雷がとても怖いと言う話
「プレッパーズ~世界滅亡に備える人々~ 」の続き。
ある日、雷がとても怖いという女性が紹介されてきた。雷は日本的には、
地震、雷、火事、親父。
と言われるように、怖いものの中で上位に挙がっている。なお、地震、雷は天災であるのに対し、火事、親父は人災である。
この女性患者を特に精神科薬物で治療するという視点では、その「恐怖の規模」が重要である。つまりだが、状況によれば薬物は使わないという選択肢もある。
この日、紹介されてきた高齢の女性は、雷が来ると、酷い恐怖を感じ押入れに隠れてしまうらしい。また、テレビを観ていてたまたま雷の報道や天気予報などでも、かなりの動揺を来たし、しばらく何もできなくなると言う。
つまり、一般の人に比べ、恐怖の規模が大きいのである。
このような病態は、精神科では「特定の恐怖症」と言われる。
近年の疫学的研究から、恐怖症は単一の精神障害として、米国で最も多い疾患とされている。全人口の5~10%がこの疾患に苦しんでいる。恐怖症は、DSMⅣでは広場恐怖以外に、「特定の恐怖症」と「社会恐怖」を挙げている。ここで言う社会恐怖とは、日本では社会不安障害とか社交不安障害と呼ばれる疾患である。
これらの疾患は、病院に受診しない人が相当にいると思われる。これは、上に出てきた雷恐怖の女性も、あのような高齢で産まれて初めて受診しているのを見てもわかる。
恐怖症は、認知及び行動療法の他、3環系抗うつ剤、モノアミン酸化酵素阻害薬、及びβブロッカーなどの薬物で軽快することがわかっている。
一般に、特定の恐怖は社会恐怖より発生率が高い。特定の恐怖症は、女性では最も多くみられる精神障害といわれている。男女比は1:2であるが、血液、注射、怪我に対する恐怖症は1:1に近いらしい。恐怖の対象が自然環境や血液、注射、怪我などの場合、好発年齢は5~9歳であるが、より高い年齢でも発症する。
特定の恐怖症における恐怖の対象となる物及び状況には、出現頻度の高い順に、
動物、嵐、高所、病気、怪我、死。
である。従って、今回の女性の場合、頻度の高い「嵐」とみなして良いと思われる。
高齢者の場合、特に女性では、このタイプの不安感にデパス、ソラナックス、リボトリールなどの筋弛緩作用を持つ薬はお薦めできない。というのは、薬に馴化してたいして効かなくなる上に、転倒しやすくなるからである。高齢の女性だと、骨粗鬆症を来たしている場合、転倒で足や手(手首)を骨折しやすい。
また、高齢の女性に生まれて初めて処方するには3環系抗うつ剤は重過ぎる。認知にも悪影響を与えかねないので、少なくともファーストチョイスにはならない。
従って、やはり抗不安作用を持ち、このタイプのストレスに鈍感になるような薬物が望ましい。彼女にはレクサプロを選んだ。レクサプロは不安感には非常に有効だからである。まずは、控えめに5mgから開始した。
レクサプロは5mgだけで非常に有効で、次第に雷が実際に来ても、大きな動揺を来たさなくなり、押入れに隠れることもなくなったという。また、天気予報の雷の文字もストレスなく観られるようになった。
ところがである。レクサプロは当初予期しなかった副作用が診られたのである。それは、「髪の毛が抜ける」というものである。過去ログではデパケンRで脱毛の副作用を指摘しているが、SSRIでも稀に診られる。彼女の場合、認知症など全くなく、以前に比べ明らかに脱毛しているというのだから間違いない。そこで、やむなくだが、ジェイゾロフト25mgに切り替えた。
彼女はレクサプロとジェイゾロフトは飲み心地に関しては全く変わらないという。しかし、脱毛のような副作用は、いったん出てしまうと、原因薬を中止してもすぐには改善せず、数ヶ月は続くことが多い。また、ジェイゾロフトも同じ脱毛の副作用があるので、見極めるのに時間がかかる。
また面白いと思ったのは、雷恐怖に対する効果は、レクサプロ5mgの方がジェイゾロフト25mgより上回るというのである。
SSRIの等価換算
セレクサ 20mg
プロザック 20mg
デプロメール 100mg
パキシル 20mg
ジェイゾロフト 50mg
この換算表だと、たぶんレクサプロ5mgはセレクサの10mgかそれ以上くらいなので、ジェイゾロフト25mgへの切り替えは概ね等価と思われる。レクサプロは最高量20mgとされていることを考慮しても、ジェイゾロフトは100mg上限なので25mg程度を処方したいところである。
ジェイゾロフト25mgでは、押入れに入らないといけないほどではないが、テレビで「雷」という言葉を聴くと恐怖感があるという。一方、レクサプロ5mgではほとんど動揺がない。彼女はジェイゾロフトでも生活がしやすくなったというので、そのまま25mgを使っている。
やはりレクサプロは、脱毛の副作用を認識してまで使う薬ではないからである。
SSRIは認知に悪影響を及ぼさないので、高齢者のこのタイプの精神疾患の人には優れていると思う。
