前回の「愛のプレリュード」に引き続き、
カーペンターズ(The Carpenters)の作品。
愛のプレリュードはR.ニコルズの作曲作品
でしたが、今回は正真正銘、リチャード・
カーペンター氏自身の作品です。
1973年の「イエスタデイ・ワンス・モア」
(Yesterday Once More)
前回の「愛のプレリュード」に於いて、
カーペンターズの音楽的な「白さ」に
ついて言及しました。
白さと言うのは白人的であり、かつ、
音楽的には、ピュアにダイアトニック的
であるという意味なのですが、
R.ニコルズやB.バカラックといった
他者作品ではなく、カーペンターズ自身の
作品ではその辺りはどうなっているのか、
そんな興味で、今回の「イエスタディ・
ワンス・モア」の楽曲内容を簡単ですが
見させて頂こうと思います。
(以下は大変細かな内容となりますので、
カーペンターズや楽曲分析にご興味のある
方のみ是非ご覧ください)
大変美しい旋律を持つ曲ですが、
耳のいい方なら、この冒頭からの和声は
「あれだな」とすぐに感じるはずです。
私はピアノに向かい改めて認識しました。
カノン進行です。
(厳密にはカノン進行の派生的な進行)
バロック期に編み出され、今や西洋的音楽
全般において、お馴染みの作曲手法の王道
中の王道と言える進行と言えると思います。
この進行を使うとほぼ名曲となってしまう
と思われるぐらいの力を持つ進行ですね。
古今東西を問わず、軽音楽分野において
この進行を流用している楽曲は非常に
多いのではないかと思います。
この進行は今までもいくつも見てきており、
(ロックやポップスでは本当に多いのです)
他の曲にしたほうがよいかと思いましたが、
折角ですので、拝見いたしたいと思います。
(ヴァース/Verse)
イントロから、かなりストレートなピアノ
のコード弾きで始まります。
昔の記憶と少し違いました。
和音進行(和声)はEキー(ホ長調)で、
イントロのEの1小節から引き続き、
①E→②G♯m/D♯→③C♯m→④C♯m7/B
⑤A→⑥B/G♯→⑦F♯m→⑧Bで一巡。
(丸数字は小節数)
ご覧の通り、バス音がEキーの
ダイアトニックスケールをきっちりと
一音づつ下降していきます。
バス主体に度数表記をすると、
①1(8)→②7→③6→④5→⑤4→⑥3→
⑦2→⑧5となり、最後の⑦⑧で一応
ツーファイブを作り、⑧のドミナントから
トニックに一巡するわけです。
和声をディグリーネームで表記しますと、
①Ⅰ→②Ⅲm→③Ⅵm→④Ⅴ→
⑤Ⅳ→⑥Ⅲm→⑦Ⅱm→⑧Ⅴ
(1・3・6・5・4・3・2・5)
という感じでしょうか。
(②の部分、上が7で下が3でおかしいと
感じるかもしれませんが和音の転回と
バス部に何を強調するかという和音の
表記上の事です)
まさに王道中の王道の進行です。
♪When I was young I'd listen to the
radio.Waitin' for my favorite songs
When they played I'd sing along,
it made me smile
♪私が若かった頃、ラジオを聴いて、
大好きな曲が流れるのを待ちながら、
彼らの演奏に合わせて歌うと、
私は微笑むことができたの.....
拙い和訳で面目ないですが、
この曲の収録されたアルバムにおいては、
カーペンターズが影響を受けた様々な
60年代楽曲をメドレーでカヴァーし、
この曲はその冒頭での演出というか、
プロローグのようなものとして企画された
ようですね。
つまり、若い頃に聞いた「曲たち」を
少し感傷的に懐かしむ、というような...
