中国の覇権戦略は、トップ(主席、大統領)が胡錦涛から習近平に代わった後、加速している。
1989年の天安門事件から胡錦涛までの中国は「米国に反抗するとひどい目に遭うので、しばらくは国際的な力を拡大せず、米国に嫌がらせされても頭を低くして耐えろ」というトウ小平の国家訓を守っていたが、習近平が主席になるとともに、中国はしずかにトウ小平の国家訓を卒業した観がある。
米国は、経済的にも政治的にも力が衰えている。
今年5月、ウクライナ危機で米国から敵視されたロシアのプーチン大統領が訪中し、
米国の覇権体制を塗り替える必要性を習近平に説いた後、
中国はBRICSを米国覇権に代わる多極型覇権の主導役にする策を加速している。
米国経済は表向き、株価が史上最高値を更新し続け、国債相場も高く、好調に見える。
しかし米経済の好調さの大部分は、当局が発表する指標の粉飾と、連銀が大量発行する資金が株価や国債相場を押し上げて金融バブルを膨張させる効果によるものだ。
発表されている米国の失業率は6・1%だが、低賃金のパートの求人が多く、求人の少なさに失望して求職活動をやめてから1年未満の人を含めた失業率は、公式統計(U6)で12%台だ。
求職活動をやめてから1年以上経つ人を含めた失業率の公式統計はないが、23・1%と概算されている。
しかも米当局は、公式統計の季節調整値の算出方法を毎月変更して失業率を低く見せている。
加えて、雇用統計を産出する基礎となる出生死亡モデルを操作し、雇用が全く増えなくても6万2千人の雇用増になるように調整している。
これらの粉飾をのぞいた実体的な米国の失業率は30%前後だろう。
失業率の粉飾に代表される歪曲が、ずっと奏功するとは思えない。
いずれバブルの再崩壊し、ドルや米国債の基軸性が失われる。
「米国より先に中国が経済崩壊するから、日本が対米従属を続けても大丈夫」と言う人がいるが、それは戦時中の「神風が吹いて日本が勝つ」に似た、楽観的すぎる見通しだ。
私が見るところ、今後5年以内に、米国のバブルが再崩壊する可能性は6割、日本経済が今より悪くなる可能性が7割なのに対し、中国経済が今より悪くなる可能性は、多く見積もって3割だ。
中国の不動産バブルの再崩壊はあるだろうが、中国の不動産はこれまで何度も崩壊しており、次回も中国経済全体から見ると大した影響を与えないだろう。
中国は、IMF世銀やブレトンウッズ体制(ドル覇権)に取って代わるBRICS開発銀行の創設を進めているだけでなく、世界銀行のアジア地域版ともいうべきアジア開発銀行(ADB)に取って代われる「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)を設立する計画を進めている。
資金量はADBの1650億ドルに対し、AIIBが1000億ドルとなる。
ADBは歴代日本人が総裁であると同時に日本の対米従属の姿勢が、米国15・7%、日本15・6%という出資比率(決定権比率)に現れている。
中国には5・5%の出資比率しか与えられておらず、これに不満な中国が、自前の国際開発銀行を創設した。
ベトナム戦争が本格化した後の1966年に日米主導で創設されたADBは、同年に米国傘下の東南アジアの反共同盟体として創設されたASEANと並ぶ機関で、もともと反共・反中国的な色彩がある。
AIIBには日本や米国も参加を招待されているが、運営が稚拙だという批判が日米から出ており、日米の参加は未定だ。
日米主導で中国包囲網的なADBに対して、AIIBは逆に、中国が「西域」「シルクロード」として歴史的な影響圏とみなす、中央アジアや西アジア諸国のインフラ整備に援助して傘下に入れるために創設する、中国の地域覇権拡大のための国際機関だ。
中国は、中央アジアやイラン、パキスタン、アフガニスタン方面への「陸のシルクロード」だけでなく、ミャンマーやバングラディシュ、スリランカ、モルジブなどインド洋に面した諸国を経済支援して傘下に入れる「海のシルクロード」の構想も進めており、これもAIIBの投資対象になる。