そこで、今回は「クリエイティブ・シンキングを知るための基本書」という括りで、入手しやすい本をご紹介いたします。ほかにもすばらしい本はあるはずですが、あくまで私の独断であると割り切って参考にしていただければ幸いです。
1.『思考の整理学』(外山滋比古著/ちくま文庫)
大学生が卒論やレポートを書く前に読む本として勧められているようです。ただ、私の学生時代に読む本として勧められたのはこの本ではありません。『知的生産の技術』(梅棹忠夫著/岩波新書)や『知的生活の方法』(渡部昇一著/講談社現代新書)や『論文の書き方』(清水幾太郎著/岩波新書)や『理科系のための作文技術』(山下是雄著/中公新書)などのアカデミックな分野の大御所の書いた新書でした。
たしかにどれもすばらしい内容だったのですが、当時の私にはどうもピンと来ないというか、当たり前のことを言っているだけのように感じました。そんな中で見つけた外山先生の『知的創造のヒント』と『思考の整理学』は類書中でも最も感銘を受けた本です。なぜさほど推薦されていなかった不思議だったのですが、数年前「東大と京大の生協で売り上げトップ!」という宣伝文句とともにまたたく間にベストセラーになったことで、当時の違和感が氷解しました。
いずれもアカデミックな観点からの本ですが、大学であっても時代によって評価が変わっていくのは当然のことです。当時は、首尾一貫した論理性や、梅棹先生が提唱する資料作りを徹底したデータの中心の研究や、渡部先生が提唱する本に囲まれる教養のある人格作りなどが重視されていましたから、外山先生が主張した「面白い発想」のほうは、当時はさほど魅力がなかったのかもしれません。つまり、「時代の要請」です。
ところが、大量生産=大量消費時代が終わり、クリエイティビティが意識される世になると、論理より発想のほうが重視されるようになってきました。『知的創造のヒント』は発想重視の世の中を先取りした先駆的な本でした。そのあとを受け継ぐ『思考の整理学』も今もなお参考になるところが多々あります。外山先生には英文学雑誌の編集者の経験があり、学究のみを極めた方とはひと味違うその違った経験が、この本を書かせるきっかけになったのかもしれません。
なお、外山先生は文章家としても知られています。もし外山先生の文章に触れたことがなければ、それだけでも読んでおく価値はあるかもしれません。蛇足ながら、著者の読みは「とやま・しげひこ」です。
2.『クリエイティブ・シンキング入門』(マイケル・マハルコ著/ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)
本ブログでは何度となく告知したのでいまさら出すのも恐縮なのですが、クリエイティブ・シンキングを身につけるうえで最初に読む本としては、やはりこれがベストだと信じています。いや、もっと正確に言うと、そもそもこの本を訳したきっかけは、数あるクリエイティブ・シンキングの本で、この本がベストだと思ったからです。だから、自分が訳したということを置いておいても、まず読んで欲しいのは本書においてほかはありません。
著者はアメリカの代表的な企業でクリエイティビティに関する研究を受け持っている人物で、ビジネスにおけるクリエイティブ・シンキング指導の第一人者です。クリエイティブ・シンキングについて知るというのは、極論を言えば、「天才」と呼ばれた先達がどのように発想してきたかを知ることです。
それがわければ、クリエイティブ・シンキングが「発想」でなく「作業」であることがわかることでしょう。クリエイティブ・シンキング入門の「基本」を(「知る」でなく)身につけるという意味では、ベストの入門書はやはりこの本だと信じています。
3.『アイデア・バイブル』(マイケル・マハルコ著/ダイヤモンド社刊)
2で概論的に述べられたことを、実際に手と頭を使って鍛えるための、いわば「クリエイティブ・シンキング入門」の問題集です。クリエイティブになるためには「クリエイティブ・シンキングの方法」を知るだけでは不十分で、それを実際に作業としてやることが必須です。
本書にはSCAMPERをはじめとするクリエイティブ・シンキングのための道具立て=方法を、実際に作業としてやらせます。通勤電車などで読むのではなく、実際に紙とペン(できればマジック)を用意して、どんどん手を動かしてやっていくのがベストです。
日本人が書いた類書に『ずるい考え方』(木村尚義著/あさ出版)などいくつかあります。電車で読む「頭の体操」的な本としてはいいのではないかと思います。
なお、この分野の先駆者が、「水平思考」で有名なエドワード・デ・ボノです。ただ、残念ながら翻訳書はいずれも絶版になったようです。でも、相変わらず英語圏では読み続けられているようです。
4.『考具』(加藤昌治著/CCCメディアハウス刊)
私の知る限り、日本人が書いたビジネスにおけるクリエイティブ・シンキングの本の先駆です。大手広告代理店に勤める著者が、自らの経験を通して企画の出し方や作り方など、アイデア発想のためのヒントを詰めこんでいます。広告マン特有のセンスの良さは「考具」というタイトルからも伺える気がします。
