「かまいません」
「おまえさんの願いは1つだけしか叶えられないんじゃぞ。そんなつまらん願いごとで本当にいいのかな?」
「はい。すべてわかりましたから」
「ほう・・・何がわかったんかいな?」
「うつわ、です」
「うつわ?」
「人間にはうつわがあります」
「それで?」
「どこまで英語ができるようになるかは、どれくらいの大きさのうつわを持っているかで決まります」
「ほう・・・どういうことじゃ?」
「自分が小さなうつわでしかないのに、英語という大きな存在をすべて受け入れられるはずがありません。小さなうつわには小さな量しか納められませんから」
「なるほど・・・で、おまえさんのうつわはどんなもんじゃ?」
「まだ小さいです。でも、これからいくらでも大きくできます」
「どうすれば大きくなるんじゃ?」
「どれくらい真剣になれるかでうつわの大きさが決まります」
「真剣さとな」
「はい。そのひとに大きなものを受け入れる覚悟があって、それに応じた努力できれば、うつわは自然と大きくできます」
「おもしろいことを言うのぉ」
「僕に足りなかったのは覚悟です。今まではだらだらと勉強して、なんとなくTOEICで高スコアになればいいなあと思ってやってきました。本気度があまりに低かったんです」
「本気度とな?」
「はい・・・真剣さの度合いです。小さなうつわを持つ程度の覚悟しかなかったのに、大きなものが入れられればと漠然と期待していました。そんなムシのいいことばかり考えても、英語が上達するはずがありません」
「なるほどなるほど」
「おっしゃったように、目標も曖昧でした。TOEIC900を超えたいという憧れはありましたが、自分の態度を思い返すと、真剣みが足りなかったと思います」
「ふむふむ」
「それにTOEIC900が正しい目標だったのかどうか・・・むしろ安易だったかもしれません」
「そうかね」
「はい。そのせいで、この教材が良いとか、この勉強法が良いとか、周辺的なことばかり追っていたように思います」
「うんうん」
「うつわを決めるのは本気度です。これからは英語を本気でやろうと思います」
「そうかね」
「はい。おまじないを解いてしまうと山田には怒られるでしょうが、あとで謝って、このことを説明してやろうと思います」
「で、おまえさんはこれからどうやって勉強していくつもりかのぉ」
「はい。読むのを中心にしようと思います。じっくり意味をとって読む。同時にやさしい英語を日本語を考えずにたくさん読みます」
「ほう」
「日本語を介さずに単語がわかるには、その前にその単語の意味や用法がしっかりわかっているのが前提です。だから、じっくり読むときに単語もじっくり覚えます」
「ほいほい」
「また、音読も繰り返したくさんやります。1つ1つの発音もおろそかにせず、しっかり意味の切れ間を意識しながら読むようにします」
「ふむふむ」
「意味の切れ間がわからないところは文法がわかっていないわけですから、文法書をしっかり調べて克服するつもりです。そして、知識としてだけじゃなくて音声として頭にたたき込みます」
「なるほどのぉ」
「もちろん生の音声も聞きます。繰り返し、そしてたっぷり。会話で使える表現は、読んだり聞いたりするときにどんどんノートに写して、使えるときにどんどん使いたいと思います。それで単語も自由に使えるようになるはずです」
「そうか、すごいのぉ」
「もちろんこれだけのことをバランスよくやるのはたいへんです。だから真剣な目標が必要です。大きな目標を立てます」
「それはよいことじゃ」
「ええ・・・でも、あまりよくばらずに、とりあえずは小さな目標を段階を追って達成するつもりで、短時間でもいいからコツコツやるつもりです」
「・・・よし合格じゃ!」
「・・・ご、合格? 何のことでしょうか?」
「おまえさんには、まさにそのことに気づいてほしかったんじゃ」
「そ、そうだったんですか?」
「最初からそのつもりじゃ」
「・・・・・・そうでしたか」
「でも、もうおまえさんは大丈夫じゃ・・・では、そっちのお兄ちゃんのまじないを解いてから、次の場所に行くことにしよう」
神様は山田君に向けて手をかざしました。すると、山田君の英語の寝言がぴたりと止まりました。しばらくして、「オレじゃねえよ!」と叫びました。まだ嫌な夢を見ているようです。
「では精進せいよ・・・ほなさいなら」と言って、神様はふっと消えました。シンクにあったランプも一緒になくなってしまったようです。
日差しがカーテン越しに部屋に差し込んできました。寝不足と疲れで頭がもうろうとしているのに、これから始まる人生のことを考えて、私はなぜかちょっとだけうきうきしていました。
ソファにどかっと座わると、「また会えるかな」と思わず声に出しました。そして、「次会えるときがあれば、ちゃんと経過報告できるようにがんばらなくっちゃなあ」と心の中でつぶやきました。
窓に行きカーテンを開けると、淡い日差しが部屋に満ちていきます。光の差すほうを眺めながら、「またお会いしましょう」と今度は心をこめてつぶやききました。
さて、朝食を用意してやるか。
(おしまい)
※この物語はフィクションであり、実在の人物及び団体とは一切関係ありません。
(; ̄っ ̄) ことわらんでええわ!