今の若い人たちは、知らないと思いますが、1952年に上映された、ルネ・クレマン監督のフランス映画に『禁じられた遊び』があります。この映画を大ヒットに導いたのは、たった一本のギターを使って表現した、映画音楽にあるのではないでしょうか。私たちの世代がギターに憧れたのは、皆、この禁じられた遊びのテーマ『愛のロマンス』を弾きたかったからです。
この映画は、修道女によって名札を首にかけられた、ポーレットが駅の雑踏の中で、泣きながら「ミシェル」と叫ぶシーンで終わります。そのバックに流れる、ホ長調に転調した、ギターの美しい三連符のメロディーに涙した人が大勢いるのではないでしょうか。
この映画音楽を担当したのが、当時24歳の、若き天才ギタリスト、ナルシソ・イエペス(1927年~1997年)でした。彼は、生まれつき視力が弱く、楽譜を見ながら曲の練習をすることが出来ず、目から1㎝の位置に楽譜を近づけ、心の中で音楽を読み取ったそうです。ある日、列車の中で今まで演奏したことのない曲の楽譜を見ていました。そしてその日の演奏会では、その曲を演奏したとのことです。
『心に中に黒板を描いて勉強しようよ』。と、私はA君(とさせていただきます)に、声をかけた。30年以上前のことなので、かなり記憶がセピア色に染まって曖昧である。
今の塾に入社したばかりの私は、上司に『6名ぐらいしか生徒はいないから○○教室の指導に行ってくれ』と言われた。取り敢えず、様子を見るということで、その教室には1時間ほど前に到着して、生徒たちを待った。
教室の始まる1時間ほど前に、背が高く、何故か白い杖を持った生徒がやってきた。『こんにちは』と声をかけると、その生徒は、私のほうに身体の正面をむけ『こんにちは』と明るい声で返してくれた。A君と私の出会いであった。数学の教材を準備してA君に『これやってみて』と手渡すと、彼は、その教材を自分の目の1㎝ほどの所に近づけ、射るような眼差しで見ていた。その時、私は彼が弱視であることを知った。そして盲学校に通っていることも・・・。
動揺した私は、その日、彼にどのような指導をしたのか記憶にはない。きっと『次回来るまでに勉強の方法を考えてくるから』などと言って、その場をしのいだように思う。話の中で、彼が札幌の中央区にある『北海道高等盲学校(現、北海道札幌視覚支援学校)に行くために勉強をしたい』と言ったことと、知的好奇心の強い、素晴らしい中学生であるということを、今でも、鮮明に覚えている。そしてその日は、いきなり難題を突き付けられて、ブツブツ言いながら家路についた記憶もある。
さあ、困った。いったいどのような指導方法があるのだ。次回までの宿題は、難問であった。家に帰ってから、ぼんやりと、昔買ったギター雑誌を何となく見ていた、その時、ある記事に目が釘付けになった。目の大変に弱い、ギターの巨匠、ナルシソ・イエペスの記事である。彼は『目の前の楽譜を、心の中で、彼の奏でるギターの指板に移し替えて、大曲を覚えている』という主旨のことが書いてあった。しかも、練習など一切なしに演奏会で奏でる。彼は『練習など、もう必要はない。心の中に描いた楽譜を、読み取って演奏するだけだ』とも言っている。
『心の中に黒板やノートをイメージさせ、私の伝えたことを、そこに書かせる』。A君には1時間ほど早く教室に来てもらい、最初は、私が、短い文章なり、計算式なりをゆっくり読んで聞かせ、彼には、それを復唱してもらった。そんな指導の記憶は、3ヶ月ほどで途切れている。きっと何らかの事情で、彼は、私のもとを去って行ったように思う。
今、私は考える。盲目の天才シンガー長谷川きよしさんは、素晴らしいテクニックでギターを奏でながら、歌を唄う。ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールで優勝した、盲目のピアニスト、辻井伸行さんの奏でる素晴らしいピアノの演奏。人は心の中に『感性』という、美しいキャンバスを持っているのではないだろうかと・・・。40代半ばになったはずの、A君は今頃どうしているのだろうか。
Blueさんのために。『別れのサンバ』歌 長谷川きよし 作詞 作曲 長谷川清志
You Tube https://www.youtube.com/watch?v=sqqhZ6W2fDY
何んにも 思わず
涙も流さず
あなたの 残した
グラスを みつめて一人
みんなわかっていた
はずなのに
心の奥の寂しさを ああ
わかってあげれば
別れも知らずに すんだの
きっと私を つよくだく時も
あなたは一人寂しかったのね
あなたの 愛した
この髪さえ 今は泣いている
今は泣いている 今は泣いている
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