そのカヴァーのメドレーには、
ビーチボーイズの「Fun Fun Fun」(1963)や
シフォンズの「One Fine Day」(1963)など、
どちらかというと陽気で底抜けに明るい曲
が主体であるわけなのですが、
詩の中の「彼らの演奏 = they played」
というのは、まさにこのビーチボーイズ
などのロックやR&Bのバンドやグループ
の事を表現しているわけですね。
この曲が歌われたのが1973年。
当時23歳の女性が「若かった頃」と感じる
のはさしずめ5~10年位前だろうと思うと、
1960年代のロック音楽に対する彼女らなり
のオマージュという事なのでしょうね。
(カレンの直接の作詞ではないですが....)
カレンがビートルズ、特にジョンフリーク
であったことはカヴァー曲のセレクトでも
わかりますし、20年くらい前にリチャード
氏が来日した時に、テレビ番組で三大Bが
アイドルだと話していたのを思い出します。
三大BとはBEATLES、BEACHBOYS、BACHARACH
ということだと話していました。
(しかし、よく考えてみますと、
1973年も1963年も今ではどちらもOLDIES
であり、クラシカルポップなわけなので、
音楽界における当時の10年というのは、
今よりも変化感のある長く感じる期間
だったと言えるかもしれませんね)
さて、この曲のカノン進行に関して、
大事なことに触れなければなりません。
彼らの振り返る1960年代の事でです。
この曲のヴァースのカノン派生の進行は、
1967年リリースの、あの二大名曲と実は
ほぼ同じなのです(キーは違います)。
ずばり、プロコルハルムの「青い影」と
ビートルズの「A Day In The Life」です。
この「イエスタディ・ワンス・モア」とは
随分と曲調が異なりますが同じなのです。
恐らく、ロック界やポップス界において、
このバロック的進行が一般化したのが、
この2曲による影響と思われるのです。
特に「青い影」の影響力というのは、
現在まで半世紀という時間を経て、
いまだに影響を与えている大きなエポック
であったと言えるわけです。
リチャード氏がこうした進行の曲を作る時、
この二曲を意識下に置かなかったという事
はまず考えられないと思います。
しかし、リチャード氏はこの2曲との
印象の差異をもたせるための工夫として、
一つの事をこの曲に施したとピアノで
和音をなぞっている時に感じました。
それは一つ一つの和音の間隔をひろげ、
ゆったりした間隔の和音進行とした事です。
前二者の和音進行は1小節2和音という、
カノン進行と同じものであるのですが、
この「イエスタディ~」は1小節1和音に
なっており、そのことによる効果なのか、
切ないけれど、伸びやかで何とも言えない、
ほの明るい感じに仕上がっており、
一見カノン進行には聞えない音像になって
いると感じるのです。
たったそれだけ(間隔を広げる)の事ですが、
リチャード氏の強い独創性を感じられると
私は思いました。
(私見ですが、カノン進行というのは、
自然音階の全ての音をなぞって下降的に進む
関係上、メジャーキーであっても平行調の
マイナーキーのような音像が、旋律の選択音
と流れ次第では度々現れやすいと感じており、
先に挙げた「青い影」などはどちらかという
と平行調的なマイナー音像になっていて、
「イエスタディ~」は直接的なメジャー音像
になっている、というような表裏性を持って
いると感じています)
(ブリッジ/Bridge)
一般にブリッジと呼ぶような長さを
持っていませんが、ヴァースの最終部の
♪But they're back again
Just like a long lost friend
All the songs I loved so well.
この部分を便宜上、ブリッジとしました。
①C♯m7→②C♯m7/B→③A→A/G♯→
④A6/F♯→A/B→A6/B
ここを敢えて、分離したのは、
Eの平行調のC♯mに転調したという解釈も
可能と思ったからなのです。
ここでの憂いのある旋律がそれを
(音階上の△7th音が活かされています)
顕していると感じるわけです。
しかし、あくまで平行調のため、
スケール変化などはありませんし、
そのままEキーとして捉えてもいいとは
思いますが、恐らく、平行調への一時
転調がなされている箇所と判断して
よいのではと思います。
(サビ/Chorus)
♪Every Sha-la-la-la
Every Wo-o-wo-o
Still shines
♪どの「シャ・ラ・ラ・ラ」も
どの「ウォー・ウォー」も
いまでも輝いている.....
