『ブレーメンの音楽隊』は、グリム童話のお話です。
年をとって役に立たなくなったロバが、飼い主に捨てられそうになり、「ブレーメンへ行って音楽隊に入ろう」と旅に出ます。
途中で同じように飼い主から見放されそうになった、犬、猫、雄鶏と出会います。ロバはみんなを誘い、4匹でブレーメンを目指します。
旅の途中、夜になって森の中に明かりのついた家を見つけます。そこには泥棒たちがごちそうを食べていました。
そこで4匹は、
ロバの背中に犬、犬の上に猫、猫の上に雄鶏と重なり、
「ヒヒーン! ワンワン! ニャー! コケコッコー!」
と一斉に大声をあげます。
泥棒たちは、恐ろしい化け物が現れたと思って逃げ出してしまいます。
4匹は家に入り、ごちそうを食べ、安心して眠ります。戻ってきた泥棒を再び追い払い、その家がすっかり気に入り、結局ブレーメンへは行かず、4匹で仲良く暮らしました。
「もう役に立たない」と言われた者たちが集まり、それぞれの持ち味を合わせることで、新しい居場所をつくっていく物語。
そして彼らが結局ブレーメンへ行かなかったのです。
若い頃の社会では、「どこへ行くのか」「何になるのか」「何を成し遂げるのか」という目的地が重視されます。けれど、定年後の人生は少し違う。
会社や肩書きから離れ、「もう以前の役割では必要とされない」と感じることがあったとしても、そこで人生の価値がなくなるわけではありません。
ロバにはロバの声がある。
犬には犬の声がある。
猫には猫の声がある。
雄鶏には雄鶏の声がある。
若い頃のように、誰かの役に立つために自分を合わせるのではなく、それぞれが持っているものを、そのまま持ち寄る。
すると、一匹ではできなかったことが起こる。
しかも彼らは、立派な音楽家になったわけでも、ブレーメンで成功したわけでもありません。
ただ仲間と出会い、力を合わせ、食卓を囲み、安心して眠れる場所を見つけたのです。
「役に立つ人間でなければ価値がない」という世界から降りて、
「私は私として、今日を面白く生きる」という世界。
人生の後半には、
目指していたブレーメンに着かなくてもいい。
途中で出会った仲間と、
自分の声で歌える場所を見つけたなら、
そこが私のブレーメンなのだから」
全国古事記塾主宰 今野華都子絵と文記す