彼の「アローン・アゲイン」と並ぶ名曲、
1972年発表の「Clair(クレア)」です。
(以下はお好きな方だけ是非ご覧ください)
ギルバート・オサリバンのジャンル分けは微妙です。
ロック畑出身ですが、曲調はポップス的。
だからロックでもいいし、ポップスでもいいという感じ。
もう一つの名曲である「Alone Again(アローン・アゲイン)」は、
私のロック名曲百選のほうに収録しています。
♪Clair.......
というふうに始まる出だし、とても印象的だと思います。
個人的に、おそらく子供時代に何らかの形で耳に刷り込まれ、
幼き日々を思い起こしてくれるかのような、
そんな郷愁感に満ちています。
実際の詩作内容は、よくわかりませんが、
当時のPVのような動画に表現されているように、
主人公と姪とのほのぼのとした交遊らしいです。
(実際にはかなり複雑な内容があるようですが、
個人的にアーティスト個人には殆ど興味が無いため割愛します)
聴いた感じ、シンプルに感じるかもしれませんが、
なかなかに工夫とセンスに満ちた楽曲の構造をしています。
(以下は非常に細かい内容となるため、特にお好きな方だけ是非ご覧ください)
さらっと、ヴァ―スだけですが、
この流れの仕組みを見てみたいと思います。
(楽曲の構造には興味があります)
ヴァ―スというのは、通常は前奏後の歌詞旋律部のことを指しますが、
日本的なガラパゴス的呼称ですと「Aメロ」ということになります。
このヴァ―スの和音進行は、基本的にはF♯mキー(嬰へ短調)で、
ディグリーネームでは「1・4・7・5」になりますが、
こうした単純な進行表記では十分に曲調を表せないのが、
ギルバート・オサリバンなどの良質なソングライターの曲。
バート・バカラックなどにも共通していますが、
それはヴォイシングが非常にしっかりしているためと言えます。
ヴォイシングとは、旋律の和声付けのことです。
つまり、進行そのものよりも、
旋律の動きとそれを飾り補完する様々な付加音による、
非常にデリケートな和声による表情の変化が重要と思います。
具体的なコードチャートで、和声を歌詞に合わせてみますと、
F♯m7 F♯m7/C♯
Clair,
Bm7 Bm9/F♯ E7 E7/B
the moment I met you, I swear
C♯m7 C♯m7/G♯ F♯m7 F♯m7/E
I felt as if something, somewhere
Bm7 Bm7+11/F♯ E7/G♯ E5+7/B
Had happened to me, which I couldn't see
※スラッシュはonバス音を表しています
私が独自に設定したこのコードチャートは、
実際のピアノが出しているもう少しシンプルな和音ではなく、
ベース音や旋律などを加味した全体感から考えています。
ピアノ単体での弾き語りなどで全体を表現する場合は、
こんな感じが最も的確なのではと思います。
既存の楽譜やコードチャートと是非弾き比べください。
このコードチャートでは、各和音にバス音の動きを入れています。
特に「第1音(ルート)→第5音(下方4度)」が基調です。
(彼のライブでの奏法を見たら一部しかやっていませんでしたが)
第5音とは、スケール上の第5音ではなく、各和音の5thです。
ギルバート・オサリバンのこうした緩やかな曲調では、
このバス音の「1→5」の動きは入れておいたほうがベターと、
個人的には思います。
こうすることで、実際のこの曲の醸し出している雰囲気に、
より近づくことができるのではないかと思います。
ただし、合奏形態でやる際には他楽器と被るので、
この動きは鍵盤ではしなくても良いとは思います。
進行的なポイントとしては、
ひとつは「1→5」のバス音の動きではない、
「F♯m7→F♯m7/E」の「1→7(下方2度)」のバス音の全音下降のクリシェ。
この部分はこのヴァ―スでも特に変化感を感じる大事なポイント。
もうひとつは同様に「1→5」の動きではない、
「E7/G♯→E5+7/B」の「3→5」のバス音の上昇の動きの部分。
繰り返しの直前の技巧的なセンスを感じさせるポイントです。
両者ともに、旋律とうまくシンクロさせた、
デリケートで、ハッとさせる場面になっていると感じます。
また、このヴァ―ス部は7小節×2回という変則的な構造を
持っていることもひとつのポイントと言えます。
そして、この貼り付け動画の場合、1:54くらいに現れる、
アコーディオンのような音色のハーモニカのソロ(実際の楽器は不明)。
聴感的に一瞬、おっと感じさせます。
これは、ソロ場面での珍しい半音転調(ラストなどでは多いのですが)です。
F♯mの半音上のトニックであるGm7に突然移動します。
しかし、すぐになんとも渋く、もとに復調.....
復調の仕方は、元キーの半音上のGmキーの「3の和音」であるB♭から、
突然DキーのⅡmであるEmに飛び込み、すぐにDに解決し、
そのままD△7の和音型をピボットにしてF♯mのトニックに戻ります。
(D△7は元キーの6の和音のため、F♯mの代理コードでもあります)
しかし、DキーのⅡmに飛び込むところはかなり強引と感じられます。
よって、やや違和感を感じると思いますが、渋くもそれなりに復調します。
こうした細かなアクセントを曲中に随所に盛り込むことも、
この人の曲のデリケートな奥深さの秘密なのだろうと思います。
また、多分にビートルズを意識していることも感じさせます。
ギルバート・オサリバンの楽曲を探っていきますと、
特に和声的に、旋律と連動した表情的な豊かさを強く感じさせます。
また構造的にも、細かな工夫が目立たぬように施されていて、
そのふたつの感触は、バート・バカラックと同様のものと言えます。
この両者は、音楽的出自は違えど、おそらく作曲家の境地として、
同じような「景色」を見ていたのではないかと思います。
ポップス名曲選/過去記事一覧
第1回「そよ風の誘惑」(1975)/Olivia Newton-john
第2回「恋よさようなら」(1970)/Dionne Warwick
第3回「So Much In Love」(1982)/Timothy B.Schmit
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