精神科医の経験年数と技量の話 | kyupinの日記 気が向けば更新

精神科医の経験年数と技量の話

 

 

先日の「転院と出戻りの患者さん」という記事を書いている時、いくつかスピンオフ的なテーマがあると思った。

 

記事の中で患者さんがクリニックに転院を希望する話が出てくる。そのクリニックは、僕が入局した同門ではなく、良く知らない精神科医であった。

 

クリニックのホームページを見て驚いたのは、大学卒後、10年目くらいで開業していることであった。今は研修医制度があるので、卒後10年目でも10年間精神科医をしているわけではなく、実質8年目くらいである。精神科は指定医制度があるので、指定医を取らないまま開業することはほぼないと思うので、研修医を取得してほんの2~3年目と推測される。

 

僕は卒後6~7年目には抗うつ剤治療はほぼ治療戦略が完成していたと思う。それはかなりハードな中核病院で新患を毎日2.5人診ていたと言うこともあったし、夜間の救急外来の患者も診ていたこともある。当時はまだSSRIが発売されていなかったが、旧来の抗うつ剤もそれぞれに特性があり、一朝一夕に治療戦略が完成するまではならない。

 

精神科医にストレートに入局し同じ年数経っても、経歴的に5年とか10年くらいの節目で、同じようなスキルがつくとは限らない。それは経歴的なものも影響するからである。例えば、卒後7年目頃、大学院卒の人は10年目でも全然といって良いほど臨床的なスキルがついていなかった。経歴的にスキルが付く場所がなかったからである。

 

僕が10年目の頃、統合失調症も含めかなり治療手法がより完成し、スマートになっていたと思うが、今と比べてどうだったかと言うと、かなり差があると感じる。それは当時は、今より薬が切れてなかったからである。つまり当時はリスパダールさえ発売されてなかったが、今より治療に抗精神病薬の用量を要していた。

 

また、抗精神病薬、抗うつ剤、気分安定化薬、ベンゾジアゼピンの併用のような複雑な処方を変更する際に、ある薬を増減した時の病態変化イメージが、今ほどはできなかった。これは必ずしも正しくイメージできるわけではないが、これができると、どの薬がより重要で、どの薬にはさほど意味がないかわかるため処方がスリムにできる。良くない薬が効率的に中止できるからである。

 

出戻った患者さんを診ていた精神科医はまだクリニックを開業したばかりで、つまり11年目か12年目くらいの技量だったので、あのように難しい患者さんが悪化した際に、治療が迷宮に入るのもやむを得ない。彼が紹介状で「力不足ですいません」と言うのも本心だったったような気がする。

 

さて、では何十年も経験がある精神科医の技量が若い精神科医よりいつも上回るかと言うと決してそうではない。ある一定の年数、例えば25年目くらいで凄く治療が上手くなるかと言うと、そうではないのである。

 

どこの精神科病院に行けばよいかという質問に、結局は病院ではなく、どの医師かであると答えている。どの病院も複数人の精神科医がおり、全ての精神科医が優れているなんてありえないと思うからである。

 

過去ログに以下のような記事がある。この記事は2008年の記事で、紹介してきた心療内科クリニックの医師の僕より15年以上先輩であった。これくらい離れると、同門会に来ない医師だと顔もわからない。

 

 
この記事を見ると、精神科医は年齢を重ねて線形に技量が上がるわけではないことがわかる。
 
今でも、リエゾンで入院患者さんでたまに凄い向精神薬処方を診るので、年寄り精神科医が古臭いとんでもない処方で治療していることも現実にはあるのである。また、凄い処方の処方主は精神科医でしかありえないことも重要だと思う。
 
少ない経験年数で開業する精神科医は、その後、誰からも誤った手法を指摘されないことがある。また、同じ病院内の入院患者の良い経過と、その処方内容の変遷を見る機会がないのも大きい。つまり経験値が上がりにくい。
 
また、心療内科で開業する精神科医は、精神科病院に適応できなかったために開業せざるを得なかった人も一定の割合でいる。
 
この適応できなかった理由も様々で、中核病院で上司が期待するほど論文が書けなかったなど高いレベルの理由のこともあるが、人間関係のストレスの弱さや、コミュニケーション能力が低いなど、病院組織に馴染めなかった医師もいるのである。
 
つまり言い方を替えれば、落ちこぼれである。
 
今は、全く昔にはいなかったタイプ、野心的な理由で早い開業をする人もいそうである。つまり直美の亜型である。
 
 
ただし、ひとこと書いておくが、指定医取得直後に心療内科を開業することは、直美より遥かにマシである。比べることも失礼な話である。
 
精神科医が将来的に上手くなるかどうかは、経歴的なものが大いに関係しており、それが少ない精神科医が心療内科クリニックを開業して、更に上積みできるかはかなり微妙だと思う。
 
しかし長年精神科医をしている人が、必ずしも上手いとは限らないということも、謎な話である。
 
ベテラン精神科医に下手な人は十分に存在する。
 
参考