筆者は今年出版した『Out With It: How Stuttering Helped Me Find My Voice』が大好評のKatherine Preston氏(女性)です(→外部記事リンク)。
筆者の『Out With It』はまだ読んでいないのですが、最近あちこちで評判となっていたこともあって、今回、取り上げることしました。
さて、みなさんは、最近、人の話を真剣に聞き入りましたか? 誰かに真剣に話をしましたか?
若いときは授業を聞くという形で聞くことを半ば強要されますが、年をとるとその機会も減り、同時に人の話を聞くのがだんだん億劫になってきたりします。
でも、人の話を聞かなくなるのは、考える力を養う点ではあまり良い兆候ではありません。
さて、筆者にとって「人の話を聞く」とはどういうことなのでしょうか?
I'm not talking about the listening that you do as you jot down your shopping list, or the listening that you do while you prepare what you are going to say in response. Rather I'm speaking about the experience of listening to someone without any distractions or any impatience. Listening with the express purpose of bearing witness to their story.
「私が言おうとしているのは買い物リストを書き留めようと聞いたり、相手に何かを答えようとしていて聞いたりすることではない。むしろ私が言いたいのは、気が散ったり、我慢したりすることなどいっさいなく、誰かの話を聞くような状況である。つまり、相手の物語の証人になるという明確な目的を持って聞くことである」
bear witnessとは裁判で「証言をする」ことです。ここではもちろん比喩ですが、その態度は神の名の下に宣誓して、真実を証言するような厳格な態度だと言いたいのでしょう。
Can you remember how you felt the last time you really listened? Can you remember how you felt the last time someone really listened to you?
「最近、真剣に聞いたときどう感じたかをあなたは思い出せるだろうか。相手が自分の話を真剣に聞いたときにどのように感じたかをあなたは思い出せるだろうか」
私は思い出せませんでした。それほど真剣に話をしたり聞いたりすることは、最近は皆無です。みなさんはいかがでしょうか。
大人になるとは、真剣に聞いているフリが上手になることでもあるのかもしれません。
There is something about being heard that fulfills a deep-seated human need for connection. And it seems to go both ways: the experience of telling someone vivid stories about our life changes us, and it changes the perspective of the person listening.
「話を聞いてもらうことは、人が人のつながりを深く求めることを満たすような何かが存在する。また、それには2つの方向がある。1つは自分の人生について生き生きと話をする経験が自分たちを変えるということ。もう1つは、その経験は人の聞く姿勢を変えることである」
真剣に話を聞いてもらうという経験の価値を述べています。また、その利点として「自分を語ることが自分を変える」「自分を語ることで、相手の話も真剣に聞けるようになる」という2点をあげています。
When I set off to do all my interviews for Out With It, I did a huge amount of research into the oral history tradition. In particular, I became borderline obsessed with the work of Studs Terkel, and with the man himself. In all his books, and his interviews, I got the sense that he loved people, that he listened to them with genuine interest and fascination. Somehow his very presence allowed people to open a floodgate within themselves, and it allowed him to write books that became portraits of the human condition.
「『Out With It』のために取材を始めたとき、歴史口承の伝統について相当に調査した。特にStuds Terkelの作品とその人となりにはずいぶん圧倒された。彼のすべての本と取材を通して、彼が人を愛し、人々の話に純粋な興味を持ち魅了されながら耳を傾けたという認識を得た。どうやら、彼が目の前にいるというまさにそのことで、人々は自分の中にある水門を開いて、人が人である条件を映し出すような本を書かせたのである」
Studs Tarkerl(スタッズ・ターケル)は、名著をたくさん出してきた出版社、晶文社ファンならよくご存じでしょう。タイトルに「!」がついた表紙でおなじみの、ピュリッツァー賞作家です。市井の人たちの生の声を拾うことで真実をあぶりだす手法で、「アメリカの良心」とも称されたジャーナリストでもあります。
Studs Terkel witnessed stories that too often remained unspoken, or overlooked. He spoke to people who I imagine saw their lives as too mundane or unmemorable to be of interest to the outside world, and he unearthed a vivid, captivating wealth of stories within each of them.
「Studs Terkelは、語られずに見逃されたままになることが多すぎる話の証言者となった。凡庸でありきたりの人生を送ってきために、外の世界で関心を持たれるべくもないと思いこんでいるであろう人々に、彼は語りかけ、一人一人の中にある物語の生き生きとして心を捉えるような豊かさを引き出した」
「どんな人にも語るべき物語がある」という信念のもと、Studs Tarkerlは市井の人たちへの取材を続け、一連の傑作ノンフィクションへと結実しました。世界中の人たちの尊敬を集めたのは、その市井の人たちへの暖かく真剣なまなざしでしょう。
I did my best to emulate Studs in every interview I ever conducted. I thought that I was prepared for the experience of listening deeply, but there was one piece that all my research never touched on. I never imagined how cathartic the experience would be for me, how listening to the rich details of someone's life could change my own life so profoundly.
「これまでの取材で、全力でStudsに追いつこうとした。深く耳を澄ませる素養はできたと思ったが、すべての試みの中で私が触れられなかったものが1つだけあった。その経験が自分にとってどれほどのカタルシスとなるか、相手の人生の豊かな断面を耳にすることが深く深く自分の人生をいかに変えうるかを、想像すらしていなかった」
筆者はStudsに憧れ、ライターとして彼のあとを追いましたが、そこで1つだけ想像していなかったことが起こりました。それは相手が真剣に話をして、それを真剣に聞くことで、自分が深い部分で変わってしまい、今は自分の人生すら変わってしまったということです。
And so Out With It became an amalgamation of all of us. It became a testament to their stories, and a telling of my own transformation.
「そして、『Out With It』は私たちすべての集大成となった。それは人々の話の証言者となり、私自身の変革の語り部となった」
そうやって書かれた本が『Out With It』だというわけです。
I am proud of the book I have created but there is something final in the completion of the book that makes me nostalgic for that year of interviews. For all the hours spent listening, and all the changes I watched in others (and felt in myself) as they told me their stories.
「私は自分が作ったその本に誇りを持っているが、その年の取材を懐かしく思い起こさせるその本の完成において、最後まで残った何かがある。彼らが話をしてくれているとき、聞くことに費やした時間、そして他人の中に見いだした(そして自分の中に感じた)変化にもかかわらず」
筆者はどうやら「聞くことで変わった」という経験をしながら、その正体が何かをつかめていない、本が完成するまでの膨大な労力の中でも、それは結局つかめずにいると吐露しています。
We all lead extraordinary ordinary human lives, we all have stories that are waiting to be told.
「私たち誰もがありふれた人間としてありふれてなどいない生活を送っている。私たち誰もに話すべき物語がある」
どんな人にも聞くべき物語があると発見した筆者はすごい人だと思います。筆者がわからないと言っている最後の1つとは、おそらく「世の中には2人同じ人はいない」というごく当たり前のことに、筆者は奇跡を発見したのでしょう。
地球にはこれだけの人がいながら、全く同じ指紋の人は存在していません。また、大量に降り注ぐ雪片の1つ1つを拡大すれば、同じにしか見えないその結晶はすべて違っていると言われています。
同じにしか見えない雪が1つ1つ違うことを経験として実感してしまったら、それが人生を変えるとしてもおかしくありません。雪の白さを美しいと思うことはあっても、雪片の1つ1つの奇跡を体験することができる人などほとんどいないでしょう。
ただそのためには、とける前のひとかけらの雪を顕微鏡を通してのぞき込むように、目の前の人の話を真剣に聞かなければなりません。そして、驚きを持ってその物語に耳を傾けなければなりません。

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