占星術では、サインの終わりにあたる29度を「涙の度数」と呼ぶことがあります。ありますって言ってるけど私は使っていませんが。
特によく見かけるのが、蠍座29度のサビアンシンボルは「首長に自分の子どもたちの命乞いをする女性」だから、蠍座29度は涙の度数なのだ、という説明です。
まぁ確かに、子どもの命を救うために首長へ嘆願している女性という場面ですから、悲痛な印象は受けます。おそらく泣いているのだろうと想像することもできます。
ただ…そもそもこのサビアンシンボルは、黄経でいう蠍座29度ではありません。
サビアンシンボルは数え度数です。サインに入った直後の0度台を1度と数えるので、サビアンシンボルの蠍座29度が示しているのは、実際の黄経では蠍座28度以上29度未満です。
では、黄経の蠍座29度にはどのサビアンシンボルが対応するのかというと、蠍座30度の「ハロウィンの悪ふざけ」です。
つまり、「命乞いをする女性」が描かれているのは蠍座28度台で、一般的に29度台と呼ばれる場所で描かれるのは、ハロウィンで悪ふざけをしている人たちです。同じ「蠍座29度」という表記が使われているので混同しやすいのですが、黄経上の29度と、サビアンシンボルの第29度は同じ度数を示すものではありません。
もし「命乞いをする女性」のサビアンシンボルが涙の度数の由来だというのであれば、黄経では蠍座28度台を涙の度数と呼ばなければ辻褄が合わないのです。
もう一つ気になるのが、「涙の度数」という言葉が、サビアンシンボルに最初から付けられていた正式な名称であるかのように扱われていることです。
しかし、サビアンシンボルの原典では、蠍座29度を「涙の度数」とは呼んでいません。このシンボルに示されたキーワードは「EFFECTIVENESS」、日本語にするなら有効性や実効性です。
この女性は、ただ悲しみに暮れて泣いているのではありません。子どもたちの命を救うために首長へ働きかけ、その決定を変えようとしています。
ここで中心になるのは悲しみそのものではなく、切迫した状況の中で現実を動かそうとする働きかけです。
後世の代表的な解釈でも、このシンボルの主題は「贖いの原理としての愛」とされています。こちらも、この度数を持つ人には悲しい出来事が起こる、という説明ではありません。
そもそも、シンボルの文章には女性が泣いているとは書かれていません。
命乞いをしているのだから泣いているだろう、と想像するところまでは分かります。しかし、その想像から「涙の度数」という名称を作り、さらに、この度数を持つ人の人生には涙を流すような出来事が起こる、と広げるのは話が飛躍しすぎです。
サビアンシンボルには、戦いや死、別れ、破壊など、一見すると不穏に思える場面がほかにもたくさんあります。しかし、描かれている場面が悲惨に見えるからといって、それだけで凶意を持つ度数になるわけではありません。
命乞いをしているから悲しい、悲しい場面だから涙の度数である、涙の度数だから、この配置を持つ人には悲しい出来事が起こる…
一見つながっているようですが、途中にいくつもの飛躍があります。サビアンシンボルの一場面を、そのまま出来事の予言に置き換えることもできません。
また、蠍座だけではなく、すべてのサインの29度台を涙の度数と呼び、「焦り」「最終試験」「カルマ」「悲しみ」などの意味を加える説明もあります。
しかし、なぜ29度に入ったところから、突然そのような性質が始まるのでしょうか。29度寸前と29度の間に、天体の性質を一変させるような境界があるのでしょうか。本当の境界線はサインが変わる時なのでは…
29度台にある天体が、まもなく次のサインへ移動することは事実です。
トランジットや春分図など、時間の経過を読むチャートであれば、近いうちにイングレスが起こり、その天体のサインが変わることは重要な情報になります。特に重い天体はそう読むことが自然です。
しかし、それは29度そのものに涙や危険という性質が備わっている、という話ではありません。
ネイタルチャートに29度台の天体があるというだけで、その人がサインの最終試験を受けている、カルマを背負っている、悲しい経験をしやすい、といった意味を加える必要はないのです。
魚座29度も同様です。
魚座は12サインの最後にあるため、魚座29度は「すべてのサインを終える場所」として、ほかの29度以上に特別視されることがあるようです。しかし、魚座29度であることを理由に、人生の大きな終わりや悲しい別れ、カルマの清算などを一律に読み取る根拠はありません。だってねぇ、言ってみれば魚座ってまだ魂の状態で、牡羊座に入るということは生まれる寸前、肉体を持つ寸前、その準備が整いましたよーっ!ってことなんですよ。何がそんな悲しいことがあります?重力がつらいから?(違
春分図やトランジットであれば、近いうちに牡羊座へイングレスすることには意味があります。しかし、ネイタルチャートに魚座29度台の天体があるというだけで、特別な運命や悲しみを背負っていることにはなりません。
この話がややこしくなっているのは、黄経上の29度から次のサインの0度未満、数え度数で表記されるサビアンシンボルの29度、そして現代占星術でアナレティック度数と呼ばれるサインの最終度数が、すべて同じ「29度」という言葉でまとめられているからでしょう。
この3つは別のものです。
特に、サビアンの蠍座29度を根拠に、黄経上の蠍座29度台を涙の度数と呼ぶ説明は、扱っている度数の範囲が1度ずれています。
そのうえ、サビアンシンボルの原典にも「涙の度数」などという名称はありません。(英語が全くできない人の言うことなので話半分で…あるのかもしれない爆)
29度台の天体について確実に言えるのは、次のサインへの移動が近いということです。それ以上の意味を加えるのであれば、何の技法の、どの文献に基づいた判断なのかを明らかにする必要があるのではないでしょうか…というかそこまでしなくてもいいけど検証したのか?と聞きたい。
悲惨に見えるサビアンシンボルがあることと、29度台が一律に悲しみや危険を示すことは別の問題です。
印象の強い「涙の度数」という言葉を先に信じるのではなく、まずは今話しているのが黄経上の度数なのか、サビアンシンボルの数え度数なのかを分ける必要があります。
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