この話には更に続きがある。
ある日、雷がとても怖いという女性が紹介されてきた。雷は日本的には、
地震、雷、火事、親父。
と言われるように、怖いものの中で上位に挙がっている。なお、地震、雷は天災であるのに対し、火事、親父は人災である。
この女性患者を特に精神科薬物で治療するという視点では、その「恐怖の規模」が重要である。つまりだが、状況によれば薬物は使わないという選択肢もある。
この日、紹介されてきた高齢の女性は、雷が来ると、酷い恐怖を感じ押入れに隠れてしまうらしい。また、テレビを観ていてたまたま雷の報道や天気予報などでも、かなりの動揺を来たし、しばらく何もできなくなると言う。
つまり、一般の人に比べ、恐怖の規模が大きいのである。
このような病態は、精神科では「特定の恐怖症」と言われる。
近年の疫学的研究から、恐怖症は単一の精神障害として、米国で最も多い疾患とされている。全人口の5~10%がこの疾患に苦しんでいる。恐怖症は、DSMⅣでは広場恐怖以外に、「特定の恐怖症」と「社会恐怖」を挙げている。ここで言う社会恐怖とは、日本では社会不安障害とか社交不安障害と呼ばれる疾患である。
これらの疾患は、病院に受診しない人が相当にいると思われる。これは、上に出てきた雷恐怖の女性も、あのような高齢で産まれて初めて受診しているのを見てもわかる。
恐怖症は、認知及び行動療法の他、3環系抗うつ剤、モノアミン酸化酵素阻害薬、及びβブロッカーなどの薬物で軽快することがわかっている。
一般に、特定の恐怖は社会恐怖より発生率が高い。特定の恐怖症は、女性では最も多くみられる精神障害といわれている。男女比は1:2であるが、血液、注射、怪我に対する恐怖症は1:1に近いらしい。恐怖の対象が自然環境や血液、注射、怪我などの場合、好発年齢は5~9歳であるが、より高い年齢でも発症する。
特定の恐怖症における恐怖の対象となる物及び状況には、出現頻度の高い順に、
動物、嵐、高所、病気、怪我、死。
である。従って、今回の女性の場合、頻度の高い「嵐」とみなして良いと思われる。
高齢者の場合、特に女性では、このタイプの不安感にデパス、ソラナックス、リボトリールなどの筋弛緩作用を持つ薬はお薦めできない。というのは、薬に馴化してたいして効かなくなる上に、転倒しやすくなるからである。高齢の女性だと、骨粗鬆症を来たしている場合、転倒で足や手(手首)を骨折しやすい。
また、高齢の女性に生まれて初めて処方するには3環系抗うつ剤は重過ぎる。認知にも悪影響を与えかねないので、少なくともファーストチョイスにはならない。
従って、やはり抗不安作用を持ち、このタイプのストレスに鈍感になるような薬物が望ましい。彼女にはレクサプロを選んだ。レクサプロは不安感には非常に有効だからである。まずは、控えめに5mgから開始した。
レクサプロは5mgだけで非常に有効で、次第に雷が実際に来ても、大きな動揺を来たさなくなり、押入れに隠れることもなくなったという。また、天気予報の雷の文字もストレスなく観られるようになった。
ところがである。レクサプロは当初予期しなかった副作用が診られたのである。それは、「髪の毛が抜ける」というものである。過去ログではデパケンRで脱毛の副作用を指摘しているが、SSRIでも稀に診られる。彼女の場合、認知症など全くなく、以前に比べ明らかに脱毛しているというのだから間違いない。そこで、やむなくだが、ジェイゾロフト25mgに切り替えた。
彼女はレクサプロとジェイゾロフトは飲み心地に関しては全く変わらないという。しかし、脱毛のような副作用は、いったん出てしまうと、原因薬を中止してもすぐには改善せず、数ヶ月は続くことが多い。また、ジェイゾロフトも同じ脱毛の副作用があるので、見極めるのに時間がかかる。
また面白いと思ったのは、雷恐怖に対する効果は、レクサプロ5mgの方がジェイゾロフト25mgより上回るというのである。
SSRIの等価換算
セレクサ 20mg
プロザック 20mg
デプロメール 100mg
パキシル 20mg
ジェイゾロフト 50mg
この換算表だと、たぶんレクサプロ5mgはセレクサの10mgかそれ以上くらいなので、ジェイゾロフト25mgへの切り替えは概ね等価と思われる。レクサプロは最高量20mgとされていることを考慮しても、ジェイゾロフトは100mg上限なので25mg程度を処方したいところである。
ジェイゾロフト25mgでは、押入れに入らないといけないほどではないが、テレビで「雷」という言葉を聴くと恐怖感があるという。一方、レクサプロ5mgではほとんど動揺がない。彼女はジェイゾロフトでも生活がしやすくなったというので、そのまま25mgを使っている。
やはりレクサプロは、脱毛の副作用を認識してまで使う薬ではないからである。
SSRIは認知に悪影響を及ぼさないので、高齢者のこのタイプの精神疾患の人には優れていると思う。
この話には更に続きがある。