ただし、体系的な本ではなく、あくまでヒント集(=道具)なので、仕事場の目立つところに置いておき、企画を考えるときにちょっと開いて発想のきっかけをつかんだり、時間があるときにちょっと読んで、思いついたことをメモするなどに向いています。日本人ビジネパーソンが日本人ビジネスパーソンのために書いた日本的なクリエイティブ・シンキング入門の本です。
私が会社の人事のトップで、社員研修をしなければならない立場だったら、まず間違いなく加藤さんにご協力を仰ぐでしょう。たぶん会議の仕方などもおそらく大変革することになるのではないでしょうか。なお、加藤さんは3の『アイデア・バイブル』の翻訳編集にも関わっておられます。
5.『佐藤可士和のクリエイティブシンキング』(佐藤可士和著/日本経済新聞出版刊)
日本を代表するビジネスクリエイターが自身のデザイン・シンキングの仕方を紹介した本です(蛇足ながら、著者の読みは「さとう・かしわ」です)。クリエイターは自分の感性を優先するものだろうと思いこんでいたのですが、少なくともこの一流クリエイターにとっては必ずしもそうではないとわかりました。クリエイティブ・シンキングがその人個人のものでなく、その本質は自分をプラットフォーム化して「多様性」を取りこむことにあるのだと再確認できました。
著者の武器は独りよがりに陥らない共感能力と感受性にあると思います。クリエイティビティは日本語では「独創性」と訳されますが、「独」に陥るとクリエイティビティは発揮しにくいという性質があります。個性はクリエイティビティにとって大事なものですが、個性にこだわることはクリエイティビティの敵です。自分を足場に他人から自分にないものを引き出せるかどうかが、これからのクリエイターには求められます。相手の立場になってその共感から発想を広げる著者一流の考え方はいちど理解しておくといいかもしれません。
佐藤可士和という人がどんなクリエイターか知らないと関心がわかないかもしれませんが、多くの人に評価される一流のクリエーターが、体験というものを大切にし、1つのシンプルなコンセプトを出すためにどれだけの努力=作業をやっているか理解するだけでも読む価値があるはずです。とくに以下の言葉は示唆的です。
「インターネットで農業のことを何時間もかけて調べるよりも、実際に畑に行って30分でも土に触れたほうが、得られる情報はずっと大きく価値があるはずです」(p.164)
6.『インサイドボックス――究極の創造的思考』(ドリュー・ボイド+ジェイコブ・ゴールデンバーグ著/文藝春秋刊)
翻訳が出ていることをつい数日前に知りました。クリエイティブ・シンキングの基本は「枠の外で考えること」です。英語で言えばthinking outside the boxです。the boxとは自分がいつのまにか作り上げてしまった思考の枠組みのこと。何もせずに漫然と考えると、いつまでも思考の枠組みから抜け出せず、いつも同じような発想ばかりに陥ります。「マンネリを脱するために自分の思考の枠を出よ」というのが、クリエイティブ・シンキングの基本的な主張です。
ところが、本書の著者は「枠の中でいいのだ」と主張して、実際に「イノベーション」と言われた製品やシステムについて、すべてに「枠組み」を与えてしまいます。その新たな枠組みで考えること、thinking inside the boxでイノベーションは起こせると述べます。
ただし、こういったものはちょっと言葉遊びにも近いところがあります。「枠の外で考える」とは結局は「新たな枠で考える」ということで、私たちは永遠に枠を作り続けます。その現象を指して「枠の中」と見れば、著者の言うとおり、thinking inside the boxです。
「枠の外で考える」とは「永遠に枠に外に出ようとする強靱な意志と精神を持ち続けること」にほかなりません。その人がその動きを止めれば、そこで明確な枠ができてしまうわけです。その当時は誰もが驚嘆したイノベーションも時間が経ってみんながマネすれば、「陳腐なイノベーション」などとも言うべき矛盾した存在になります。
死ぬ直前まで枠の外に出続けようとしたスティーブ・ジョブズになりたいのか、あるいはあそこまでしんどいことはやりたくないと思うかで道は分かれます。そういう意味では、クリエイティブ・シンキングの最高の教科書は、スティーブ・ジョブズの人生それ自体なのかもしれません。
こういった本を読めばわかりますが、スティーブ・ジョブズや、あるいはアインシュタインですら、常人には考えられないほど突飛なことをやってきたわけではなく、発想の道具立てや発想法自体はごくありきたりです。ただ、それを日常で粘り強く実践できるかどうかはまた別問題です。
クリエイティブ・シンキングを知るところまでいく人は意外といますが(それでも日本は相対的に少ないのですが)、それを実践する人はごくわずかです。
でも、だからこそ、のちのち大きな差となるのです。

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