オタクはその分野についての情報や関連する物を集めるものである。もちろん、物集めの段階で人に接触して交渉に苦労したりすればそれは立派な経験であるが、集めること自体は単なるルーティンでしかない。
本が大好きでたくさん読んでいたら本が集まったという場合と、ある種の本にこだわりがあり内容と無関係に集めるために集めているのでは、その意味は根本的に違う。前者はもちろんオタクでない。また、何かを集めてそれで社会貢献しようなどいった何かしらの目的があるのであれば、それもオタクとは違ったものである。
では、なぜオタクであると、収集が自己目的化するのだろうか。
それはその活動に自分を転嫁してしまっているからである。つまり、その分野においていろんな情報や物を集めることで、それが自我を拡大させるとイコールになっているのである。だから、集めれば集めるほど自分が大きくなっていくように感じられ、一種の征服欲が満たされやすい。
もちろんオタクは経験と無関係なわけではない。オタクになったきっかけとして、感動や共感といった大きな経験が大きいのは間違いない。
ただ、そのときの経験を疑いことなく絶対化し、その経験を無意識に鉄壁なものにしたくて収集に没頭することは問題である。その経験を壊したくないという気持ちが強いほど、その一方でその経験が簡単に壊れてしまうのではないかという失敗が無意識にあるほど、オタクであることが先鋭化していく。
また、インターネットが発達する以前は収集にはたいへんなエネルギーが必要だったが、インターネットが発達した現在、人と直接接触することなく収集することが可能である。だから、誰もが簡単にオタクになれる環境にある。
だから、意識して「脱オタク」、あるいは「行動するオタク」であろうとしなければ、その人は経験を積み重ねることない消費だけを続けていくことになる。
傘型知識人としてのしっかりした柄を確立するには、単なる「オタク」ではなく、「プロ」あるいは「行動するオタク」になるべきだ。
ただし、ここではその専門で稼げるかどうかはそれほど重要ではない。なぜなら、しっかりした柄があれば、それを土台に他人に対して貢献することが可能になるからである。では、それを踏まえて、次の段階に話を進めたい。
人間関係においては、経済におけるお金のように好意も悪意も流通していく。
たとえば、ちょっと皮肉屋でいたずら癖のあるAさんが、Bさんに軽い気持ちでいたずらをする。そのいたずらがBさんには不合理だと思えれば、それはBさんにとっては「意地悪」でしかない。立腹したBさんはいつかAさんにも意地悪を仕返そうとする。また、仕返しされても多くの場合Aさんはそれが以前の「意地悪」の代償だと気づかず、目の前にあるBさんの意地悪にのみ反応し、またBさんに意地悪を仕返そうとする。
そうやって、AさんとBさんの関係は悪化して険悪になってやがて崩壊する。
もちろん、逆のパターンもある。
親切でおせっかい癖のあるAさんが、困っていたBさんを助ける。Bさんはそれに感激して、Aさんに贈り物をする。もらうより送るのが好きなAさんは喜びながらも何か返したくなり、Bさんの息子に贈り物をする。BさんはAさんのことが大好きになり、全力を尽くして会社が倒産して困っていたAさんの再就職先を見つける。Aさんは涙を流して感激する。
Aさんは自分ではすっかり忘れていたBさんへの親切で救われたことになる。
人間関係はこのように善意や悪意の流通で成り立っている。受けた「善意」を返そうとそれを具現化したのがお祝い金や贈答品などの「金品」であり、受けた「悪意」を具現化したのがクレームや訴訟などの「請求」である。
だが、問題は人間関係における流通は、経済活動のように数字で測ることができない点にある。
たとえば、経済活動であれば100円の定価をつけた金品に100円を払えばいいわけだが、人間関係においては、Aさんには100円に思えるものが、Bさんには30円にしか思えないということがよくある。概して、自分の与えたもの(=自分の損)には高い金額に、自分がもらうもの(=自分の得)については低い金額に評価しがちであることが、行動心理学の研究で明らかになっている。
だから、Aさんは「Bさんに恩を売った」と思っても、Bさんは「Aさんのわがままを受け入れた」くらいにしか思っていないというくらいの齟齬はしばしば起こるものだ。
また、Aさんは与えたがり(=気前がいい)、Bさんは出し惜しみでもらいたがり(=ケチ)といった場合、Aさんは一方的に与えるばかりで、Bさんからほとんど返ってこないといった場合もある。
もしAさんが与えたがりでもなくもらいたがりでもない普通の人だとすれば、BさんはAさんに何か与えたいと思わないだろう。
こうなると、Bさんは結局、誰からも支援を受けるのが困難になる。損をしたくないという気持ちが強いがために、長い目で見ると大きな損を被ってしまう。
続きます。

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