最後の席に残る男
私は取引先の会議を終え駅前の喫茶店で友人の H と待ち合わせていた
H は私より 1 歳年上で同じ業界で働いている
H の話す「生き残る人間の条件」がいつも妙に刺さるのだ
「で、今日はどうだった?」
H はコーヒーを一口すすりながら私の顔を見た
「A 社と B 社の決算発表があったんだ。A 社は過去最高益、
B 社は 3 期連続の赤字で、リストラも発表された」
私はそう言ってノートパソコンを開いた
画面には、両社の業績グラフが並んでいる
「面白いな。A 社と B 社、10 年前はほぼ同じ規模だったろ?」
「そう。B 社のほうがむしろ勢いがあったくらいだ。でも、今は全然違う」
H はうなずき、ゆっくりと話し始めた
「最後に生き残る人間が頂点に立つ。世の中にはなあ、
頭の良い人間も才能のある人間も山ほどいる。だが、最後に残る人間は少し違う」
私はコーヒーカップを置き、話を聞いた
「生き残るやつには共通する条件がある。
1 つ、負けても席を外さない。
勝つ人間は 1 度や 2 度必ず負ける。だから、本当に残るやつはそこで消えねえ。
最後まで席にしがみついたやつが、結局は勝つんだ」
「A 社の社長は、10 年前に大失敗したんだ。新事業に巨額投資して、大赤字になった。
でも、辞めなかった。責任を取って辞任する声もあったが
『私が決めました。この責任は私が取ります。でも、この事業は続けさせてください』
と言って、席にしがみついた」
H はうなずいた
「2 つ、敵をむやみに回しすぎない。才能のあるやつほど強く出すぎるが、
長く残るやつは違う。勝つところは勝つが、不要な敵は作らねえ」
「A 社の社長は、競合他社とむやみに戦わない。必要な戦いはするが、不必要な争いは避ける。
だから、業界内でも『あの社長とは話し合いができる』と言われている」
「3 つ、約束を守る。世の中は能力より信用で動く。約束を守る人間は必ずまた呼ばれる。
信用こそが人を残すんだ」
私は A 社のことを思い出した
「A 社は、納期を 1 日も遅らせない。無理な受注はしない。でも、約束したことは必ず守る。
だから、取引先から『また頼みたい』と言われる」
H はコーヒーを一口すすり続けた
「4 つ、焦らない。焦ったやつは無理な勝負に出て自滅する。生き残るやつは地味でも
着実に続けるんだ」
「B 社は、3 期連続の赤字で焦って、無理な M&A をやったんだ。でも、失敗して、
さらに赤字が拡大した。A 社は、地味だが、確実に利益を積み上げている」
「5 つ、最後に責任を引き取る。何かあった時、『私が決めました』と覚悟を決めたやつは
必ず残る」
私は A 社の社長が記者会見で言った言葉を思い出した
「『今回の赤字は、私の責任です。しかし、この事業は会社の未来に必要です。
私が責任を持って、必ず黒転させます』」
Hはうなずき、最後に言った
「頭の良さや才能も一時は役に立つ。だが、最後に全部持っていくのは、
静かに、しぶとく、残り続けた人間だけだ」
私はコーヒーカップを置き深くうなずいた
「A 社の社長は、決して天才ではない。でも、この 5 つの条件を、すべて満たしている」
「そうだ。B 社の社長は、頭が良くて、才能もあった。でも、負けた時に席を外した。
敵をむやみに作った。約束を破った。焦って無理な勝負に出た。責任を取らなかった」
Hは、窓の外を見た
「最後に生き残る人間が頂点に立つ。それは、業界でも、会社でも、人生でも同じだ」
私は A 社の社長のことを思った
静かに、しぶとく、残り続けた男
彼が、最後に頂点に立つのは、きっと間違いない













