いったん混沌とさせる減量の方法 | kyupinの日記 気が向けば更新

いったん混沌とさせる減量の方法

去年の秋頃、60歳台の女性患者さんが転院して来られた。統合失調症の診断だが、この年齢にしてはちょっとびっくりするほどの向精神薬が投与されていたのである。心療内科クリニックで治療されていたので、悪化した時に対応に困ると言うこともあるのだろうか?減量に慎重になり、そのまま放置されていたとしか言いようがなかった。

転院時の処方
インプロメン  18mg
クレミン    100mg
ドグマチール  800mg
アキネトン   4mg
セパゾン    4mg
テトラミド   60mg
ロヒプノール   4mg
レボトミン   25mg
他下剤。
(リスパダール換算 16.25mg)


特にインプロメン18mgとドグマチール800mgがすごいと思う。この女性患者は副作用のためパーキンソン歩行がみられ言葉も不明瞭であった。しかし、診察時の会話は一部記憶が曖昧くらいで、ある程度のやりとりは可能であった。長期間、統合失調症を患っているが、この処方のわりには元気と言ったところである。診断については間違いなかった。年齢が上がると、少ない抗精神病薬でもコントロールできるのが普通だ。この年齢で、この処方の理由は、今まで誰も減量の努力をしていなかったことが大きい。

2週目
初診では薬物変更しなかった。僕はいつもそうしている。2週目からまずドグマチール、インプロメンから減量することにした。このうちインプロメンは減量しやすいと思ったが、ドグマチールが曲者である。ドグマチールは低力価の薬物のわりに減量時に離脱症状が出やすい。それも150mg以下の減量でそうなりやすい。しかし800mgもドンと入っていると、最初はかえって離脱も少ないのではないかと思った。ドグマチール800mgはリスパダール4mgにしかならないが、このおばあちゃんに処方されていることが凶なのである。(参考

テトラミドなどの抗うつ剤は何か理由があって入っていると思ったが、減量は後回しにした。家庭での様子を観察するため、訪問看護もあわせて実施している。

インプロメン  15mg↓
ドグマチール  600mg↓
他変更なし
(リスパダール換算 13.75mg)


4週目
食事があまりいけない。ここ2~3日が良くないと言う。不安感を訴えていた。足の振戦が酷い。多飲水がみられている。コーラを良く飲むらしい。
インプロメンは12mgまで減量しドグマチールはしばらく600mgのままとしておく。減量が早すぎることは良くないからである。この時点に限れば、彼女にとってドグマチール600mgはインプロメン減量の緩衝材といえた。ドグマチールを600mg程度残しておいた方が、インプロメンの減量が順調に行くように見える。

インプロメン  12mg↓
他変更なし
(リスパダール換算 12.25mg)


6週目
「少し体が楽になってきています」「手の震えは前よりは少し良いです」という。よく眠れるが、食欲がない。飲み物がすごくほしいという。今のところ、困るほどの精神症状の悪化はみられていなかった。

インプロメン  9mg↓
他変更なし。
(リスパダール換算 10.75mg)


8週目
次第に食欲が出てきた。体幹の振戦もやや減少している。ジスキネジアが出現しているが、これは初診時にもみられていて少し悪化しているように見える。減量中にはこのような症状が悪化しやすい。ユベラNなども追加する。インプロメンは6mgへ。クレミンはたぶん彼女にはフィットしていると思ったが100mgはやはり多い。クレミンはみんなあまり良く知らないと思うが100mgというのはたいした量なのである。彼女を1剤で治療するならクレミン、クロフェクトンは悪くないと思った。

インプロメン  6mg↓
クレミン    100mg
ドグマチール  600mg
アキネトン   4mg
セパゾン    4mg
テトラミド   60mg
ロヒプノール   4mg
レボトミン   25mg
ユベラN    400mg↑
他下剤。
(リスパダール換算 9.25mg)


初診12週目
きれいに化粧をされており、きちんとした服装で再診される。調子はまあまあです。震えの方はだいぶん良くなりました。心配事はあったり、なかったりです。足は大分軽くなりました。
本人によれば2~3年前から近くの人から「人間じゃない、鬼だ」と言われていたという。今は周囲のことは気になりません。プロピタン150mgを追加しクレミン、ドグマチールを減量する。こういう振戦やジスキネジアが出やすい人はプロピタンは向いている(参考)。減量途中ではプロピタンも併用し抗精神病薬の薬効を分散させるようにする。陽性症状が残遺しているからである。いったん多剤併用を更に広げ混沌とさせるのである。

