静かな光に包まれた女性たちの物語
映画「私たちが光と想うすべて」
都会で生きる人々の孤独と、ささやかなつながり
違いを抱えたまま、同じ場所にいることの美しさを静かに描いた作品でした。
■作品情報
2024年製作/118分/PG12/フランス・インド・オランダ・ルクセンブルク合作
第77回カンヌ国際映画祭グランプリ受賞(インド映画として初の受賞)
<監督>:
パヤル・カパーリヤー
<キャスト>:
カニ・クスルティ、
ディヴィヤ・プラバ、
チャヤ・カダム、
リドゥ・ハールーン
■内容(ネタバレ注意)
インド・ムンバイで看護師として働くプラバと、年下の同僚アヌ。 二人は同じ病院に勤め、ルームメイトとして暮らしているが、性格も生き方もどこか違っていて、心の距離は少しだけ残っていた。
プラバは親が決めた相手と結婚したものの、ドイツへ渡った夫からは長い間連絡がないまま時間だけが過ぎている。

一方アヌには、密かに付き合うイスラム教徒の恋人シアーズがいるが、宗教の違いから関係を公にすることはできずにいた。
そんなある日、二人のもとに差出人不明のドイツ製の炊飯器が届く。
日常の中に小さな違和感が差し込まれ、二人が抱える“言えない関係”は静かに揺れ始める。

同じ頃、病院の食堂で働くパルヴァティが、高層ビル建設のために立ち退きを迫られ、故郷の海辺の村へ戻ることを決意する。
プラバとアヌは、彼女の転居を手伝うために村へ向かうことになる。
やがて辿り着いたその村は、森や洞窟が広がる、どこか別世界のような静けさを湛えた場所だった。
そこで二人は、それぞれの人生と向き合う時間を過ごすことになる。
アヌは、彼女を追ってきたシアーズと密会し、一夜を共にする。

一方プラバは、川で溺れていた男性を助けたことをきっかけに、自分の中にある“夫の不在”と向き合い始める。 意識を取り戻した男性との短い交流の中で、彼女は自分の感情を静かに整理し、最終的に「もう会いたくない」と告げる。
それは誰かを拒絶するというより、自分の人生を自分の場所へ戻すための小さな決断のようだった。
そしてラスト。
プラバはアヌに、
「シアーズも含めて同じテーブルに座ってほしい」
と願い出る。
その夜、明かりに照らされたビーチハウスのような空間で、四人は同じテーブルを囲む。
- 大きな問題が解決するわけではない。
- すべてが理解されるわけでもない。
それでもそこには、
“違いを消す”のではなく、
“違いを抱えたまま同じ場所にいる”
ことを選んだ人たちの静かな時間が流れている。
柔らかな光に包まれながら、四人が穏やかに会話を交わす姿が映し出され、物語は静かに幕を閉じる。
*********************
■観る前の印象と、いい意味での裏切り
6月6日、県民共済シネマにて初鑑賞。
今回は少々ほくと節を抑えて、この物語の雰囲気に合ったテイストで語っていきましょう!
正直なところ、この作品は全く知らず、インド映画(他の国との合作ではあります)ということで「歌や踊りのあるエンタメ作品」を想像していました。
しかし実際はまったく違い、むしろ静かで淡々とした空気が流れる作品だったのです。
インド最大の都市ムンバイ。
そこで暮らす女性たちの“日常”を、飾らず、説明しすぎず、ただそっと見つめているような映画でした。
大きな事件は起きない。
それでも、言葉にならない感情の揺れがずっと積み重なっていく。
人によっては退屈に感じるかもしれませんが、その“何も起きなさ”こそが、この作品のリアルさでもあると感じたのです。
■都会の孤独と、かすかな光
この映画を一言で表すなら、
「都会で生きる女性たちの孤独と、小さなつながりが静かに光へ変わっていく物語」
という言葉がしっくりきます。
誰もが何かを抱えながら生きていて、それを簡単には言葉にできない。
完全に理解し合うことはできないけれど、それでも同じ空間にいることでしか生まれない関係がある。
その“距離のあるつながり”が、この映画の中心にずっと流れています。
■ラストシーンについて
♦ラストが示したもの
やはりこの作品の印象を決定づけているのはラストでした。
そこに劇的な解決はない。
宗教の問題も、
人間関係の問題も、
何かがきれいに片付くわけではない。
♦“違いを抱えたまま”という選択
それでも、このラストシーンに不思議と心を動かされました。
それは
「違いを消すこと」
ではなく、
「違いを抱えたまま同じ場所にいること」
を選んだからなのかもしれない。

人は互いを完全に理解することはできない。
それでも同じテーブルを囲み、同じ時間を過ごすことはできるはず。
理解しきれなくてもいい。
ただ隣に座ることはできる。
その静かな肯定が、この映画の“光”だったのではないでしょうか。
♦ラストがもたらした感情
正直、この物語はエンタメ作品のような、わかりやすい面白さや、劇的な展開があるわけではなく少々退屈に感じる部分もありました。
しかし、このラストのほんの数分の出来事で私の印象は大きく変わりました。
ムスリムのシアーズにも声をかけ、
ただ同じテーブルを囲む。
それだけの何気ない光景なのに、
胸の奥から熱いものが込み上げてきました。
気がつけば、
私の目も少し潤んでいたのでした。
■ほくと的まとめ
派手さはないし、わかりやすいカタルシスもない作品。
それでも観終わったあとに残る余韻はとても強い。
都会の中で生きる誰かの孤独が、ほんの少しだけ光に変わる瞬間を見せてもらった気がした。
このラストシーンの静かな余韻に触れたとき、ふとアキ・カウリスマキ作品を思い出しました。
派手なドラマはなく、社会の片隅で生きる人々を静かに見つめるまなざし。
そして問題が解決したわけではないのに、ラストにわずかな希望の光を残して終わるところに、どこか共通する温かさを感じたのでした。
心にしみる作品でした。
評価:5点満点中3.8
(画像すべてお借りしました)
公式サイト








