子供のころ、テレパシーや相手の心を読むことなどに関心を持った人も多いと思います。
私は小学生のころ、筒井康隆氏の小説『七瀬ふたたび』を読んで、世界のどこかには人の心を読んだり、テレパシーが使える人がいるのだと思いこんだ時期があります。
「人の心が読めるようになりたい」「でも、自分の心を読まれるのはいやだ」などと妙に悩み、多感なときに読むといろいろ支障があったりして、ちょっとしたトラウマになっていたかもしれません。
「テレパシー」は英語ではtelepathyです。tele-はtelephone(電話)やtelegram(電報)などからも類推できるように「遠い」ということです。-pathyはsympathy(同情)やempathy(共感)からも類推できるように苦痛などの「感情」のことです。つまり、telepathyとは「遠くの感情がわかる」というのが額面どおりの意味です。
単なるtelepathyではなくmental telepathyと限定しているのは、筆者の考えるテレパシーが「言葉」を伝えることではなく、「考え」を伝えることだと言いたいからです。たとえば、お母さんが息子に「大根買ってきて」のような言葉を送るのではなく、お母さんの愛情ならそのその感情や思考そのままを受け取るといったことです。
さて、筆者はテレパシーについてどんなことを語るのでしょうか。
Mental telepathy, the process of transferring thoughts from one mind to another, has traditionally occupied the realms of either science fiction or the paranormal, both of which are outside of mainstream science. Research in 2014 has changed all that, with a scientifically validated demonstration of mind-to-mind communication.
「メンタル・テレパシー、つまり考えていることを伝え合うプロセスは、伝統的にもっぱらSFや超常現象などの領域で扱われており、どちらも科学の主流からは逸脱した存在である。2014年の調査でそれがすべて変わってしまい、心の意思疎通が科学的に証明されたのである」
テレパシーというと、雑誌『ムー』とかオカルトの入ったテレビ番組などで取り上げるイメージがありますが、筆者は、テレパシー研究が「科学」に変わるような大事な研究があったと述べています。そんな重要な実験があったことを知っていましたか? 私は知りませんでした。
では、実際にどんな研究だったのでしょうか。
Neuroscientist Carlos Grau of the University of Barcelona and colleagues set up a clever experiment in which signals picked up by an Electroencephalagraph EEG from subjects in India were transmitted over the Internet as email messages to other subjects in France whose scalps had been fitted with Trans Cranial Magnetic (TMS) stimulators. TMS devices, which have been used to treat anxiety and depression, electrically stimulate neural activity in the brain through intact scalps using strong magnetic fields. In this experiment, TMS stimulators were placed over the occipital (visual) cortex at the back of the brain, creating a perceived flash of light, called a phosphene, through neural activations in the visual cortex.
「バルセロナ大学の脳科学者カルロス・グラウのチームがすぐれた実験をおこなった。そこでは、インドにいる被験者の信号を脳波計でとってメールのメッセージとして、インターネットを通じて、経頭蓋(けいとうがい)磁気刺激装置を頭蓋骨につけたフランスにいる被験者に送る。経頭蓋磁気刺激装置は不安や鬱を治療するのに使用され、強電磁波を使って頭蓋骨を傷つけることなく脳内の神経活動を電気的に刺激する。この実験では、経頭蓋磁気刺激装置は脳の後方にある視覚皮質に置かれ、視覚皮質内の神経活動によって眼内閃光と呼ばれる視覚できる光を発する」
この分野はくわしくないのでイメージがつかめないのですが、読むかぎりは被験者の頭に装置を埋め込むような、かなり大がかりな実験だったようです。脳の話なのでむずかしい漢字がいっぱいでくるのはご愛敬。私もよくわかりませんので。
The subjects in India were trained to generate an EEG signal representing either a one or a zero using a biofeedback monitor. A one was generated when subjects imagined moving a hand, while a zero was produced when subjects imagined moving a foot. These ones and zeros were then emailed from India to France, and routed to one of two TMS devices mounted on subjects' scalps. Ones were routed to a TMS electrode that caused a phosphene to be perceived, while Zeros were routed to a different TMS device whose activity produced no phosphenes. This figure illustrates how the mind to mind communication path worked.