インプロメン  6mg
クレミン    50mg↓
ドグマチール  400mg↓
アキネトン   2mg↓
プロピタン   150mg↑
セパゾン    4mg
テトラミド   60mg
ロヒプノール   4mg
レボトミン   25mg
ユベラN    400mg
他下剤。
(リスパダール換算 7.5mg)


14週目
「人から見られている感じがある」その他、確認強迫がみられている。強迫とジスキネジアへの効果も期待しカタプレス追加。インプロメンを3mgまで減量しプロピタンを200mgまで増量。この確認強迫は直感的には好印象。これはおそらく、良い方向に行っているように見える。

インプロメン  3mg↓
クレミン    50mg
ドグマチール  400mg
アキネトン   2mg
プロピタン   200mg↑
セパゾン    4mg
テトラミド   60mg
ロヒプノール   4mg
レボトミン   25mg
ユベラN    400mg
カタプレス   75μg↑
他下剤。
(リスパダール換算 6.25mg)


遂に12品目になった。(転院時は9品目)

16週目
だいぶん良くなっています。人から見られている感じは時々あります。隣の人が睨んでいる感じがある。頭が痛い。夜はよく眠れるようになった。
ドグマチールを漸減する。今やプロピタンが追加され、ドグマチールは役割を終えたと言える。

ドグマチール  200mg↓
他変更なし。
(リスパダール換算 5.25mg)


18週目
ジスキネジアはかなり改善している。それでも舌が少し動いているように見える。「うつっぽい症状は少しあります」という。彼女は友人が多く、しかも自宅によく数人遊びに来ているという(訪問看護の看護師の話)。彼女がみるみる良くなっているので、友人みんなが驚いているという。

ドグマチール  100mg↓
他変更なし。
(リスパダール換算 4.75mg)


20週目
ふらつき、ふるえは少し。カクカクしていたのが減少している。喉の詰まっている感じは今はない。

ドグマチール中止
他変更なし。
(リスパダール換算 4.25mg)


遂に、20週目(5ヶ月)にして抗精神病薬を1つ中止できたのであった。

22週目
幻聴や人から見られている感じはないという。市役所に独りで行ってみた。ジスキネジアも減少傾向である。前は時々「気色が悪い」などと言っていたが、今はない。更にインプロメンを減量する。

インプロメン  1.5mg↓
他変更なし。
(リスパダール換算 3.5mg)


24週目
自宅にたくさんお客さんが来られるので楽しいと言う(これは幻覚ではなく、友人やら訪問看護のことを言っている)。体の動きのぎこちなさもほとんど目立たなくなっている。足の振戦はみられる。幻聴はない。リボトリールを追加する。インプロメンは中止。とにかく体の動きが滑らかになってきた。

クレミン    50mg
プロピタン   200mg
リボトリール  1mg
アキネトン   2mg
セパゾン    4mg
テトラミド   60mg
ロヒプノール  4mg
レボトミン   25mg
ユベラN    400mg
カタプレス   75μg
他下剤。
(リスパダール換算 2.75mg)


多剤併用ではあるが、かなりすっきりしている。(11品目)

26週目
手の震えはかなり軽くなった。昼は少し眠いですね。夜は眠れています。
テトラミドを減量してみる。できればテトラミドをテシプールに変更したいが・・プロピタンは200mgも必要ないように思われるので150mgとした。プロピタン200mgはまあまあの量だ。少なくとも換算表のようにリスパダール1mgという印象はない。

今のところ、インプロメン18mgとドグマチール800mgとクレミン50mg分をプロピタン150mgに置き換えた形になっている。しかも精神症状や副作用も改善しているので順調である。この人の調整はまだまだ続くのであるが、抗精神病薬に関しては概ね整理できたとは思っている。

現在
クレミン   50mg
プロピタン  150mg
リボトリール  1mg
アキネトン   2mg
セパゾン    4mg
テトラミド   30mg
ロヒプノール  4mg
レボトミン   25mg
ユベラN    400mg
カタプレス   75μg
他下剤。
(リスパダール換算 2.5mg)


どうもこの患者さんは、ジプレキサ5mgだけ服用しておけば良いような気もするのよね。ちょうど今の処方はジプレキサ6.25mgに当たる。しかし、ここまで来てジプレキサに変更はあまりにもリスキーである。ほぼうまくいきそうにない薬はエビリファイやルーラン。最近発売のロナセンはあるいは良いかもしれない。あまり冒険せずにリスクをとらずにやってきたのはやはり外来患者さんだからだ。

転院時にあの処方だと、このように減量にも時間がかかるのである。

参考
「いったん混沌とさせる減量の方法」のその後