こうなると、JR北海道側は「保守を怠ってきた」というレベルではなく、「何もしてこなかった」と言うしかないだろう。
では、なぜこのような異常な状態が続いてしまったのか。
もしJRグループ全体にこういった問題が起こっているのであれば、全国鉄道網の保守にそれなりの難しさがあるからとも考えられるが、もちろんそんなことはない。新聞各社の調べたデータを見ると、どうやらJR北海道が放置していたレール異常や車両事故の数は突出しているようだ。
JR東海やJR東日本のように利益の上がっているところと一緒にするなという意見もあるだろう。たしかに利益が上がっていないために車体の老朽化に対応できていないという面は、随分前から言われてきた。レールの保守についても同じようなことはありうる。
また、北海道は札幌都市圏への一極集中化が進むいっぽうで、地方都市の過疎化が進んでいる。つまり、都市交通の需要は伸びているが、鉄道網の需要はどんどん落ちている状態である。それが今回の問題に結びついた面はあるはずだ(ただし、北海道の観光資源は質量ともに群を抜いており、最近は日本国内だけでなく東アジアや東南アジアやオセアニアを中心に観光地として人気を高めている。ただそれがまだ収益に結びついてないが、たかいポテンシャルは有していると思う)。
それだけなら、財務体質の厳しいJR四国やJR九州などでも同じ問題が起こってしかるべきだ。だが、どうやらこれだけひどいのはJR北海道だけのようだ。
これにはもちろん、北海道の冬の過酷さが影響している。除雪や暖房費用がかさむだけでなく、車両、駅舎、レールなどへの負担が大きく、健全な維持をしようと思えば他のJR会社よりさらに負担が増すのは当然である。
ただ、もっと根本的な問題もある。
国鉄が分割民営化されたのは1986年。天文学的な赤字を積み上げてきた国鉄の抜本対策として、中曽根政権の民営化路線における目玉政策として実施された。
これにともなって、JR各社はコスト削減と赤字路線の廃止をおこなったが、それが最も多く実施されたのがJR北海道である。
北海道は面積が広く、鉄道を必要とした開拓時代にさかんに鉄道敷設をおこなっていった。また、近年も社会党の地盤が強く、自民党がその対策として北海道開発庁を置き、開発や農業へ手厚く補助金をばらまいたために、きめ細かな鉄道網が敷かれた。
これがのちにあだになったわけである。
おそらくこれが主たる理由だろうが、このことよりもっと根本的な問題がり、私はむしろこちらのほうが重要ではないかと考えている。
1990年に本格的に始まる新型車両の導入と平行しておこなわれた、ローカル路線のワンマン化である。これによって大幅な人員削減が可能になり、JR北海道は大幅に採用を絞りこんでいった。
日経新聞によると、40代社員は50代社員の5分の1しかいないと言う。
以前、本ブログで指摘したが、多くの日本企業では現在、30代社員が大幅に少なく、そのためにノウハウの伝達が若い層に伝わらなくなっている(→過去ログ)。その問題が、JR北海道で先取りした形で世代間の断絶によるノウハウ不足が起こったと考えられる。
なぜそうなるかというと、たとえばレールの保守点検では、電車で通ったときの印象と目視が重要である。それはレールは膨大な長さがあり、鉄道マンたちが長年ノウハウの蓄積して、その勘を磨き、異常をいち早く見つけるという作業が必要だからである。
とくに北海道は厳しい冬季の保守があるので、JR北海道の鉄道マンでなければ身についてないような独特のノウハウがあるはずである。
ところが、ある世代がいなくなると、上の世代と時間を共有できず、ノウハウの受け渡しをする機会がなくなっていく。いくつもの世代の試行錯誤により長年をかけて形成したノウハウが、そこでとどまり、下に受け継がれなくなっていくわけである。
本来は会社の中心を担うべき世代が少なくなれば、その矛楯が表層に現れてくるのが当然だ。それが極端に露見しやすかったのが、過酷な気候の下でコスト削減しながら運営を迫られていたJR北海道だったというのが、私の推測である。
保守点検が疎かになったのは、おそらく大幅なコスト削減が始まった90年頃からだろう。また、今の40代が入社10年目くらいの若くて働き盛りだったころに、そういった保守点検の機能不全に深刻になり、この10年でその問題がどんどん表面化していったのではないか。
今回の件を、単にJR北海道の個別問題ととらないほうがいいだろう。日本企業の問題点を先取りして、わかりやすく見せてくれたととらえて、今後に備える1つのヒントにすべきだと思う。
30代が少ない日本企業の問題は、今後10年くらいかけて徐々に明らかになっていくはずだ。これまでのように、社員旅行や飲み会など上下なく「無礼講」で場を多く共有することで、ノウハウを伝えていった日本独特のやり方は通用しなくなる。
これを避けるには、ノウハウのマニュアル化とそれを正しく身につけされる社員教育できるかどうかにかかっている。それができず、これまでのように「放っておけば社員は育つ」なとど考えている企業は今後、時代についていけず淘汰されていく可能性があるからだ。
JR北海道は仕組み改善の議論やノウハウのマニュアル化などをずっと怠ってきたのだろう。これからではそれでは企業は落ち込むだけである。言葉による議論、多様な人員採用と十分な社員教育、情報共有化のしくみ作りなどが大切になる。また、それができなければ、JR北海道の二の舞になっていくだろう。

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