張氏は国防副委員長などいくつかの役職についているが、金第一書記の叔父(父の妹の夫)であり、後見人として朝鮮人民軍の大将という大称号を持っている。事実上のナンバー2と見られていた最重要人物だ。
金第一書記はみずからの後見役を失脚させるだけでなく、あらゆる汚名を浴びせ、政治生命のすべてを断ったと言ってもいいほどの残酷な扱いをして排除している。通常は北朝鮮の粛正は秘密裏におこなわれるので、これほど公に恥をさらしての粛正は異例中の異例だ。
また、一番の疑問は、なぜこのようなことが起こったのが今なのかだろう。
張氏はその政治手腕を広く買われていた。張氏が実権を持つようになってからの平壌は、遊園地など娯楽施設が増えて、ファッショナブルに着飾った人たちが街に繰り出し、軍事独裁の雰囲気がゆるみ、明るくなってきたと報道されてきた。
張氏は華やかさで人望も厚いと言われている。ただ、張氏がこれほどの権力を持てたかを考えれば、もちろん個人的な魅力だけでは無理だろう。その背後には、中国の後ろ盾があったと見るのが自然だ。
まだ20代で、2010年にトップになるやいなや、延坪島(ヨンピョンド)砲撃事件を起こすなど、血の気が多く、背伸びばかりして、やや気分屋の印象がある金第一書記に比べれば、張氏には安定感があり、若いトップを支える後見人としては打ってつけだった。北朝鮮を西側との「緩衝地域」としている中国が、張氏を支えようとしたのは当然である。
その張氏が失脚したということは、金第一書記がついに脱中国し、自力で独裁政権を打ち立てる決意をしたことを意味する。
では、なぜ今なのか。
あとは推測するしかない。以前、本ブログで中国は政府と軍と人民の三すくみ状態であり、東シナ海上空の強引な防空識別圏の設定は、政府が軍の暴走を押さえられなくなってきたためではないかと述べた(→過去ログ)。
中国の共産党独裁は徐々に綻びを見せているが、習近平政権が北朝鮮すらコントロールできないことで、張氏の粛正で、中国崩壊のプロセスがもう一段階進んだと考えるべきではないだろうか。
なぜ金第一書記がナンバー2を排除することにしたかと言えば、1つには、有能で人気のある張氏が疎ましかったからだろうが、なぜこの時期なのかを考えれば、張氏を排除しても中国から干渉されないことが、金第一書記にわかっていたからではないか。
習近平は経済問題に加えて、軍の暴走や自治区の反乱など多くの内政問題を抱えている。その環境下で腐敗の駆逐と既得権益の解体、経済的な格差是正などの難題に取り組まなければならない。
しかも軍の暴走によって、日米を中心とした中国包囲網が着実に完成しつつある。とても、北朝鮮の面倒をみる余裕などあるはずもない。
自分が金第一書記だったらどう考えるだろうと仮定してみた。
自分の宿願は、自らの力によって北朝鮮を独立し反映させることだ。そのためには、国民が一致して国力増強に邁進せねばならない。
だが、後見人として有能な張氏が実権を握っている。見栄えも良く有能で経験豊かな政治家で、しかも中国の後ろ盾もある。彼は北朝鮮の開放路線を少しずつ進め、自分が何かしようとすると、「時期尚早」と留めようとしてきた。
ちょうど習近平政権が苦境に立っている。排除するなら今だ。できれば…人民解放軍と通じて…と、ここまで想像して、私はぞっとしてしまった。
金第一書記は中国の軍勢力と通じて北朝鮮軍を拡充をはかって、韓国侵攻に打って出るための準備を進めようとしているのではないか。張氏ならそんなことに何のメリットもないことはわかるだろうがが、金第一書記がそのことに気づいているとは限らない。
そうすると、今回の張氏の失脚は、彼にとって朝鮮半島を統一する第一手ということになる。実際、そう考えると、延坪島砲撃事件、核開発のこだわり、今回の事件が1つの線になるのだ。
延坪島事件は朝鮮半島統一という金第一書記の宿願の表明であり、核配備はその手段として核攻撃も辞さないこと、そして、今回の事件はそのすべての権限を手中に入れたこと、いわば「核攻撃の発射ボタン」を独占して握ったことを意味する。
日本は中国のことばかり気にしているが、本当の意味で怖いのは北朝鮮だ。なにしろ、能力があるのかないのか、いや、何を考えているのかすらわからない元首が、いま国の最高権力を独占したのだ。
これは中国の防空識別圏問題など問題にならないほど深刻な問題だ。注視する必要がある。
また、日本もいつまでも中国と対立している場合ではない。そろそろ国交を正常化させないと、そのツケは結局、日本にも返って来かねない。

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