15、スースーする
女は、そうあろうとするから女なのか
媚びたいのではない
ただ、自分自身を愛したいのだ
ーじゃまくさいな…
「えー?何その下着ー?」
「ヤバ、綿パン?」
ーこの二人、早く出掛けてくれないかな…
「デートの時もそれだったの?」
「え?彼氏いたことあんの?」
「マニアだよ、マニア」
「あははは」
ーうるさい。ほっとけ
シェアハウスの庭で洗濯物を干していると、何故か興味深げにじろじろ見てくるシェアメイトがいた。
もうすぐ他所へ引っ越すことが決まっている通称ぶんちゃんと、私がシェアハウスを見学しに来た時に飛び入りして、ハウスオーナーのジョンに“おかしな娘”と呼ばれていた通称あっすんだ。
私の綿素材の下着を見て、ダサいダサいと冷やかして暇つぶしをしている。
昔から敏感肌で化繊の下着は肌に合わないから、綿素材が好きなのだ。
そして私は、他人に干渉されるのも苦手だった。
それなのに、この二人は私が何をしてても干渉してくる。
食事は各自でそれぞれ自炊するのだが、料理する時間は皆かぶる。
あっすんは料理が得意で、ぶんちゃんは何でもそつなく器用にこなす。
私にとって料理は面倒くさいとしか思えないので適当に済ましていたら、ここでもまたあの二人だ。
「ねえねえ何作ったの?」
「何その盛り付け?まずそー」
「ひとくち食べさせて」
「…うん、味は、ふつう」
「でも見た目ヤバいよね」
ーああ、ゆっくり、ひとりで食べたい
私は三人兄弟の末っ子で上二人はやんちゃな兄、両親共いつも忙しい家庭に育ち、中学卒業後は故郷を離れ一人暮らしを始めた。
専門学校へ入学してからは学生寮で暮らしていたが皆それぞれ自分の世界観で生活していたし、社会人になりまた一人暮らし。
父親に頼まれて実家に戻ったのが22歳の時。その頃の母親はひどい更年期障害に悩まされていて、夜中にふらふらと家を出ていったり、叫びながら窓ガラスを叩き割っていた事もある。
一緒に暮らしてはいてもそれぞれの生活で手一杯だったから、こんなに私のする事や持ち物にいちいち突っ込んでくる人達に出会ったのは生まれて初めてのことだった。
これが世間一般的な女社会なのだろうか、くっついて、干渉して、ターゲットを定める。
うるさくて、じゃまくさくて、どうしていいか分からない。
ーどうやったらこんなに、他人に興味が持てるんだろう…
ある時、ぶんちゃんのお気に入りのホットパンツが破れてしまい、私が繕って直してあげることになった。
「え?お裁縫できるの!?」
「うん。出来るよ、専門学校は服飾科だったし、得意だよ」
「えー?意外!」
「そう?」
チクチクとデニム生地を縫い合わせていく私を、しばらくじっと見つめていたぶんちゃんがこう言った。
「ねえ、何でそんなに優しいの?」
ー 優しい、のかな私…。そんなつもりは無かったな、破れていた箇所が大事な部分だったし、私になら縫い合わせられると思ったし…
「何言ってもぜんぜん怒らないし。
どうやったら、そんなに他人を気にせずに居られるの?」
私とぶんちゃんが、全く真逆の疑問を持っていた事がとても可笑しかった。
性格が真逆だと、持つ疑問も真逆なのだ。
それでも、分からない部分は共通していた。
その日からぶんちゃんは私と良い距離感を保ってくれるようになったし、私は後日、とても久しぶりに、他人の目を気にしながら可愛い下着を購入した。
身につけると、今までよりスースーと風通しが良く、女であることを密かに再確認する自分がいた。
つづく
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