「京都のしきたりとかマナーとか、べからず集
みたいなんたくさん覚えとる人おるやろ
無駄やと言わんけど、歩留まりが悪いな
いけずな奴ばっかりみたいなんとちゃうで」
「でも京都人て田舎者嫌いでしょ?」
「いや必ずしもそうとも言えん
京都の外から京都にやってきて
もっとも成功した人、あの西郷さんやで
当時も今もずっと尊敬されてる
あの人無理に都の風になびいてたか?」
「いや、薩摩隼人そのままの人です」
「そやろ。ただ思いやりと優しさは
十分すぎるぐらいある人やった
ー番肝心なところはそこや。
当たり前のことや」
「けどそれだけですか?」
「せやからな。京都人が言うところの
思いやりはな。京都人の相手に対する
気遣いをちゃんと認めて忖度して、
それを気持ちで返せるか・・?いうことや」
「ありがとう、おおきに、だけではア力ん」
「十分とは言えん。ノンバーバル
コミュニケーションとでも言うんかな?
あんたはんにうちはこれだけ気い遣うてますえ
いう言外のサインを読み取るデリカシーや
それが全くないとちょっと厳しいな」
「なにやら難しくなってきました」
「アホやなかったらわかるよ。ただ相手の
行動をある意味とても素直な気持ちで
頭も使うて読み解くというかな?
相手の気持ちへの洞察力と知カと
瞬間的に同時に試されるいうことかな?」
「ますますもって難しい・・!」
「せやからな。まず優しさや。それは
相手の気遣いに対する感謝の気持ちに
つながる。それから先は観察力
まぁわかりやすいのが、茶席やら
食事やら、京都人の家に招かれて
もてなしを受けるような時やな
00時に来ておくれやす・・言われるわな
どのくらいの頃合いで行くのがええか?」
「指定時刻・・もしくは心持ち・・」
「早め・・?その時点でアウトやな」
「えーなんでですの?」
「例えば何時に・・言われて、先方の
京都人は招いた客のため時間ギリギリ
見栄張って背伸びして、もてなしの
準備する。それが京都人なんや
早めに行くいうことは、その努力を
客が全部台無しにするいうことやんか?」
「あーなるほどー!」
「その時点でな。あやつはそんなことも
わからんアーホ!いう烙印を押される
多分一生消えんやろなそれは・・」
「うん、やっぱり難しいですわ」
「せやから難しいことないねん。
さっきも言うたやんか。自然体で
素直に相手に感謝する優しささえあれば
どんな田舎もんかてそれなりに評価される
そういう所で人間の値踏みしとるよ」
「田舎の人でもですか?」
「例えばな。田舎の人やったら
自分の故郷の周り野山や小川やらあるやろ?
そういうところでな。特に野生の草花
を慈しむ心がその人にどれだけあるか?
これは結構チェック入るんねんで
花鳥風月を愛でる心がないモンはあかん
山城国やからな。そのセンスがないと」
「あーなるほどー!前に言うてた」
「そうや。お点前やら生け花やら
和歌をたしなむうた心やら・・・。
その前段階でそれがなかったら
まああんまり評価されんやろな
西郷さん、おそらくその点は
合格やったんと違うか?
幕末維新の頃までの人、たいてい
ひとかど以上の詩人やったろ?普通にな?」
「言われてみればそうですね」
「大阪が典型的にそうやけど
関西の商店街の店先いうたら
あれゲームやっとるやろ
売る方も買う方もコミュニケーション
ゲームを楽しんでるわけや」
「京都でもやはり、ですか?」
「それはそうや。ただ大阪とはだいぶ
勝手が違う。ずっと前に市田ひろみさん
あの人大阪生まれの京都人やけど
“錦(市場)の三原則”言うてはった
あれはけだし名言やったな。その通りや」
「3原則ってなんです」
「値切らない、何でもええから商品を褒める、
そして話を聞く・・、の三つや。まず値切る奴
これは最初から論外。褒めて話を聞いて買う。
要するに売り手に対する感謝の心。
それはきちんと表現されなアカンのや。
考えてみれば人として当たり前のこと。
その当たり前がきちんとできるかどうか?
それが日常で試される。それが京都」
「つまり好かれる客になれいうことですね?」
「わかってきたの。商売はしたいが
嫌な客には絶対売りたないいうんが
京都の商人。嫌な客いうのは感謝せん
奴ら。それこそ最悪の田舎者やろ?」
「それは少しわかります」
「年末の錦市場、青物なんかものすごい
無理して出血大サービスで仕入れる。
仕入れの腕の見せ所やからな・・客に
1番試される実力テストの積もりでおる
同じ野菜スーパーで買うてみ?スーパーのは
3日と持たん。ところが年末二シキで
買うたらな。松が取れるまでもつで。
それくらい背伸びしてええもの仕入れる
せやからな。たまにしか来ん遠来の
客であってもな。あれはほんまに
立派なものでした。おおきにな
いうてあとから挨拶したらええねん
地方から来た人でも、それだけで
良い客やと認めてくれるンが京都や。
ようするに感謝の気持ちやな
それがきちんとできれば
何も言わんかて負けてくれるよ。ホンマ」