当する「主遣い(おもづかい)」だけが顔を見せる。後の二人は黒子だが『勧進帳』では3人とも顔を出す「三人出遣い」という形式だった。

 

これらはパンフレットを読み込んで分かったことです。また、セリフは「EGーG」というアプリをスマホにダウンロードしておくと、物語の展開に連れてスマホ画面に表示されるので助かりました。

国立劇場や1010シアターではステージ脇に「字幕」があったのですが、これなら字幕より見やすいかもしれない。歌舞伎や宝塚、邦画の映画もこうならないかなぁ。

 

でも、バレエやオペラと同様、文楽も事前の予習は欠かせないですね。私は『勧進帳』のあらすじはネットで調べた上で会場に行き、パンフレットを買って開演までの間に大急ぎで読み込んでおいたので、なんとかついていくことが出来ました。

予習だけでなく終わった後にパンフを隅々まで読むと「ああ、そういうことだったのか」と気がつくことも多く、それもまた楽しみのうちです。

 

 

音譜

 

 

ずっと洋楽ロックしか聞かずに生きて来た私ですが、自分の知らない素晴らしい世界を知らないままで人生を終えたくないと思い、還暦の前後からクラシック、ジャズ、オペラ、バレエ、宝塚、文楽、能・狂言など手当たり次第に体験しています。

 

気力と体力と好奇心が続くうちは(あと、お小遣いもですけどニコニコ)まだまだ未知の世界を探訪していくつもりです。そのためにも、元気でいないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<おまけ>

書き忘れましたが『勧進帳』では、義経は完全な脇役で、セリフも出番も少ないです。基本は弁慶と富樫のやりとりだけ。

そういえば『義経千本桜』でも義経本人の存在感は薄いんですよね。なんか面白いです。