「インドの被験者は生物反応モニターを使って、1か0かの脳波計の信号を出すように訓練を受けた。1は手を動かすのを想像するときに発生し、0は足を動かすのを想像するときに発生する。そのとき、その1と0の信号はインドからフランスへメールで送られて、頭蓋骨につけられた2つの経頭蓋磁気刺激装置の一方に達する。1が経頭蓋磁気刺激装置の電極に達すると眼内閃光を知覚させるが、0がもう1つの経頭蓋磁気刺激装置に足しても、眼内閃光は起こさない。このしくみが心どうしの意思疎通がどのように通うのかを示すことになる」
インドの人が手を動かすのを想像すると「1」という信号がフランスの人に送られて、目がチカチカする。足を動かすのを想像すると「0」という信号が送られるが、目はチカチカしないということでしょう。
すると、インドの人が手を想像するのとフランスの人のチカチカが一致すればテレパシー成功で、手を想像したのにチカチカしなければ失敗ということになります。さて、成功率は?
Think of this a kind of neurological Morse code. The researchers encoded a series ones and zeros into words such as "hola" and "ciao," showing that simple linguistic communication was possible. The bottom line is that the experiment more or less worked. Error rates of transmission of ones and zeros varied between 1 and 11%, well below what would be expected by random noise. Why should we care?
「これは神経学のモールス信号だと考えよう。研究者たちは、一連の1と0をhola(オラ)とciao(チャオ)などの言葉に解して、簡単な言語上の意思疎通が可能であることを示した。実験が少しでも成功したことが最低限である。1と0の誤送信率は1%ないし10%で、ランダムなノイズで考えられるものを軽く上回ったので、懸念はないだろう」
holaはスペイン語でhelloのこと、ciaoはgood-byeです。
1割以下の失敗率ということですから「大成功」のレベルです。この結果なら「テレパシーは存在する」と考えてよさそうです。事実ならすごいことです。なぜ大ニュースにならなかったのかちょっと不思議ですが、いずれにしてもなかなか夢があります。
In Grau et al's experiments, we may be seeing the birth of a revolutionary means of communication that will transform our world in the way the telegraph, telephone, or television did. Someday, instead of texting, speaking or looking into a camera to communicate, we may simply "think" our message, saving all the bother of typing or speaking, or even getting out of the shower.
「グラウのチームの実験で、電報や電話やテレビがもたらしたのと同様に世界をまたいで伝わるコミュニケーションの画期的な方法の誕生を目にすることになるかもしれない。いつの日か、文字や音声や画像の代わりにメッセージを「考える」だけになって、入力や発話や、あるいはシャワーを中断しなくても済むようになるかもしれない」
筆者は文章家で、ウィットに富みとてもリズムのよい文章を書きます。最後のシャワーの下りはなかなか。シャワー中に相手から連絡があっても、慌ててからだを拭いて携帯電話に出ることなく、そのままピピピと頭の中で返信すればいい、ということです。たしかに楽ですね。
Finally, if mind to mind communication proves practical, it's possible that we will learn to communicate subtle ideas and nuances that text, speech and facial expressions cannot, forever changing the way humans relate to each other by amplifying and enriching the depth of communication. Words sometimes fail us. Thoughts may not!
「最後に、心の意思疎通ができるとわかったら、言葉や表情では伝えられない微妙な考えやニュアンスを伝えられるようになるになって、コミュニケーションの親密さを広げて深めることで、人間どうしの関係の仕方が以後ずっと変わるだろう。言葉は裏切ることがあるが、思考は裏切らないだろうから」
言葉ではなく考えが伝わるようになれば、人は嘘がつけなくなります。いや、もっと正確に言えば、嘘をつきたい、嘘でごまかしたいという気持ちが伝わることになります。
筆者はすばらしいことのように言っていますが、いつも変なことや妄想ばかりで、人に心を読まれたくない私のような人間には地獄です。あの小学生の時に読んでトラウマになった『七瀬ふたたび』の悪夢ふたたび。

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