子宮内腔液があると移植は中止すべきか ― 単一正常胚FET 4308周期の解析から ― | 両角 和人(生殖医療専門医)のブログ

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来月掲載される論文です。
凍結融解胚移植周期において、超音波で子宮内に液体貯留、いわゆるendometrial fluid(EF)が確認されることがあります。実臨床では「このまま移植すべきか、それとも中止すべきか」という判断に直面します。今回Human Reproductionに掲載された本論文は、この問いに対し、単一正常胚(euploid embryo)に限定して大規模に検討した重要な研究です。

本研究は2014年から2022年までの4308例の単一正常胚凍結融解胚移植を解析対象としています。対象は初回IVF、初回FET、PGT-Aで正常と判定された胚のみという厳密な条件で、胚側因子を極力排除し、子宮環境の影響を評価しています。

研究デザインと群分け
患者は三群に分けられています。
一つ目は周期中にEFを認めなかった群。二つ目はEFを一時的に認めたが、黄体補充開始前には消失した群。三つ目は黄体補充開始決定日にもEFが持続していた群です。
症例数は、EFなし群4140例、EF消失群108例、EF持続群60例でした。

基本背景の確認
Table 1(本文p.4)では患者背景が示されています。年齢やBMIは大きな差はありませんでしたが、帝王切開既往はEF群で多い傾向がありました。EF持続群では21.7%に帝王切開歴があり、EFなし群の9.2%より高率でした。これは瘢痕やニッチ形成がEFと関連している可能性を示唆します。

Table 2では周期特性が示されています。EF持続群ではプログラムFETが多く、内膜厚はわずかに薄い傾向でしたが、いずれも平均8.5mm以上を確保していました。

生児獲得率の差
本研究の核心はTable 3(p.5)です。

EFなし群の生児獲得率は58.5%でした。EFが一時的に出現し消失した群では49.1%でした。これは約9.4ポイントの低下ですが、統計学的有意差には至りませんでした。
一方で、EFが黄体補充開始時点で持続していた群では生児獲得率は38.3%でした。これはEFなし群と比較して20.2ポイント低く、調整後オッズ比は0.50(95%CI 0.28–0.88)と有意に低下していました。

図表上では、臨床妊娠率も同様の傾向を示していますが、流産率には差は認められていません。
この結果から、持続するEFは単一正常胚移植においても明確に生児率を低下させることが示されました。

では、移植中止は意味があるのか、本論文の重要な点はここにあります。
EFを理由に移植中止となった90周期のうち、その後最初に実施された58周期の単一正常胚FETを解析しています。
この後続周期の生児獲得率は39.7%でした。
これは、EF持続群で移植をそのまま実施した場合の38.3%と統計的に差がありませんでした。調整後オッズ比は0.99で、差は認められませんでした。
つまり、EFが持続していてもそのまま移植した場合と、いったん中止して次周期に回した場合で、生児率はほぼ同じだったという結果です。
この点が本論文の臨床的に最も示唆に富む部分です。

図表から読み取れること
Table 3は、生児率の絶対値の差を明確に示しています。特に58.5%対38.3%という20ポイント差は臨床的に無視できない差です。
一方、キャンセル後のTableの解析では39.7%という数字が示され、キャンセルが必ずしも予後改善につながらない可能性が提示されています。
本文では、EFは多因子性であり、子宮瘢痕、炎症、内膜環境の本質的な問題が背景にある可能性が議論されています。つまり、EFは単なる一過性の現象ではなく、患者固有の子宮環境を反映している可能性があるという視点です。

臨床的示唆
EFが消失した場合は、生児率はわずかに低下するものの、大きな差はなく移植継続は合理的と考えられます。
EFが持続している場合は、生児率は明らかに低下します。ただし、キャンセルしても次周期で大きく改善する保証はありません。
このデータは、移植中止が常に最善とは限らないことを示しています。移植を延期することの身体的・心理的・経済的負担も考慮する必要があります。

結語
単一正常胚FETにおいて、子宮内腔液が持続している場合、生児率は約20ポイント低下します。しかし、移植を中止しても次周期での生児率は同程度であり、必ずしも予後が改善するわけではありません。
EFは単なる超音波所見ではなく、子宮環境そのものを反映している可能性があります。したがって、移植を中止するか否かは一律の判断ではなく、患者ごとの背景を踏まえた十分なカウンセリングが必要であるといえるでしょう。

Patel K, Sakkas D, Morse B, Duvall DW Jr, Penzias A, Vaughan DA.
The impact of endometrial fluid on single euploid frozen embryo transfers, to cancel or not?
Human Reproduction. 2026.

 

子宮内に液体(EF)が見つかると不安になりますが、まず大切なのは原因を見極めることです。一時的に出現し自然に消えるEFであれば、妊娠率への影響は大きくない可能性があります。一方で、移植直前まで持続する場合は妊娠率がやや下がることが報告されています。ただし、移植を中止しても必ずしも次周期で大きく改善するとは限りません。

卵管水腫や帝王切開瘢痕など明らかな原因がある場合には原則としてオペ(手術)を行い、原因治療を優先します。

当院では、原因がはっきりしない場合には移植前に子宮内の液体を吸引してから移植を行う対応をしています。不必要に周期を中止するのではなく、その周期でできる最善の環境を整えたうえで移植を行うことにしています。