周が差し出した小さな箱

「開けてみて」

その中には手のひらに収まるサイズの砂時計が入っていた

砂の入ったガラスを囲むゴールドの支柱には、繊細な細工が施されている

「綺麗…」

男が女に砂時計を贈ることに、どういう意味があるのかはわからないが

予想外の展開に、ちひろは少し戸惑っていた

「気に入らなかった?ほんとはアクセサリーにしようか悩んだんだけど…」

『重いだろう?』という言葉を、周はギリギリのところで飲み込んだ

重いかどうかは、ちひろが判断することなのに

先回りして勝手に決めつけたことを、今になって後悔していた

「ちひろの好みがわからなくてさ。やっぱりサプライズじゃなくて、ちゃんとリクエストを聞けば良かったな、ごめん」

とっさに口をついて出た言い訳も、完全に嘘というわけではない

「ううん、すごく嬉しいです…っていうか、これって中に入ってるの、ただの砂じゃないですよね?」

店内の照明を反射して、こぼれ落ちる度に火花を散らすように輝く無数のまばゆい粒

箱を包んでいたシックな包装紙を良く見ると、そこには宝飾店のロゴが印刷されている

「わかる?特殊な技術で細かく粉砕したダイヤらしい。ダイヤモンドパウダーっていうんだって」

食後のコーヒーを飲んでいた周がサラリと言う

「ダイヤ!?もらえません、そんな高価なもの」

ちひろは驚き、手に持った砂時計を落としかけた

「あっ、違う違う!そんな高いもんじゃないんだって!ちひろが今、想像した値段の10分の1にも満たないくらい」

「超能力者でもないのに、わたしの考えてることがわかるんですか?」

ちひろが周を軽く睨むと

「ほんとに大した物じゃないから受け取って。それで、たまにでいいんだけど…」

彼はコーヒーカップを静かに置き、窓の外に視線をやってつぶやいた

「その砂時計のダイヤが落ちるのを眺めてさ、3分間だけ俺のことを思い出して」

「…っ!」

砂時計は

気まぐれに逆さにした刹那にだけ溢れる愛情

彼がそこまで深く考えて、これを選んだとは思えないが

無意識の内に、そんなイメージを重ねていたに違いない

ちひろが必死に泣くのを堪えていると

周は正面に向き直り、とびきり優しい顔で微笑んだ

「好きだよ、ちひろ」



つづく↓