拙い和訳で度々面目ないですが、
かつて、この歌詞は単なる擬音語だと
思っていたのですが、今回これの意味
が明確に判りました。
これはR&Bやロックにおける典型的な
コーラスパートを持つ曲達の事を意味
しているわけですね。
R&Bにおける「シャ・ラ・ラ」は定番的な
バックコーラスのフレーズですしね。
だから、すぐに彼ら自身の歌声で
♪シュビドゥワ・ワ~という典型的な
60年代コーラスフレーズが詩の内容に
合わせるかのごとくにバックコーラス
されるわけですね。
和音進行はここでは再度明確にEキー。
基本的にはヴァースからブリッジそして
サビをEキーで通底させています。
(平行調の箇所があるとしても)
それにもかかわらずのこの抑揚...
単一的調性で、よくこれだけの表情を
持たせることができるなと感心します。
ちなみにこのヴォーカルの旋律の中で
ダイアトニックスケール上の6音は
満遍なく使われますが、1音だけ、
初めから終わりまで、全く使われません。
それは「Ⅳ(第4音)」です。
この意味合いの解析には私の興味が湧き
ますが、記事内容から逸脱しますので、
割愛いたします。
(全体)
同じ和音進行を持つ先輩達の名曲に対し、
彼らなりの差異化を持たせたオマージュ...
私はこの曲の意味合いをこんな風に
捉えました。
そしてさらに、大胆にこう解釈しました。
「イエスタディ = むかしの名曲」を...
「ワンス・モア = 自分達の名曲」で...
昔を懐かしむ、といった、
ただの記憶の反芻という感傷に
とどまっているだけではない、
もっと能動的な強い意識の表明....
私は「イエスタディ・ワンス・モア」を
今回、そういう曲として捉え直しました。
しかし、今やこの曲そのものが、
もう「むかしの名曲」なわけですね。
そして、王道的なカノン派生の進行。
この曲においては、そもそも主調ないし
平行調の自然音階外の音は全く出ません。
(追々確認しますが)
よってこの曲からも、カーペンターズ
の「白さ」とピュアなダイアトニック
音像は証明されたと思います。
(しかし、考えてみますと、この曲で
彼ら自身が振り返っているように、
彼らはR&B系の影響もあるわけなので、
当然にブルーノートスケール系統は
インプットされていると思われるわけ
ですが、作曲というアウトプットでは、
そうした「黒さ」を感じさせません。
それも一つ不思議な点です)
また、平行調への転調は感じられるものの、
基本的には単一的調性で
(平行調は音階変化のない最近親調のため、
単一的調性と捉えていいとは思います)
自然音階以外のノートを加えずに、
和音の順列と組み合わせを繰り返し、
大らかな抑揚をつけて、音像的に豊かな
表情を持たせるリチャードの作曲と編曲術。
そして、その微妙な変化感のある曲調を
魅力的な中低音でより際立たせるカレンの
声そのものの力による歌唱術。
この二つの要素の見事なブレンド。
これがカーペンターズ音楽の最大の
魅力と言えるのでしょうね。
(昨日、アップ後に削除しましたのは、
この平行調転調が独特のカーペンターズ
らしい「明るいけれどちょっと寂しい」
テイストを醸しているのではないかと
感じ、もう少し掘り下げなければいけない
と思ったためでしたが、これはまた機会
あれば掘り下げる課題といたします)
※文中のリンクは私の過去記事です。
宜しければ是非ご覧ください。
ポップス名曲選/過去記事一覧
第1回「そよ風の誘惑」(1975)/Olivia Newton-john
第2回「恋よさようなら」(1970)/Dionne Warwick
第3回「So Much In Love」(1982)/Timothy B.Schmit
第4回「Clair」(1972)/Gilbert O'Sullivan
第5回「愛はかげろうのように」(1977)/Charlene
第6回「愛ある限り」(1975)/Captain&Tennille
第7回「愛のプレリュード」(1970)/Carpenters