周が予約していたのは、高台に立つ全面ガラス張りのフレンチレストランだった
眼下には先程までいた冬の海が、まるで絵画のように広がっている
「こんな素敵なところ、いいんですか?」
案内された窓際の席で、ちひろは場違いな自分を恥じるように身を縮めた
周は慣れた手つきでナプキンを広げ、悪戯っぽい笑顔を見せる
「ちひろはいつも頑張ってるから、ご褒美だよ」
「べつに、大したことしてませんけど?」
ごく普通の家庭で育ったちひろには、大学生のひとり暮らしもアルバイトもあたりまえのことだった
「いいから食べよう、朝飯を食べ損なって腹ペコなんだ」
「えっ?」
「ちひろに会えるのが楽しみで、昨夜はなかなか寝つけなくてさ。今朝は盛大に寝坊した」
周は照れくさそうに、そんな子どもじみた言い訳をする
「嘘ばっかり、いくらなんでも信じませんよ」
「ほんとだって!」
初めて出会った時のクールで大人びた印象は、最近の周からは感じられない
それがちひろには嬉しかった
運ばれてくる料理はどれも宝石のように美しかったが、緊張のせいか味はいまひとつわからない
「美味しい?」
テーブル越しに、彼の手がちひろの指先に触れる
一瞬
レストランの華やかな喧騒が遠のき、この世界にふたりきりしかいない感覚に陥った
ここは、外界からは決して見えない硝子の城
デザートのプレートから漂う甘い香りが、魔法のように、ちひろの心を溶かしていく
「さて、ここでクイズといこう」
突然、周が眉間にシワを寄せ神妙な顔つきで問いかけた
「今日はなんの日?」
「…え?」
ちひろはポカンとして周の顔を見つめるだけで、答えはいつまで経っても出てこない
「ちょっと、嘘だろ?えっ!?俺、もしかして間違えた!?」
慌てふためく周の姿に、ちひろの方が焦ってしまう
「いったい、どうしたんですか?水上さん」
「1月20日って、ちひろの誕生日じゃなかったっけ?前に見せてもらった学生証にも書いてあったし」
「あっ!」
今週は学校に提出するレポートの作成に追われ、自分の誕生日を気にする余裕はまったくなかった
「忘れてたの?ちひろらしいね」
あきれたように笑いながら
「21歳の誕生日、おめでとう」
周はジャケットのポケットから、小さな箱を取り出した
つづく↓

